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読まれた一手

 ヌルベン王国に着いた俺たちは、一先ず宿を取って動きがあるまで大人しくしていた。


 国内には子供たちを放っているし、隣国であるレガルス教会国にも子供達の手は伸びている。


 詳しい情報をかき集めてもらっては、それを見て今後どう動くかを考えていた。


 「神聖皇国と正教会国がドンパチかますまで、後何日ほどだ?」

 「大体3週間程かな。どこの国も同じような感じだったから、3週間後には世界中で戦争が起こると思うよ」

 「3週間後か。出来ればその期間内にあの子を回収したいな」


 戦争が始まってしまえば、俺達も自由に動けない。


 そうなると戦争が終わったあとに攫う必要が出てしまう。


 戦争がいつ終わるか分からない上に、その時ここら辺一体が更地になっている可能性も無くはない。


 幾ら子供達が護衛に着いていたとしても、周りを全て吹き飛ばすような攻撃をされてしまえば守り切るのは不可能だった。


 更に言えば、その子を使って何らかの実験をする可能性もある。異能は未だに分かっていないことが多く、受け継がれる異能と言うのは大変珍しいものだ。


 強力な異能を受け継ぐヒントが得られる可能性があると考えれば、非人道的な実験や解剖を行っても不思議ではない。


 ならば、早いうちに攫って信頼出来る場所に預けるのが無難だろう。


 俺達がその手で育てることも考えたが、今後俺達がどのような立場になるのかは分からない。もしも魔王になってしまえば、かなりの不自由をさせてしまう。


 後、単純に子供を育てられる気がしない。


 イスは幼いながらもかなり賢く、俺達の言うことを素直に聞くいい子だった上にアンスールやベオークも面倒を見てくれたからこうしてスクスクと育ってはいるが、アレは元がドラゴンだからだ。


 人間を育てるには、人間の手で育った方がいい。


 「保険を掛けた甲斐があったな........」

 「ん?何か言った?」

 「いや、何でもない。それにしても、随分とあっさり継承者を渡すんだな」


 俺が手に持っている報告書には、昨日行われた会議の内容が書かれている。


 どうやら、継承者であるあの子を渡して時間稼ぎをするようだ。


 取り返す算段が着いているとは思えず、この国が大切にしてきた“千里の巫女”を見捨てているように見える。


 「時間が無さすぎたんじゃない?未だに反対意見は出ているようだけど、これ以上いい案が無いって言うのは事実だし」

 「国か継承者かを迫られて、国を取った訳だ。当たり前と言えば当たり前だが........国の為に尽くしてきたらしい先代は報われないな」

 「しょうがないんじゃない?まだ1歳の赤ん坊にできることは無いからね」

 「世の中は世知辛いなぁ」


 俺がぼんやりと呟くと、蜘蛛が影から1枚の紙を手渡してくる。


 どうやらレガルス教会国の情報のようだ。


 俺は蜘蛛を労うように優しく頭を撫でて“ありがとう”と言った後、その紙に目を通した。


 「あー........これはダメですねぇ」

 「どうしたの?」


 俺が頭を抱えるのを見て、花音は首を傾げながら俺に近づいてくる。


 後ろに場所を撮ったかと思えば、俺の肩に顔を乗せた。


 相変わらず甘い匂いが漂う。サラサラ中身が俺の頬を擽り、少しくすぐったかった。この世界、シャンプーとかリンスとか無いんだけど、一体どうやってこの髪を維持してるんだ?


 この世界にも石鹸はあるので、身体を洗う際にはそれを使うのだが、アレは髪を洗う用では無い。


 髪を洗う専用の石鹸もあるにはあるのだが、やはり前の世界よりも随分と劣る印象を受けた。


 花音だけ独自に開発した石鹸でも使ってるのかなぁ?まぁ、詳しく聞くつもりは無いが。


 俺が花音の髪について考えていると、報告書の内容を読んだ花音の顔が曇る。


 「うわぁ、これはどんまいだねぇ」

 「初めからこうなる事を読んでたみたいだな。時間稼ぎは恐らく無理だぞ」


 報告書の内容は、レガルス教会国が既に戦争の準備を終えて交渉が終わり次第攻め込むという内容だった。


 どうやらレガルス教会国には切れ者がいるらしく、ヌルベン王国の動きが尽く読まれているそうだ。


 継承者を渡す代わりに条件を付けてくるが、使者にはそれを全部飲むように伝えられている。


 そして、なるべく早くその子を回収して国に帰って来いとの事だ。


 国に帰ってきた後は、すぐ様挙兵し、ヌルベン王国に攻め込む。


 既に兵士は国境付近に集められており、いつでも攻め込める状態になっている。


 レガルス教会国は、端からヌルベン王国を攻め落とす事だけを目的としているようだった。


 「時間は稼げても1週間だな。恐らく使者が国境に戻ってきたと同時に攻め込んでくるぞ」

 「どうするの?」

 「んー........“千里の巫女”が死んだからこうなっただろうし、手助けはしてやるかな。ベオーク、ちょっといいか?」

『なに?』


 イスとオセロをやっていたベオークは、顔をこちらに向けることなく文字を浮べる。


 花音に負けたのがそうとう堪えたのか、ココ最近はずっとオセロをやっているな。


 「レガルス教会国に行って軍が動き始めたら妨害してくれないか?子供達も使っていいから」

『どこまで殺ればいい?』

 「皆殺し........はやりすぎか?でも教皇のやり方を考えるに、皆殺しでも問題なさそうか。なんなら国を更地にしても問題なさそうだな。周辺国家は困惑するだろうけど」


 教皇の爺さんの考えでは、正教会国側のイージス教はこの世界から消し去るつもりだ。


 ならば、レガルス教会国を消しても文句を言われることは無いだろう。


 それに、今回の戦争ではベオークとその子供達が大暴れする機会は無い。


 ここで、思う存分にやってもらうのは案外いい手かもしれない。


 教皇の爺さんには事後報告になるだろうが、まぁ、許してくれるだろう。


 「ベオーク。お前、暴れたいか?」

『........自分が国ひとつ滅ぼせる力があるかないかを試せる機会をくれると?』


 流石はベオーク。話が早い。


 「そうだ。暴れるのを辞退した連中とは違って、ベオーク達にはその機会すら無かったからな。ここでやってみるのはどうだ?」


 ベオークは、一旦オセロをやる手を止めると、こちらを向く。


 蜘蛛のため表情は全く動いていないが、俺にはベオークの口元が大きく弧を描いているように見えた。


『上等。ワタシ........いや、ワタシ達の強さを見せてやる』

 「いいねぇ、そう来なくっちゃ」


 子供達の調べで、大国の力を借りていないこともわかっている。


 最高戦力は白金級(プラチナ)冒険者であり、下手な厄災級魔物よりも強いと言われる最上級魔物のベオークが負ける道理はない。


『イス、ワタシちょっと準備運動してくる』

 「行ってらっしゃいなの。ベオークの勇姿、空から見させてもらうの」

『よく見ておくといい。久びさに本気で暴れてくるから。あ、必要最低限の子供達は残していくから安心してね』


 ベオークはそう言うと、影の中に沈んでいった。


 「やる気満々だったな。やっぱりベオークも暴れたかったのか」

 「自分の意見を言うことはあまりないからねぇ。だけど本能には逆らえないよ」

 「ベオークファイトなの!!」


 こうして、ベオークとその子供達がレガルス教会国を滅ぼす事が決定した。


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