正連邦国の現状
正教会国の東に位置する正連邦国。
元はドワーフが住んでいた地に住む彼らは、今回起こる戦争についてあまり乗り気ではなかった。
「どうするのですか?大統領。戦争で祭りがダメになったとなれば、国民の怒りは収まりませんよ」
「それでも参加しなければならんだろうな。正教会国には借りがある。それこそ私が産まれるよりも前の話にはなるが、借りを持ち出されてはどうしようもない」
正連邦国の首都にある大統領府の一室で、リブル・ルーブルは頭を抱えた。
四年に1度、国を上げて開催される正連邦大会と言う祭りでは、各地の街で様々な催しが開かれる。
国内一の強者を決める武闘大会、国内最高の料理人を決める料理大会、国内一の馬を決める競馬大会。他にも多くの大会が各地の街で開かれ、街に住む人々は大いに盛り上がるのだ。
腐った上層部もこの日ばかりは大人しく祭りを楽しみ、一時の平和を作るのだ。
そして、この年は国民から税を搾り取るようなマネはせずにかなり税が軽くなる。
重税に苦しむ国民が反乱を起こさないように適度に息抜きさせるために作り出された、先人達の知恵が詰まった大会。それが正連邦大会だ。
もちろん、翌年からはいつもと同じく重税が課せられるので人々は4年後の祭りに向けて苦しい生活を耐え抜く必要がある。
「面倒な時期に戦争を起こそうとしてくれたものだ。いや、それが分かっていたからこの時期なのか?........大会を開かなかった年は無かったのか?」
「あります。ドワーフ共との戦争が長引きすぎて大会を開けなかった時期が1度だけありました」
「その時はどうした?」
「国民への詫びという事で税を減らし、大会は戦争が終わった翌年に開いたそうです。その時だけ大会の間隔が2年と短くなっています」
「国民はそれで納得したのか?」
「はい。ドワーフなら仕方がないと言った感じだと文献には書いてありました」
正連邦国は、かつてドワーフが住んでいた土地を奪って建てた国だ。
豊富な鉱石と、植物が育ちやすい土壌は当時困窮していた者達からすれば喉から手が出るほど魅力的な物であり、どんな手を使ってでもその手に納めたい場所だった。
その為、ドワーフの元で下働きとして雇って貰い、ドワーフ達を殺す計画を練る。
当時のドワーフは、人間と言う種族の狡猾さを知らず、良き隣人として快く迎え入れていた。
そして、5年後。
人々はドワーフに向かって剣を抜き、その剣で逃げ惑うドワーフの背中を斬り裂いた。
完全な不意打ちという事もあり、ドワーフ達は大混乱。
即座にドワーフの兵士が出てきたものの、人質を取られるとその動きは鈍くなってしまった。
こうしてドワーフ達は敗走。人間の手から逃れつつ、新たな地で開かれた国が今のドワーフ連合国であり、元はドワーフがいた土地に新たに建てられた国が正連邦国である。
約1800年も前の話だ。
そんな歴史があるために、正連邦国とドワーフ連合国の仲は宜しくない。
道端ですれ違えば、すぐ様殴り掛かるレベルでお互いがお互いを嫌っていた。
その為、正連邦国ではドワーフを悪とした教育が広まり、人々はドワーフに嫌悪感を抱くようになっている。
これはドワーフ連合国にも言える話であり、正連邦国は悪だとした教育が広まっていた。
「ふむ。では我々もそうするか。祭りが出来ないのはドワーフ連合国が我が国に攻め入ろうと画策しており、我らは国の平和の為に立ち向かわなくてはならないと言う風にな」
「良いのですか?ドワーフ連合国は、今回の戦争に参加する様子がないと密偵からの報告が入っていますが........」
「別にいいだろう。今の国力差ならば簡単に踏み倒せるはずだ。私は気に入らなかったのだよ。11大国の中にドワーフ連合国と言う下衆な元達が入っている事が。私達と肩を並べたつもりか?おこがましい」
リブル・ルーブルはそう言うと、広げた地図に駒を置き始めた。
チェスをするかの如く綺麗に並べられた駒たちは、最終的に人差し指で倒される。
「他の国は正教会国と正共和国そして、属国に任せればいい。元々身の入りが少ない戦争だ。ならば、ドワーフと言う邪魔者だけでも消させてもらうとしよう」
こうして、正連邦国はドワーフ連合国に攻め込む事が決まった。
そして、その話はドワーフ連合国にも伝わる事となる。
11大国全てが参加する事になったこの戦争は、後にこう呼ばれる。
“世界戦争”と。
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その日、悪魔達は全員が集合していた。
女神の目すらも欺く結界が張り巡らされたその地で、悪魔達はやけに明るい洞窟の風を感じる。
「まだ魔女は来ないのか?我らを集めておいて、自分が遅刻とはいい度胸だな」
「これを機に殺しちゃえば?気に入らないんだよねぇ、私達に命令できるのは魔王様ただ一人だと言うのにさ。それを、“魔王様からの指示です”とか言っていいように使うんだから」
「仕方がなかろうて、手を組んだのは魔王様なのだからな........お、この肉美味いな」
「そうだろ?ワイバーンの肉なんだが、このタレが凄くてな。蒲焼のタレって言うらしい。魔女が持ってこなければ、手放しで喜べたんだがねぇ........」
女神の目が届かない地で、好き勝手に話しては食べる悪魔達。彼らは食事を必要とはしないが、長年生きるにあたって人生を豊かにする趣味の一つ二つは持っている。
食事もその1つであり、こうして何かを味わって食べるのは悪魔達の数少ない楽しみと言えた。
「あの堕天使狂は死んだのか。少し残念だな」
「残念........なのか?忠誠心は確かなものだったが、同胞にまでそれを強要する辺りは関心しなかったな」
「アレ?カラスの野郎はどうした?」
「死んだ。残念ながらな」
「うげ、宝物はどうするんだよ」
「魔女が幾つか持っていたな。何でも契約に必要だとか」
「契約?なんじゃそりゃ。魔王様との何か────────」
思い思いに話していた悪魔たちの声が一斉に止まる。
先程まで無かった気配。いつ入ってきたかも察知出来なかった彼らは、その背中に嫌な汗を掻きながら忌々しい女を睨みつける。
「重役出勤だな。魔女。いつから貴様は偉くなったのだ?」
「割と最初からでしょうね。失礼。少々用事があったもので」
向けられた殺気をものともせずに、魔女は平然と悪魔達の前に立つ。
視線と殺気が集まる中、魔女はその口を醜く歪めた。
「さて皆さん。知っている方が多いと思いますが、戦争が始まります。世界の全てを巻き込んだ戦争です。そこで私達は“鍵”を奪取します」
ザワりと洞窟内が騒がしくなる。
「“鍵”の場所は分かっているのか?」
「えぇ、協力者が見つけ出しています。が、警備が厳重です。手薄にするために皆様には手伝っていただきたい」
「拒否権は........ないのだろうな」
「別に拒否してくれても構いませんよ?魔王様の指示に従わないのであれば」
「........チッ」
そう言われれば手伝わない選択肢はない。悪魔達は、魔女の顔を睨みつけながらも重々しく頷くのだった。




