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神正世界戦争:石となりては滅びを呼ぶ③

 本で読んだことがある。


 全てが石となった国。厄災“蛇の女王”メデューサの怒りを買ったその国は、国そのものが石像となってその時代から姿を消した。


 今は現存していないその国は、場所も分からずそもそも本当にメデューサと呼ばれる魔物がその国を石化したのかすらも不明な御伽話。


 全てが嘘であり、伝説として語られるだけの存在と惨状。


 あくまで子供の教育の為に聞かされる話であり、純粋な頃の子供はともかく酸いも甘いも経験した大人達は信じない。────────はずだった。


 「んぐっ!!んぐぁぁぁぁ!!」

 「Hey、ニンゲン。少しうるさいぞ」


 指揮官も伝説は信じないタイプの人間だ。神と言う神秘的であり、自分に都合のいい存在は信じているが厄災の存在はその目で見るまで信じていなかった。


 逃げ惑う兵士達は徐々に石となっていき、自分の体が石像と化す恐怖に怯えながらも抵抗できずに石となる。


 恐怖に歪んだまま石像となった戦友たちを見た指揮官の目からは、涙があふれる。


 その涙が、獣人の奴隷達に向けられていないあたり、正教会国側のイージス教を信じるものとしての本性が垣間見えるが、人間への涙は本物だった。


 蛇に縛り付けられ身動きの取れない指揮官は、自分の無力さを感じながら国が滅ぶのを眺める他ない。魔法は使えないこともないが、土属性の魔法はこの状況をどうにかできるほどのものではなかった。


 「んー久々に()を使っていマスが、流石にブランクが開きすぎですネ。目を使うのが少し疲れマース」


 布を外していたメデューサは、自分の目を再び覆い目を隠した。


 “石化の魔眼”


 指揮官の読んだ本にも書かれていたメデューサを代表する能力のひとつであり、見たもの全てを石に変えると言われている。


 その石化は一度石になり始めると解除をすることが出来ず、徐々に石になっていく恐怖で人々の顔は歪むと書かれていた。


 現に、指揮官の戦友達はそうなっている。


 誰しもがメデューサの殺気と迫り来る石化の恐怖によって、顔が歪んでいた。


 まさに地獄絵図。地獄を見た者が書いた絵ですらも、もう少しマイルドに描かれそうな惨状は指揮官の心を折るには十分だ。

 

 今は夜で視界が悪かったのだが、メデューサは夜になると光を発する蛇を生み出して態々人の歪む姿を指揮官に見せて楽しむ。


 普段は活発的な明るい性格の持ち主だが、一度キレると手の付けようがないほどやることがえげつなくなる。


 アンスールは一度メデューサがキレたところを見たことがあり、それ以降怒らせないようにと注意しているほどだ。幸いなのは、気に入った相手には何をされてもキレない所だろう。


 しかし、彼らは気に入られておらず、それでいてメデューサをイラつかせる言動が多かったのは運がないとしか言いようがない。特に、部下を守ろうと決死の覚悟で挑んだ指揮官は下ブレも下ブレを引いたと言える。


 彼が仁のように蜘蛛と蛇に好かれやすい体質であったなら、もう少し手心を加えて貰えたはずだ。少なくとも、痛みなく楽に殺してくれただろう。


 しかも、厄災は心をへし折るだけでは満足しない。


 何かを思いついたかのように醜く口元を歪めると、指揮官を縛っていた蛇に指示を出す。


 「んぐっ?!」

 「そういえば、ニンゲン。お前、こいつをよく見ていたナ?友人か?」


 無理矢理向きを変えさせられた指揮官の視線の先に映ったのは、仲のいい同僚だった。


 立場上自分の方が偉かったため公式の場では敬語を使う仲だったが、プライベートではよく酒を飲んで笑い合う友人である。


 彼は既に結婚しており、子供もいた。この戦争から帰ったら、愛する我が子と妻の為に何か美味しいものを食べに行きたいと語っていたのだ。


 指揮官は何も答えない。


 しかし、微妙な顔の表情は隠しきれなかった。


 厄災と恐れられるメデューサですらも、顔色を伺う恐ろしい副団長によって磨かれた顔色を読む技能はこんな所で生かされる。


 「フーン。矢張り友人カ。なら、私達を舐めた罰として、この石像をその手で壊してみるカ。大丈夫。その壊れた剣を持てば、簡単に壊れマスよ」

 「んぐぅ?!」


 死者を弄ぶ外道。


 幾ら魔物であっても、踏み越えてはならない一線を揚々と踏み越えた厄災は涙で頬を濡らす指揮官を見て盛大に笑った。


 「ふはっ!!あははははははははははは!!ニンゲンの死は労るのデスね!!奴隷死は侮辱するのに!!お前達だってやってイルじゃない!!死んだ獣人の奴隷の肉を、同じ獣人の奴隷に無理やり食わせたり!!エルフを殺してから犯したり!!立場が逆転しても、自分達が強者だった頃の奢りが抜けず、抵抗しようと藻掻くとは!!まぁ、私も同じ立場なら抵抗はシマスガネ!!」


 メデューサは、ひとしきり笑うと何か言いたげに藻掻く指揮官の口を塞いでいた蛇を外す。


 口元が自由になった指揮官は、厄災を睨みつけながら吠えた。


 「人間と魔物を一緒にするな!!我々人間は、神に作られた崇高なる種族であり、魔物は神に仇なす下等種族(ゲス)なのだぞ!!人間こそが神の意志!!その神の子の死と魔物ごときの死が同じわけないだろう!!神に仇なすものの死など踏みにじっても問題ないが、神の意志たる人間の死を弄ぶなど許されるはずがない!!」

 「神神神って煩いですネ。魔物も人間も同じですヨ。まぁ、人間に言っても無駄でスガ。と言うか、その理論で言えば、魔物は人の死を弄んでもいいですよネ?だって、神に仇なす者なのですから。神のご意志とたる人間とやらを弄ぶことで、神に仇なすこととなる。つまり、これは自然の摂理という訳ですカ」

 「んなっ!!そんな────────もがっ」


 指揮官は、再び反論しようと口を開くも蛇を噛まされたことによって再び言葉を封じられた。


 「さて、魔物は人の死を弄んでもいいという事が証明されたので、遊んで行きますカ。ほら、剣を握ッテ」


 指揮官の体に纏わりつく蛇達は、抵抗する指揮官の体を無理やり動かしてその剣を握らせる。


 なんとか手放そうとするも、上級魔物の力には敵わない。


 「はい、振り上げてー。先ずは右腕からー」

 「んぐぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 この日、ビドレス共和国は石像の街となって滅んだ。


 日が登り、敵陣を見たグラメス帝国の兵士はその日の日記にこう語る。


 “その日、突如として戦争は終わった。状況からして“蛇の女王”メデューサが現れたのではないかと予測するが、真偽の沙汰は分からない。たった一夜にして石像となった国は、まさに地獄のようで昔読んだ御伽話よりも酷い有様だった。1つ、不可思議な点は、全てが石像と化した街で、たった1人だけ自分の首を吊った死体が見つかった事だ。その服装から下級指揮官だと判明するが、どうして彼だけ石像となっておらずクビを吊って死んでいたのかは分からない。”──────────神正世界戦争“石像と化した国”





 種族解説

【メデューサ】

 全ての蛇の女王。アラクネと同時期に現れた魔物であり、現在のメデューサは、五代目の女王。

 同じ女王であるアラクネと性質はほとんど似ており、違う点は蛇か蜘蛛かぐらいである。

 現在のメデューサは、正当に継承権を貰ってメデューサになった個体であり、どこぞの下克上をしたアラクネとは違う。

 見た目は女人型の上半身と、蛇の下半身。髪には多くの蛇がおり、その全てが自我を持っている。

 アラクネと大きく違う点はその目にあり、メデューサは種族特性として“魔眼”を有している。

 “石化の魔眼”は、その目で見た対象全てを石に変えてしまう能力であり、これは異能の類ではなく種族として備わっている能力。つまり、メデューサの異能は他にある。

 “石化の魔眼”は自身でも制御しきれず、完全に能力をオフにすることは出来ないため目に布をして目を隠すのがデフォルト。普段の生活では、髪にいる蛇達から視覚的情報を貰って生活しているため、目を隠していても問題は無い。

【石化の魔眼】

 見たもの全てを石に変える魔眼。魔眼は普段から魔力を帯びているため、その目を閉じること以外では発動を取りやめることが出来ない。

 一見、相手を見てしまえば石化できるつよい能力に見えるが、自身の魔力よりも大きい魔力を纏っている相手を見た場合はその石化が無効化されてしまう。しかし、一度石化し始めてしまえば、後は相手の魔力を使って石に変えてくれる上に、解除などは出来ないので決まれば強い。その性質上格上には通りづらいが、魔力を常時纏うことは不可能なので、不意打ちが決まれば勝ち確となる。

 メデューサの場合は、更に異能も合わせて使うことで本来見えていないはずの場所も石化のすることが可能。異能と種族能力が噛み合った強者と言える。

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