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宣戦布告

 ラヴァルラント教会国の偵察を終え、ある程度作戦を立て終わってから約三ヶ月。


 ようやく、馬鹿5人が正教会国に辿り着いたという情報が入ってきた。


 4年近く怠惰な時を過ごしていた彼らに、この3ヶ月の旅路はかなり堪えたようで、不満たらたらと言った感じだったそうだが、先ずは計画通りにことが進んでいる事を喜ぶべきだろう。


 監視につけている子供達曰く、危ない場面はいくつかあったそうで、子供達が直接手出しはしていないものの、神聖皇国の暗部の皆さんが相当頑張ったそうだ。


 今思うと、暗部の仕事って相当ブラックだよな。


 闇に生きているからブラックとかそういう話ではなくて、労働環境がという意味で。


 この三ヶ月間、彼らは休みらしき休みを一切貰っておらず、給料がどの程度かは知らないが多くても金貨数枚だろう。


 三ヶ月で数百万の給料と考えればかなりのものだが、それ以上に休暇がほぼ無い。


 せっかく正教会国に来たのだがら、そこで諜報活動をするに決まっている。


 ところで、この案内にかかった費用とか経費で落ちるのかな?落ちないで自己負担とかだったらストライキ待ったナシだ。


 そもそも、命がかかっている上にマトモな休暇をくれない時点でストライキ待ったナシなのだが、ここは異世界。労働基準法なんてありもしなければ、雇用主が絶対的存在である。


 俺も気をつけないと三姉妹と獣人組に抗議されるかもな。もう少し休暇を増やせるように努力してみるか。


 俺がそう思いながらのんびりと子供達から渡された報告書を見ていると、花音が背中から抱きついてくる。


 ほんの僅かに上がった体温と、優しく甘い匂いがする花音は、どこか安心した表情でため息をついた。


 「ふぅ、これで義理は果たせたね」

 「そうだな。神聖皇国から睨まれる心配も無くなったし、後は戦争で勝つだけだな。一応、保険も手に入ったから余程のことがなければ面倒事に巻き込まれることは無いだろ」


 俺はそういうと、影の中から1枚の紙を取り出す。


 そこには、俺たちを雇うに当たって様々な条件が盛り込まれた契約書だった。


 しかも、態々教皇自らが署名したことを示す指印までご丁寧にされている。


 万が一、俺達が国を滅ぼして避難を受けるようなことがあれば、その責任を教皇に擦り付けることができるのだ。


 全部教皇の命令で、俺達はそれに従っただけですよと言う言い訳(逃げ道)を用意した為、魔王認定されることは早々無い........と思いたい。


 結局はその時になってみないと分からないし、教皇の爺さんがとぼけるかもしれないがそれはその時だ。


 俺とて魔王になりたい訳では無いので、できる限り穏便に終わって欲しいとは思っている。


 世界の各地を回ってきてはいるが、まだまだ見ていない世界の果てがあるのだ。


 自由に動く為にも俺達は傭兵と言う立場を維持しておきたい。


 「魔王になっちゃったらどうしよっか。いっその事この世界を滅ぼす?やろうと思えばできるよ?」

 「馬鹿言え。ファフニール曰く、この世界その物を壊そうとすれば、ファフニールよりも確実に強い奴らが出てくるって話だろ。ファフニールよりも確実に強い相手と戦うとかどうやっても勝ち目がない。そんなリスキーなことはしないさ」

 「世界を壊すのはダメって事は、人類を滅ぼす程度なら問題ないのかな?」

 「さぁ?俺に聞くなよ。世界の調和を保つ者がどーたらこーたら言ってたが、抽象的すぎてよく分からんかったしな」

 「あぁ、確か“万物の根源なる者”と“世界の先を見据える者”だっけ?」

 「後は、“神の寵愛を一身に受けた者”とかだったな。詳しく聞こうとしても、何も言わないから困るぜ」


 少なくとも、その3人?には負けるとファフニールは感じ取っているのだろう。


 ならば、ファフニールと互角の戦いをする俺も負けるに違いない。


 俺は、この話を聞いてからますます最終兵器が使えなくなった。


 だってアレ、本気で運用した瞬間にこの惑星が消えるもん。別次元の結界を張るか、俺の異能で何とかするしかない。


 1度本気で打ってみたい気持ちもあるが、場合によっては俺も巻き込まれて死ぬからなぁ........


 「ま、ともかく戦争が始まる。ようやく傭兵団“揺レ動ク者(グングニル)”が世界にその名を知らしめる時が来たって訳だ。厄災級魔物達にはめいいっぱい暴れてもらうとしよう」

 「暴れる前に終わりそうだけどねぇ........みんな異次元の強さだし」

 「その為に交渉して相手する国を増やしてもらったんだろ?やったな。ほぼ戦争とは関係ない場所とはいえ、8ヶ国も相手できるんだぞ」

 「相手も何も虐殺だよね」

 「馬鹿言え、ちゃんとした戦争だよ。この8ヶ国は間違いなく戦争に参加しようとはするからな。立地的に重要ではなく、兵力も低いが居なくなれば少しだけ圧を強めれる。そこはメリットだろ?」

 「それはそうだけどね。罪なき人も殺すのはどうかなとは思うよ」

 「んな事は教皇の爺さんに言え。俺達は仕事をするだけさ」


 花音は俺に抱きついたまま身体を揺らす。


 口ではこう言ってはいるが、その声には全く感情が無い。


 花音は、自分と俺以外がどうなろうが知ったこっちゃないと言う性格なのだ。“無抵抗な人間を殺すなんて非道だ!!”なんて言うようなタチじゃない。


 俺も花音もそういう点では割とドライだった。


 イスはどうかって?


 イスは“弱肉強食は世の常。弱い奴が悪いの!!”と満面の笑顔で言っていたよ。


 一応、最低限の道徳は教えたはずなのだが、親が親だからなのかそれとも元はドラゴンなのか随分と野性的な考えをしている。


 俺達が弱者側に回れば、食われる立場となる。あの島にいた頃を思い出すな。


 ぼんやりと昔を思い出しているとコンコンとドアをノックされる。


 返事をすれば、未だにメイド姿のルナールさんが“時間です”とだけ告げた。


 あの人、いつまでメイドをしているのだろうか。最近、随分とメイドらしさが出てきている。本当にメイドを目指すつもりなんじゃないだろうな........


 「さて、そろそろ行くか」


 俺は持っていた報告書を影に仕舞うと、イスと花音を引き連れて部屋を出る。


 これから行く場所は公衆の面前だ。しっかりと仮面を被り、声を変えておく。


 「案内致します」

 「よろしく」


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 その日は雲ひとつない快晴だった。


 大聖堂の前には、溢れかえる程の民衆。教皇であるシュベル・ペテロはその民衆の前に立った。


 ザワザワとしていた民衆が、ピタリと会話を止める。


 教皇はそれを確認した後、ゆっくりと語り始めた。


 「今日、この日は歴史的瞬間となる」


 教皇は語った。


 勇者でありながら、勇者を殺し逃亡した者達の事を。


 教皇は語った。


 正教会国に返還を求めたが、それを拒否したこと。


 教皇は語った。


 大義は我らにありと。


 教皇は()()()


 悪しきイージス教を信じるもの達を解放するのだと。


 「故に!!我ら神聖皇国並びにその同盟国は正教会国に宣戦布告をする!!今、この時から我が国は戦争状態となる!!市民は兵のために力を尽くし、兵は国の為に力を尽くせ!!」


 この歴史的瞬間、神聖皇国と正教会国の長きに渡るいざこざに終止符を打った戦争。世界のほぼ全ての国家を巻き込んだ戦争を、後に生き残った歴史家はこう本に綴った。


『神正世界戦争』


 と。

これにて第三部3章は終わりです。

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