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厄災の跡地

 その日、7ヶ国の国が滅んだ。


 滅んだ国は全て正教会国側のイージス教を信仰する国であり、神聖皇国側のイージス教を信仰する国にほとんど被害がなかった。


 唯一少し大きな被害としては、サルザテス連邦国の隣国に雪が降った事ぐらいだろう。


 それも何メートルと積もった訳ではなく、ちらほらと雪が降りた程度だ。


 「流石は厄災級魔物。時代は違えど、一国を容易く滅ぼした魔物は格が違うねぇ」

 「みんな結構スッキリした顔をしてたね。やっぱりたまには暴れさせた方がいいのかな?」

 「年に1回とかの頻度でやったら世界が滅びそうだな、それ。精々1000年に一度程度にしてくれないと」

 「その1000年に一度が重なり合って合計で九つの国が滅んだんだよ。一体何人の人が死んだのやら」

 「まぁ、こう言ってはなんだけど、私達には関係の無い人だからねぇ。知り合いがいるならともかく、赤の他人がどこで死のうが興味無いかな」

 「酷い言いようだな........否定はしないが」


 結局、人とはそういう生き物である。


 アゼル共和国の面々が死んだとかになれば俺も悲しむが、顔も人柄も知らない赤の他人に向ける哀悼の意は持ち合わせていなかった。


 可哀想にと同情する気も起きない。だって、手を下したのは俺たちだからな。


 花音は読んでいた報告書を見終わったのか、椅子の上に放ると俺の後ろに回って抱きついてくる。


 甘い匂いと柔らかい感触が背中から感じるが、それよりも目の前にある報告書に目を通す事の方が大事なので今は構ってやれない。


 少しつまらなさそうな顔をした花音は、その不満を隠すことなく俺に話しかけた。


 「構ってよ」

 「コレ見終わったらな。それにしてもえげつないな。終わった後に外に待機させてた子供達を送り込んでるが、何が何だかさっぱりだ」


 帰ってくるなり“褒めろ”と言わんばかりに自分達の成果を語る厄災達は、若干収まっていない興奮を連れて俺と花音の元に駆け寄ってきた。


 その時は皆が皆纏めて俺に向かって話してきたので、正直何が起こったのか分かっていなかったが、こうして文面で見るとさらに意味がわからない。


 俺の見ていた報告書に興味が湧いたのか、花音もそちらに視線を向けると声に出して読み始めた。


 「えーとなになに........肉塊になった人間や、骨だけになった死体が多く残っている。これはアンスールだね」

 「そうだろうな。アンスールが生み出した子供が暴れた結果さ。どうも国の人間を昼飯にしたらしい。しかも生きたまま食われたやつとかも居るから、その場にいたら阿鼻叫喚の4文字では表現しきれない地獄が広がっていただろうよ」


 尚、国を昼飯にしたアンスールは、現在我々傭兵団の夕飯を準備中だ。仕事熱心で本当に助かる。


 アンスールがいなかったら、この傭兵団割と食生活が終わっているかもしれない。


 「次は........巨人に踏み潰されたかのように、ペシャンコになっていた。これは、ジャバウォックだねぇ」

 「“粉砕する雷槌(ミョルニル)”だな。圧倒的破壊力で全てを叩き潰したそうだ。今頃ラナーに自慢してるんじゃないか?」

 「あぁ、仲良いもんね。ラナーとジャバウォック。この世界って異種姦ってできるのかな?」

 「さ、さぁ?どうだろうな。種族が近ければ出来るだろうが........」


 とんでもない話をぶっ込んでくるんじゃねぇ。反応しずらいわ。


 俺が困っているのが分かったのか、単純に興味がないのか。花音はさっさと次の報告に目を通す。


 「国そのものが石と化した。唯一残った人間は、あまりの絶望に自らの首を括って死んだという........なんか小説みたいな描き口になってない?」

 「なってるな。まぁ、こういう書き方の方がなんとなく想像できるからありがたいと言えばありがたいな。文字数が多くなって読む量増えるけど」


 これはメデューサの話である。本人が語っていたのをよく覚えているので、間違いない。と言うから石化の力を使えるのは、この傭兵団の中だとメデューサだけだからな。


 本人曰く、あまりにも自分を舐め腐った人間がいた為最後まで生かして国の滅びを見せてやったそうだ。


 しかも、石化した人をその手で壊させたりもしたそうで、本人は結構満足そうにしていたのが印象的だった。


 アンスールが、メデューサを怒らせるなと言っていた理由が今わかった気がするよ。メデューサに限らず、基本的に厄災級魔物達を怒らせるのはダメなのだが。


 その後も、段々と内容が小説チックになっていく各国の被害状況に目を通した。


 基本的にはどれもその国の滅びを確認できたのだが、ヨルムンガンドの“死毒”に侵された国だけはその現状を見ることが出来ていない。


 ヨルムンガンドの毒が残り続けてしまっているため、子供たちも近づくことが出来ないのだ。


 空からの偵察も考えたそうなのだが、どうやら空気中にも毒が待機しているらしく、毒耐性を持った子供ですら“これは無理”と言わしめる程の強力な毒の為偵察は断念。


 本人曰く“後数千年もすれば毒は分解されて自然に変える”そうだが、お前はこの戦争が後数千年も生きると思っているのか?


 本人はかなり真面目なので仕事はきっちりこなしていると思われるので、とりあえずいっぱい褒めておいてあげた。今頃シルフォードに自慢しているだろう。


 「やっぱり、ファフニールは意外だったな。もっと派手にやると思ってた」

 「なんだっけ?契約?とやらで故意的に自然を破壊しすぎるのはダメなんだっけ?」

 「急に後付け設定みたいなこと言い出しやがって........人間はキッチリ全員殺しているから問題なけど、そんな話聞いたことないぞ」


 1番派手にやると思っていたファフニールだったが、どうもやりすぎると契約違反になるそうで場合によってはファフニールよりも強い奴が出張ってくるそうだ。


 それを思い出したファフニールは、仕方がなく人種だけをピンポイントで燃やし灰に帰したようだが、契約なんて話は聞いたことがない。


 花音が上手くおだてて少し話を聞き出してくれたが、結局何も分からずじまいだった。


 「なんでも、創成期に結んだ契約だから忘れてたんだって。事実、ファフニールは何回かそれでやらかしてるみたいだし」

 「やらかしてたらファフニールよりも強い奴が出張ってくるんだろ?なんであいつ死んてないんだ?」

 「さぁ?そこまでは詳しく言ってくれなかったからなぁ。あ、でも私達が好き勝手にやる分には問題ないそうだよ。それこそ惑星を破壊する規模のことをやらなければ、干渉してこないみたい」

 「惑星破壊規模の事なんてしたら、俺達も死ぬじゃねぇか。そんなアホなこと俺はしないぞ」


 やりそうな上にできそうな奴はいるけど。


 俺はその手に持った報告書を置くと、肩に顔を乗せている花音の頭を優しく撫でる。


 猫のようにゴロゴロと喉を鳴らす花音は、気持ちよさそうに俺の頬に頭を擦り付けた。


 やはり、スキンシップが前の世界にいた時と比べて多くなっている。悪い気はしないからいいのだが、人前ではやるなよ?


 「叩けば叩く程謎が出てくるな。ファフニールの奴は」

 「この世界で最も歳をとっている魔物の一体だからねぇ。まだまだ色んな謎があるのかも?忘れてることとか、言えないこととか多そうだよ」

 「今度、それとなく本人に聞いてみるか........」


 俺はそう言うと、再び花音の頭を撫でるのだった。

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