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きな臭い動き

 教皇の過激な発言を聞き、ほんの僅かに違和感を覚えつつも俺達は自分達の部屋に戻っていた。


 俺達が部屋を出ている間に誰か入ってきたのか、乱れていたベッドのシーツや僅かに舞っていた埃が無くなっている。


 部屋位に入った俺達は、先ず部屋の中に何か仕掛けられていないか探知を開始した。


 「盗聴器は........なさそうだね」

 「魔道具って使用するとどうしても魔力反応が出るからな。余程探知に優れてないと分からないが、本気で隠れた厄災級魔物を相手する程じゃない」


 魔道具の動力は魔力だ。使用すれば魔力反応が出る。その反応を辿れば、いとも容易く魔道具の場所を見つけることが出来た。


 これが前の世界なら態々探知機なんてものを用意する必要があるのだが、そこら辺はこちらの世界の方が楽だな。


 厄災級魔物にしごかれた俺達の探知は伊達ではない。


 と言うか、極わずかに漏れるだけの魔道具の魔力よりも探知しにくい厄災級魔物達がおかしいのだ。


 蛇の名をしたビックボスですら真っ青な隠密をするのは勘弁して欲しい。


 「それにしても、教皇も随分と過激な手に出たな。市民まで皆殺しとは」

 「それ以外に手はないと考えたのかな?ほら、一度負けた国が再び立ち上がって戦争を始めたりとかあるでしょ?」

 「教皇の爺さんもいい歳だからな。自分が死ぬ前に全てに決着を付けたいのかもしれん」


 勝てば歴史はどうとでも塗り替えれる。勝ったものが正義であり、勝者こそが歴史を紡ぐ。


 教皇の爺さんはそう考えて、実行しようとしているのだろう。


 「良かったの?引き受けちゃって。市民を皆殺しになんてしたら、それこそ魔王になるかもしれないよ?」

 「兵士を皆殺しにしてもどうせ国は滅ぶだろ?国力が小さい国では農民までもが戦場に駆り出されるからな。働き手を殺せば国の首は絞まる。殺す人数が変わるだけで、やってることは大して変わらないさ。それに、魔王になったらなったで面白そうだし」


 ぶっちゃけ魔王云々は俺たちではどうしようもない。賽は既に投げられており、その出目がどれになるかは運任せだ。


 ならば、いっそ開き直ってしまった方がいい。ほら、追放された主人公が魔王になる話とかよくあるじゃん。


 花音は、俺の考えを見抜いたのか渋い顔をして大きくため息をついた。


 目頭に指を当ててどこか呆れながらも、その顔には“仁らしいな”と書いてある。


 「最後のが本音だねぇ........ホント、振り回される身にもなって欲しいよ」

 「私も魔王になるの?そしたらナントカの魔王って呼ばれるのかな?」


 呆れる花音とは対照的に、イスは少しワクワクしており自分が魔王と呼ばれた時のことを考えているようだった。


 我が子ながら随分とポジティブシンキングである。


 「そうだな........“氷帝の魔王”とかどうだ?イスは氷の世界の神な訳だし」

 「それを言うなら“氷神の魔王”になるんじゃない?あ、でも今までの魔王って七つの大罪の名を持っていたよね?」

 「確かに。となると魔王は何か大罪になぞらえた方がいいのか?」

 「それだと二番煎じでしょ。もっとパンチのあるのがいいんじゃない?」

 「私は普通に“蒼黒の魔王”がいいの!!シンプルでカッコイイの!!」

 「おーそれもいいかもな。下手に捻るよりも、見た目だけで分かる名前もありだな」


 ワイワイと魔王の二つ名談義をしていると、俺の影から蜘蛛がひょっこりと顔を出す。


 その手には紙が握られており、何かを伝えようとしているのが分かった。


 ちなみに、その長であるベオークは“子供達の様子を見てくる”と言ってどこかへ行ってしまった。


 今や10万近い子供を束ねる大親分となったベオークは、大変そうだなと他人事のように思う。


 俺がしてやれる事は、ベオークのお願いを聞くぐらいだしな。頑張ってくれ。


 俺は紙束を受けたって蜘蛛の頭を軽く撫でてやると、その紙に目を落とす。


 内容はアゼル共和国とシズラス教会国についてのものだった。


 「元シズラス教会国の動きが随分と怪しいらしいな。どうも、アゼル共和国の目の届かない場所で正教会国の兵力を引き込んでいるみたいだ」

 「シズラス教会国って戦争に負けた後、分割されて統治されてた国だよね?」

 「そうだ。ジャバル連合国と手を組んで潰した国だな。今はその2ヶ国が手を組んで仲良く統治している........んだが、どうも両国とも手が回ってないらしく腐敗が進みつつあるようだ」


 戦争で失った物の補填や、急に増えた国土の整備など、色々な事業に手を出しているせいで人手が足りていない。


 特に、戦争によって働き手を亡くした村などは深刻な食糧不足に陥り、場所によっては村全体が盗賊と成り果てた場所もあるのだ。


 国も食糧不足を解消すために色々と手を尽くしてはいるものの、小国の生産能力では全てが賄えるわけでもなく、更には派遣された行政官が監視がない事で好き勝手し始めているのもあって人々に物資が行き渡っていないのが現状である。


 俺達とは関係の無いことなので手を出したりはしなかったのだが、これに正教会国が介入してくるとなると話は別だな。


 「もう一度戦争を起こす気か?アゼル共和国とジャバル連合国を落とせれば、大エルフ国への橋頭堡となり得るだろうが........その動きを大エルフ国が許すとは思えないぞ?」

 「それに、正教会国から大エルフ国まではかなり離れてるから、大した兵力は送り込めないだろうしねぇ」

 「何がしたいのか分からんな。不意打ちで大エルフ国を殺るつもりなのか?だとしたら面倒だが、その程度で11大国の1つが落ちるとも思えないぞ」

 「何か秘密兵器があるかもね」


 きな臭い動きではあるが、目的が読めない。


 バカがバカなりに奇襲戦法を考えたと言うなら分からなくもないが、腐っても大国である正教会国の皆が皆バカだとは思えない。


 となると、明確な何かを持ってシズラス教会国に兵を送り込んでいるのだろう。


 「もう少し監視の目を厳しくするか。そう伝えてもらえるか?」

 「シャ」


 影の中に居た蜘蛛は、小さく返事を返すとそのまま報告書も共に影の中へと消えていく。


 これで正教会国への監視がさらに強まることだろう。


 「戦争の匂いを嗅ぎとって、水面下で動く国が多くなってきたな。もう2,3ヶ月もすれば戦争が始まる。それまでに準備を終わらせなければ、轢き殺されるだけか」

 「私達も動く?」

 「そうだな、まずは攻め入る国の調査をしようか。まだ時間はあるし、地形の把握と正確な地図作りはできるだろ。ついで蜘蛛も放って情報も集めるとするか」

 「お空の旅なの?」

 「お空の旅だな。大まかな位置は分かってるし、迷うことは無いだろ」


 俺は久々に青空の元で空を飛べると喜ぶイスの頭を撫でつつ、どうやってラヴァルラント教会国を潰すのかを考えるのだった。


 「ぶっちゃけ、力押しでも勝てそうなんだよなぁ........」

 「仁、それは言ったらおしまいだよ」


 さて、誰をどこに割振ろうか悩むな。

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