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一時の平穏......平穏?

 厄災級魔物達が国を滅ぼし、世界にその力を再び示してから1週間。


 俺達は、一旦平穏な一時を過ごしていた。


 ブルボン王国南西部の荒野では今日も今日とて血で血を洗う殺し合いが繰り広げられていたり、他の小国でも戦争が起こっていたりするので、世界的に見れば“平穏”の2文字は欠片も見当たらないのだが、少なくとも俺達は平穏である。


 起こしたら周辺国家が滅ぶと言われている“浮島”アスピドケロンに守られた我が拠点は、戦争に巻き込まれることなんてないからな。


 幾ら馬鹿でも、厄災級魔物に手を出したらタダでは済まないと理解しているのか、アスピドケロンを目覚めさせて周辺国家を消してやろうと考えるど阿呆は現れない。


 そんなことをすれば、間違いなく実行犯は死ぬし、運が悪ければ自分達の国も滅ぶとなれば戦争が始まって間もない今取る手段ではないだろう。


 敗戦濃厚になれば、ワンチャンにかけて仕掛けてくるかもしれないが、生憎アスピドケロンは俺達の仲間であり、ちゃんと理性のあるいい子だ。


 もし、アスピドケロンを目覚めさせようとしたところで、被害を被るのはその愚かな国になる。


 そんなわけで、どこぞの悪魔以降、侵入者がいないこの拠点では平穏で緩やかな空気が流れていた。


 「暇だな。戦争中だと言うのに、傭兵が暇してていいのか?」

 「しょうが無いんじゃない?厄災達が暴れすぎたせいで、教皇からしばらく大人しくしてろって言われたんだし。それに、今は順調に勝ち進んでいるからねぇ」

 「厄災級魔物が暴れたのはやり過ぎだったな。とはいえ、やらない訳にも行かないから仕方がないんだけど」


 厄災級魔物達が暴れ回って9ヶ国を滅ぼした(内1ヶ国は最上級魔物)のは良かったのだが、その惨状を知った教皇の爺さんは俺達にしばらくの間戦場に出ないようにと釘を刺された。


 味方すらも恐怖に陥らせるであろう厄災級魔物達の暴れっぷりは、教皇の予想を遥に上回っており、頭を抱えているそうだ。


 援軍がきたことを知っているバルバセス皇国なんかは、抗議文を神聖皇国に送り付けてきたらしい。


 自分たちの手で殺すのと、厄災の手によって殺される事に違いは無いのにな。


 アンスールが人間だったならば英雄として褒め称えられたと考えると、やはり魔物という存在は人々にとって“敵”と言う認識なのだろう。


 話せば意外と面白い奴なんだけどなぁ。


 俺は、隣で会話を聞いていたアンスールに視線向けると話を振る。


 アンスールは、今日特にやることがなかったらしく、暇つぶしとして俺のところに遊びに来ている。


 最近は囲碁がお好みのようで、置き石九つのハンデ戦をしていた。


 「なぁ?アンスール」

 「急に“なぁ?”って言われても分からないわよ。私はカノンのようにジンの思考を読めるわけじゃないから」

 「おっとそうだった。つい花音の感覚で話しちまったよ。酷いもんだよな。魔物ってだけで、悪者扱いだぜ?自分の手で人を殺すのは良しとして、魔物が人を殺すのは良しとしない。何が違うんだろうな?」

 「種族でしょ。私はアラクネで、相手は人間。それだけの話しよ。あぁ、あとは私が強すぎた事かしらね?人種ってホント弱いわ。下等種族の癖に、自分たちが絶対的強者だと奢っているからそれ以外の種族に殺されるのを良しとしないんでしょうね」

 「それだと、俺達も下等種族になるのか?」

 「何事も例外はあるのよ。そもそも、ジンとカノンは人外でしょ?」

 「酷くね?サラッと人外のとか言ったよこの人」

 「アンスールも容赦ないねぇ。まぁ、強さだけで見れば人外の領域にだとは思うけど」


 基本的に厄災級魔物達は、人種を見下している。温厚で口も大して悪くないアンスールですら“下等種族”だと言い切っているのだ。


 もちろん、その長い年月生きてきた経験から自分達にその牙を喉元に突き立てうる人種がいることも分かってはいるが、全体で見た場合は圧倒的に弱い。


 それでもここまで種族として繁栄してきたのは、その適応能力と繁殖力の高さからだ。


 魔物にとって、人間とはいわばGと何ら変わりない存在なのである。


 悲しきかな。前の世界では嫌われまくっていた存在に成り下がるとは........生物界の先輩とは言え流石に喜べない。


 俺は碁盤の上で繰り広げられる戦争に一手を興じながら、会話を続けた。


 「今までの中で強い人間っていたのか?」

 「いるじゃない。私の目の前に」

 「いや、そういう意味じゃなくて、俺たち以外でって話」

 「んー........居ないわね。今までで1番強かったのは本気で怒ったメデューサだったし」

 「メデューサねぇ........」


 俺は、今頃イスの異能の中でイスと一緒に遊んでいる精神年齢低めの厄災級魔物を頭の中に思い浮かべる。


 アンスールが昔言っていたが、怒らせるとヤバいのはメデューサらしい。


 アンスールは一度怒ったメデューサを止めようとした事があったそうなのだが、かなりの苦戦を強いられたそうな。


 その時は、異変に気づいたニーズヘッグとウロボロスが結界を張って被害を抑えたそうだが、その結界すらも石化され始めた時は驚いたと語っていた。


 幸い、途中で正気に戻った上に、ニーズヘッグとファフニールの異能によってあの島は元の姿を取り戻したそうだが、そのまま暴れ回っていたら島全体が石化していたのかもしれない。


 「メデューサちゃん。何でそんなにキレてたの?」

 「お気に入りの場所をゴブリンソルジャーだったかなんかに占拠されたそうなの。それでイラついて、皆殺しにしてゴブリンエンペラーの元に乗り込んだら舐められた態度を取られ、そのままプッツンよ。その場にいたゴブリン共を殺すだけじゃ飽き足らず、島全てのゴブリンを殺す勢いだったわ。ホント、あの時のメデューサは止めるのに苦労したものよ。止めようとした私達ですら殺しにくるんだから」

 「容赦なさすぎやろ........あの時、メデューサに舐めた態度とってたらって思うとゾッとするな」

 「よくやったぞあの時の私って奴だね。流石にあの時はメデューサに手も足も出ずに殺されてただろうし」

 「ジン達に出会った頃には随分と丸くなってたから、多少舐めた態度でも許してくれたとは思うわよ。見て直ぐに気に入る程だったしねぇ」


 だとしても怖ぇよ。


 メデューサがキレたらやばいとは聞いていたが、アンスールすらも殺そうとする程にまで暴走するとは聞いていない。


 メデューサは舐められる事が大嫌いだと言うのは知っていたが、そこまで暴れるとは........


 「これからも気をつけるか。あ、その手は握手だぞ」

 「そうだねぇ。親しき仲にも礼儀ありってね。アンスール、その手は悪手」

 「気をつけなさい。まぁ、いまの仁と花音なら返り討ちにすら出来ると思うけどね........待ったって使えるかしら?」

 「ダメに決まってるだろ?既に置石九つも置いてるんだから」

 「むぅ........」


 ガックリと項垂れ可愛らしく口を尖らせるアンスールを見て、俺はアンスールも怒らせないように気をつけないとなと心の中で誓う。


 誰に話を聞いても、アンスールがブチ切れたと言う話は聞かない。


 普段、全く怒らない人を怒らせた時、とてつもなく怖いとはよく言う。


 実は花音でもメデューサでも無く、アンスールを怒らせた時が一番ヤバイのではないか?と俺は密かに思うのだった。

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