表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

352/760

一旦帰省

 ラヴァルラント教会国を探る為に、俺達は神聖皇国を飛び立った。


 ルナールさんに一言伝えたら、教皇様の許可をうんたらかんたら言っていたが、“1週間もすれば戻るから”とだけ伝えて引き止められる前に飛び出してきた。


 流石に街中でイスを元の姿に戻すのは混乱を招くどころの騒ぎでは無いので、遥か上空にまで飛んでからイスの霧で姿を隠してドラゴンになってもらう。


 夜中ということあり、夜闇に紛れやすい黒の服を着ていたため、態々街の外に出なくてもいいんじゃね?と思ったが、それは正解だったようだ。


 「このままラヴァルラント教会国に行くの?」

 「いや、一旦拠点に帰ろう。皆の顔を見ておきたいし、一応保険をかけておきたい」


 旧シズラス教会国での動きがきな臭いとなれば、世界戦争が始まる前に戦争を吹っかけられるかもしれない。


 先手必勝と言われているだけあって、初動の対応に失敗するとそのままズルズルと負け越す可能性もあった。


 アゼル共和国は、俺達のホームと言っても過言ではない国である。


 知り合いも多くいるし、何より融通が効きやすい。


 この国で1番の権力を持つ元老院とのパイプがあるのだ。


 失うのは惜しい。


 まだ元老院の爺さんとの契約である“何でも一つ聞いてくれる権利”も使っていない。


 小国とはいえ、国内トップクラスの権力者に作った借りと言うのは中々に大きいものである。


 ちなみに、リスト内の人物を殺すと言う爺さんの依頼は既に終わっている。闇に紛れて暗殺を軽々成功させる子供達には頭が上がりませんわぁ。


 その報酬として貰った権利だが、使いどころがなくてキープしたままだ。


 絶対的な切り札が手にあると思えば、かなりの安心感だろう。


 アゼル共和国でしか使えないと言う制限はあるが。


 「保険?誰かを送り込むの?」

 「そのつもりだ。とは言え、戦争が起こった際に動いてもらう程度だがな。流石に1日で首都まで陥落することなんてないだろうから、戦争が起こってからでも十分に間に合うだろ」


 傭兵登録も済ませてあるから、傭兵と言う立場で戦争に参加出来る。首都にいる赤腕の盾(レッドブクーリエ)とも面識があるから、俺がいなくともなんとでもなるだろう。


 それに、コミュ力に優れる吸血鬼の元王にも出張ってもらえば大抵はどうとでもなる。


 普段は昼間っから酒飲んでツマミに川魚を食べるようなダメ親父だが、やる時はやる男だ。


 「ストリゴイに出てもらうの?」

 「あぁ。ストリゴイなら三姉妹と獣人組をきっちり纏めてくれるだろうしな。戦力だけで言えばシルフォードだけで足りてるだろうけど、経験は圧倒的にストリゴイの方が上だ。戦争ともなれば、指示を出せる奴が必要だろうからな」

 「そういえば、ストリゴイの最近の趣味は拠点の近くにある川で釣りをする事らしいね。この前スンダルが愚痴ってたよ」

 「いい趣味じゃないか。人間解剖とか薬物実験よりはマシだと思うが?」

 「仁はおぞましい趣味を考えるね........ほら、スンダルってあぁ見えてじっとしてられない質の人でしょ?魚が竿に食いつくまでの時間が暇で暇で仕方がなかったそうだよ」

 「ストリゴイと話せばいいじゃん」


 いくら暇でも、会話を楽しむぐらいはできるだろう。


 ストリゴイ一筋なスンダルなら、ゆったりと話が出来れば満足そうなのだが。


 花音はゆっくりと首を振ると、話を続けた。


 「それが、ストリゴイは自然を感じたいだのなんだの言って、あまり話してくれなかったんだって。そのおかげでスンダルが拗ねちゃって。おかげで私が愚痴を聞く羽目になったんだよ」

 「それはストリゴイが悪いかなぁ。自然なんて拠点にいれば毎日感じられるだろうに」


 気が利かないよストリゴイ。


 頼むから趣味が原因で夫婦喧嘩なんてしないでくれよ。厄災級魔物の喧嘩ってシャレにならないことの方が多いから。


 ストリゴイとスンダルのガチ喧嘩なんて起こった日には、拠点が吹っ飛びかねない。


 「ストリゴイにそれとなく注意しておくか........」


 そう呟きながら、俺は空を見上げた。


 雲ひとつない星空は、プラネタリウムで見た星空の何倍も綺麗だった。


 淀みのない空気と星の灯りをかき消す光が無いこの地では、満点の星空と呼ぶにふさわしい空を映している。


 高速で空を飛ぶイスの背中では、星空は代わる代わる形を変えていく。


 その星空は、どこか寂しげでどこか孤独感を感じるものだった。


 しばらく空の旅を楽しむと、見慣れた山脈という名の厄災級魔物が目に入る。


 山の上の方には雪が積もっており、今空を飛ぶ俺たちよりも高い。


『お?団長さんじゃん。やっほー!!おかえりー!!』


 俺たちの気配に気づいたアスピドケロンは、元気よく念話を飛ばす。


 深夜に近い時間だと言うのに、相変わらず元気な奴である。


 「ただいま。皆はどうしてる?」

『起きてるよー。ダークエルフ姉妹ちゃん達も獣人ちゃん達もおめめパッチリ!!団長さんが帰ってくるって聞いて、待ってるみたいだよ?』

 「マジか」


 とっくに寝ているものだと思っていたのだが、どうやら子供達から報告が行ったらしい。


 俺達は急いで拠点に降りると、そこには少し眠たげな三姉妹と獣人組がいた。


 「おかえりなさい団長さん」

 「ただいまシルフォード。寝てて良かったんだぞ?急ぎの用事でもなかったから、明日でも問題ないし」

 「もう少し遅かったら寝てた」

 「そうか。ある意味タイミングが良くて、ある意味タイミングが悪かったな。今日はもういいから、寝てくれ。明日話すから」

 「ん........おやすみなさい」


 フラフラと眠たげな眼を引っさげて部屋に帰るシルフォード達を見送るが、ラナーだけはパッチリとした目でその場に残った。


 俺が軽く首を傾げると、ラナーは姉達が見えなくなったのを確認してから溜息をつく。


 「はぁ、申し訳ありません団長様。本来ならすぐにでも話を聞くべきですのに........」

 「いや、さっきも言ったけど、急ぎの用事じゃないからいいよ。ラナーも疲れてるだろ?話は明日でいいから寝るといい」

 「そうさせてもらいますが、その前に少しよろしいでしょうか?」

 「ん?」

 「最近、姉様達は弛んでいます。どうも、安全で快適な生活に慣れてしまったようでして.......戦闘訓練こそ厳しいものの、日を跨いだ戦闘等ができなくなっています」

 「それで?」

 「ですので、日を跨いだ戦闘訓練等をさせて頂きたいのです。ですが、報告書の整理などもあるのでどうしたものかと」


 なるほど。今はまだそこまで忙しくない。一日二日報告をサボるぐらいなら問題ないだろう。


 それよりも、ラナーは戦争に参加する際に自分達が死なないように自力を上げたいわけだ。


 もちろん、許可するに決まっている。報告書の確認は、俺達でもやれない事はないしな。


 「いいぞ。でも、実行する日は伝えてくれ。その日は俺達が勝手に報告書を見るからな。ところで、教える相手は決まってるのか?」

 「ありがとうございます。指導にはストリゴイ様とスンダル様にお願いしてありますので、問題ありません。何でも、団長様と副団長様にもやった訓練だとか」


 それを聞いて俺と花音は顔を引き攣らせる。


 まる二日、ほぼ休憩無しでも組手でもやらせる気か?アイツは。


 アレは冗談抜きに地獄だった。正直、ドラゴンの巣から生きて帰るよりも死を確信した訓練だった記憶がある。


 俺なんて三日三晩休憩無しの組手やらされたからな。眠気で足がフラフラなのに、拳が容赦なく襲って来て眠気を吹き飛ばす。頭がろくに働いてないから、正確な判断が全くできない。


 そして、ボコボコにさせる。


 俺は嫌なことを思い出して軽く肩を震わせた後、哀れんだ目でラナーの肩に手を置いた。


 「頑張るんだぞ」

 「は、はい」


 後に後悔するだろうが、頑張ってくれ。いやホントに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ