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合衆国の現状

 11大国の一つである合衆国。


 聖王国と獣王国に挟まれたこの国は、かつては小国があちらこちらに並び立っており、戦乱が絶えない地域だった。


 2500年程前に勇者が出現し魔王を討伐して以降、その戦乱は更なる過激を増しその地に流れた人の血は100万を優に超えると言われている。


 しかし、そんな戦乱の世も終わりを迎えた。


 その血に誘われたのか、現れたのは厄災級魔物“破滅”バハムート。


 後世に残る世界最大級の被害を出した厄災級魔物の出現により、その地は死の大地となる........はずだった。


 “聖刻”フリムレード・パラリズム。


 かの英雄は、各国を滅ぼすバハムートに対抗するべく、当時小国の中でも大きな力を持っていた13ヶ国に呼びかけ、団結し全戦力を持って“破滅”バハムートの討伐に乗り出した。


 結果から言えば、厄災級魔物“破滅”バハムートの討伐は失敗。しかしながら、かなりの痛手を追わせこの地からの撤退を余儀なくさせた。


 “破滅”バハムートの討伐こそ逃したものの、この地を守ったとして英雄となったフリムレード・パラリズムは、纏めあげた13ヶ国を1つの国として纏めるように提案。


 これに当時の国王たちは賛同し、国ではなく“州”として自立したほうの元で国として纏まった。


 小国の集まり、つまるところ連合国と何ら変わりない形態を取っているのがこの合衆国という国である。


 そして、この国は各州を代表する13の議長によって運営されていた。


 「我らも参加するのはよしとして、どこを攻めるというのだ?」

 「知らないわよ。そんなの。神聖皇国や聖王国に睨まれても困るし、正教会と正共和国へは要請がない限りは攻撃しないわよ」

 「だとすれば我々が戦争に参加する意味が無くなる。何とかしてどちらかの国には兵力を出さねばなるまいて」

 「その交渉をしようにも、今は動けないからなぁ。起こってもいない戦争の話をしても、とぼけられるだけだし、11大国の中では1番下に見られてる俺達が上から物言う訳にも行かないしな」


 合衆国は、11大国の中では1番劣ると言われている。


 技術提供や各州での結び付きは強いが、基本的にその州の運営は各議長に任されている。


 愚王が生まれたとしても、国力をさほど落とさないという点で見ればメリットはあるように見えるが、その分発展も遅かった。


 よく比較対象にされるのは亜人連合国だが、彼らはその人間離れした身体能力と一騎当千に値する兵力を数多く抱えている。


 裏でコソコソと足の引っ張り合いをする事も無い彼らは、正面からいがみ合うだけであり、国力はかなり高いと言えた。


 正面から戦争をすれば、まず間違いなく合衆国が負けるだろう。


 例え切り札とも呼べる“聖刻”がいたとしても、亜人連合国には“天聖”が居る。


 本人曰く、実力は拮抗との事なのでやはり純粋な国力勝負となる。そうすれば、敗北は必死だ。


 合衆国は、何とかしてほかの大国にくらいつけるだけの影響力が欲しいのだが、その為には各国に借りを作らなければいけない。


 それが今回の議題だった。


 「やはり正教会側に付くべきなのでは?多少のリスクを飲み込んで、大きなメリットを取りに行くのもありかと思いますが」

 「馬鹿言え。神聖皇国と正教会国のタイマン勝負なら話は違うが、今回はどう見ても他の国も関わってくるだろ。特に、獣王国と大エルフ国更には亜人連合国も神聖皇国側に付くとなれば、勝負はするまでもなく付いているぞ」


 先日、亜人連合国が大エルフ国との友好同盟を結んだと言うニュースは他の大国の耳にも入っていた。


 昔の遺恨こそあるものの、憎くて殺してやるという程ではなかった彼らは仲良く手を取り合う道を選んだのだ。


 亜人連合国としても不可侵条約を結ぶだけのつもりが、どうしてこうなったと頭を軽く抱えていたりするのだが、それはまた別の話である。


 そして、亜人連合国と大エルフ国が急いで同盟を結んだのは戦争に参加するためだろう。


 大エルフ国に潜り込ませてあるスパイからは、戦争の兆しありと言う報告を受け取っている。


 獣王国も同じだ。正共和国が獣王国内部で随分と好き勝手やっていたらしいく、かなり国の怒りを買っているらしい。獣王が出てきて暴れ回ったその様は、魔王戦の失態を取り戻すかの如くだったそうだ。


 「不利な状況に手を貸すことで借りが大きくなるのでは?」

 「それで国が滅んだら意味ねぇだろうが。メリットに対してデメリットが大きすぎる。ハイリスクハイリターンと言えば聞こえはいいが、その代償を支払うのは俺達とこの国の国民だぞ」

 「........ハイリスクハイリターンって聞こえがいいのかのォ?」

 「良くないわね。ほら、アイツ少し頭悪いから」

 「聞こえてんぞジジィ共」


 40歳程の見た目をした議長の1人は、苦虫を噛み潰したような表情をしつつ軽くため息をついて椅子に深く座り直す。


 「で、それでもお前は正教会国と手を組もうって言うのか?」

 「言ってみただけですよ。流石も泥船に乗る趣味は無いので」

 「ったく、なら言うなよ」


 軽く肩を竦めた青年を軽く睨みつけた後、彼はタバコを咥えて火をつけた。


 彼が議長になってから精神安定剤として欠かせないタバコは、いつの間にかそのポケットに常備されるようになっている。


 「“聖刻”を出すのかのぉ?」

 「ふむ、確かに“聖刻”を出せばなんとでもなりそうではあるな。少し勢いが余ったと言えば、軍を吹き飛ばしても問題ないだろう」

 「いやいや、ダメだから。何言ってんだジジィ」


 一服着いたのも束の間、とんでもない提案をしだす議長の1人にガンを飛ばす。


 “聖刻”を送るのは賛成だが、勢い余って君たちの取り分まで殺しちゃいましたは流石に不味い。


 そんな真似をすれば、間違いなく睨まれるだろう。


 大国を名乗れてはいるが、大国の中では弱小。本当の大国の怒りを買えば、次の標的は自分たちにされかねない。


 「ではどうするのだ?」

 「とりあえずは、神聖皇国が動くまでは待機するしかないだろ。交渉するにしても、戦争が始まってからじゃないと何も言えん。始まってもすぐにぶつかることは無いだろうし、軍をすぐに動かせるように準備だけしておけばいいさ」

 「結局そこに行き着くのか」

 「しょうがないんじゃないかしら?起こってもないことに対処はできないわよ」

 「そう言われると弱いな。まぁ、しばらくは様子見か」

 「国防の為に“牙”の準備だけはしておけよ?」

 「分かっておる。アレは何時でも問題ないわい」


 こうして、合衆国は戦争に参加する事は決定しつつも暫くは様子見をする事となった。


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