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二種類の忠誠心

聖堂を出てやって来たのは、だだっ広い庭だ。


森を切り開いて出来た庭は丁寧に草が刈り取られており、ドッペルの魔道具によって作られた芝生が綺麗に生えている。


この宮殿の管理はドッペルの仕事なので、三日に一度ぐらいのペースで芝生の調子を見ていたりするのだ。


おかげで、天然芝のサッカーグラウンドのような青々とした芝生が元気に上を向いている。


そんな庭に、三姉妹を始めとした今回戦争に参加する組が集まっていた。


「あ、団長さん」

「やる気満々だなシルフォード」


戦争に参加する組の代表的立ち位置であるシルフォードは、俺に気がつくとトテトテとこちらに近づいてくる。


太陽に照らされた銀髪は、その褐色の肌と相まって一段と光り輝いていた。髪だけではない。その目には、“やってやるぞ”と言う闘志が見て取れる。普段少し死んだ魚のような目をしたシルフォードとは大違いだ。


「うん。やる気満々。だって揺レ動ク者(グングニル)の名前を背負って戦争に行くんだよ?看板に泥を塗る真似は絶対にできない。たとえ死んででも、泥を塗ったりはしないから」

「いや、泥を塗ってもいいから生きて帰ってこい。名声なんぞ興味無いから」


サラッととんでもないことを言い出すシルフォードの頭に軽くデコピンをするが、シルフォードの決意は硬いらしい。


デコピンを食らっても、その目から闘志の炎が消えることは無かった。


それどころか、更にその炎は燃え上がる。


「私にとって、揺レ動ク者(グングニル)と言う名前は何者にも汚させてはならない名前。私の私達の居場所であり、私達の拠り所。それは命よりも重い。だから、団長さん。私、なんと言われようと泥を塗る真似だけは絶対にしないよ」

「うん。人の話聞いてた?後、揺レ動ク者(グングニル)を大切に思うなら、団長である俺の命令も聞こうね。一応、君達の雇い主なんだから。組織への忠誠心は大事だけど、それ以上に自分の命を大切にしてね?お願いだから」


最近気づいた事なのだが、この傭兵団には二種類の忠誠心がある。


1つは俺への忠誠。花音やベオーク、俺に大きな仮があると勝手に思っている厄災級魔物連中はこっち寄りだ。


もう1つは揺レ動ク者(グングニル)への忠誠。こちらは主に三姉妹と獣人組(ロナとリーシャは除く)、ドッペルとアスピドケロン辺りがこっち寄りである。


団長が俺である以上、俺に忠誠心があると言うことは揺レ動ク者(グングニル)に忠誠があると言っても過言では無いのだが、組織への忠誠は必ずしもその長への忠誠とはならない。


場合によっては長である者を殺してでも組織を生かすだろう。


良好な関係を築けている為俺はそういう心配はしていないが、今のシルフォードのように暴走したりされるのは少し面倒だった。


揺レ動ク者(グングニル)を大切に思うなら、自分の命も大切にしろ。一人でも欠けたら、俺達は揺レ動ク者(グングニル)じゃないんだよ。なぁ?そう思わないか?ストリゴイ」


俺はかつて一国家の王であったストリゴイに話を振る。


普段はおちゃらけている酒飲みだが、こういう所ではしっかりと空気を読んでくれる出来た大人だ。


ストリゴイは大きく頷くと、シルフォードの我が子のように優しく撫でてやる。


「団長殿の言う通りだ。王なくして国あらず、民なくして王あらず、国なくして民あらず。国だけではなく、組織というものは持ちつ持たれつの関係なのだ。中にはそこら辺を勘違いした王が、民を道具として使う者もいるが........シルフォードよ。団長殿は愚王か?」

「ううん。団長さんは........ジンは賢王」

「そうだ。組織のこともしっかりと考え、それに属する者の事もしっかりと考えている。まぁ、自由すぎて周りを振り回すのが玉に瑕だが、それを差し引いても賢王と呼べるだろうな。民なくして王あらず。我らが死ねば、ジンは王ではなくなり、王で無くなれば国も無くなる。組織を大切に思うのならば、自分の命も大切にしなさい」


分かりやすくシルフォードを諭したのが功を奏したのか、シルフォードは納得したように頷く。


さすがは元国王。俺とは違い、国を引っ張ってきただけはある。


俺が自由すぎる云々の話は、聞かなかったことにしてやろう。


「分かった。四肢がもげても死なないようにする」

「んー?我の言いたい事伝わって無くね?」


あれぇ?伝わってないぞ?


確かに死ぬなとは言ったが、誰が四肢がもげても死ぬなと言った?俺とストリゴイは怪我をしないように頑張れって言ったんだけど。


あまりに人の話を聞かないシルフォードに、俺もストリゴイも困っているとラナーが申し訳なさそうにこちらにやってくる。


「すいません、団長様。お姉様が話を聞かず........」

「話を聞いていないと言うよりは、話を聞いた上で理解してないって言った方が正しいようだけど。シルフォードってあんな感じだったけ?」

「普段は普通ですよ。でも、揺レ動ク者(グングニル)の面子に関わる話になると少し暴走するみたいでして........ほら、私達はもう居場所がここしかないじゃないですか」

「そうだな」


俺はラナーの言葉にゆっくりと頷く。


俺たちに出会った経緯も、彼女達が住んでいたダークエルフの村が悪魔によって滅ぼされたからだ。


彼女達の居場所は、ここしかない。


「お姉様は、二度と失いたくないのかもしれません。居場所が無くなるのは悲しいですからね」

「それで死なれるのは困るんだがな。残された側の気持ちは分かってるだろうに 」

「私もトリスも分かってますが、ほら、お姉様ってちょっとお馬鹿でしょ?」

「お馬鹿と言うか、抜けてるな」

「そこが可愛いところなんですけど........まぁ、安心してください。お姉様が馬鹿やらかそうとしたら私達が止めますから」


そう言ったラナーの顔は、真剣そのものだった。


唯一残された家族を失う真似は絶対にしたくないだろう。ましてや、敬愛するお姉様なんだからな。


俺はラナーの肩に手を置く。少し力が籠ってしまったのは、やはり心配だからなのだろう。


なんやかんや二年も一緒に暮らしていれば、情は深くなるのだ。


「頼んだぞ?」

「えぇ、任せてください。揺レ動ク者(グングニル)に名を置く者として、その看板に泥を塗ることなく団長様の望む結果を差し出して上げましょう。私達は最強ですから」


........うん。やる気なのは結構なのだが、なんかみんな口調が少し厨二臭くない?


俺はとっくの昔に治すのは諦めたのだが、そのせいか随分と厨二病が伝染していっているように思える。


ストリゴイとか素で厨二臭い口調のやつもいるから、その影響を受けやすいのだろうか。


そんなどうでもいいことを考えながら、俺は戦争に赴く同志達に声をかけた。


「全員!!必ず五体満足で生きて帰ってこい!!俺達の名前に泥を塗る云々は考えるな!!泥を塗った時は、俺達が綺麗に拭いてやる!!思う存分暴れて来い!!」

「「「「「「血に錆びた槍の元に!!」」」」」」


いつの間にか、掛け声と化したその言葉を最後に、神をも穿つ神槍は戦場に降り立つのだった。


さて、おれも観戦するとしよう。心配事が増えたりもしたが、多分大丈夫だろ。

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