いざ、神聖皇国へ
暖かい傭兵達に見送られ、請求書を見て顔を青くしていたアッガスを煽り散らしながら俺達は拠点に帰ってきた。
流石に俺の胃袋も無尽蔵という訳では無いので、途中から異能まで使って酒場にある飯を食べ尽くしてやったのだ。
しばらくは傭兵ギルドの串焼きは要らないな。
そんなこんなで粗方挨拶回りを終わらせた俺達は、遂に動き始めることにした。
どこぞの阿呆のせいで少し目立ってしまってはいたが、世界的には俺たちの存在は知られていない。
ようやく世界を滅ぼせる程の戦力を持つ傭兵団は、牙を剥くのだ。
「さて諸君。我々は遂にその牙を剥く」
久しぶりに集められた全団員は、俺の言葉を静かに聞いていた。
こうして皆の前で団長として話すのは二年ぶりだ。あの時はアスピドケロンと三姉妹と獣人組は居なかったなと思いつつ、威厳ある態度で話を続ける。
「戦争だ。いや、世界を滅ぼすことすらも容易な我々から見れば、戦争という名の遊戯だ。遊び半分で敵を殺し、蹂躙し尽くすのみ。そこに緊張感などないだろう」
取り敢えずそれっぽく言葉を続ける。どこぞの化け物の皮を被った幼女の言葉を借りるなら“戦争だ。いや、戦争のような代物の始まりだ”と言うべきか。
国一つを容易く滅ぼし、あまつさえ世界すらも滅ぼせる力を持った厄災級魔物が16体もいれば、なんだってできるだろう。
世界征服も夢じゃない。
「諸君らにとって、この戦争は暇つぶしだ。私にとっても復讐の副産物に過ぎない」
戦争は目的ではない。俺達によっては復讐の手段だ。
ぶっちゃけ、俺を暗殺しようとした現場を証拠付きで抑え、教皇の爺さん辺りに見せれば好き勝手にあの馬鹿ともを殺してOKと言われたとは思うが、花音がついでに神聖皇国に恩を押し売りしようとした為にこうなってしまった。
今更引き返せないが、もっと穏便な方法は幾らでもあっただろうなぁとは思う。
あの時はテンションが上がりすぎていたのと、神聖皇国に縛られるのが嫌だったというのがある。
それにしても短絡的すぎな気もしないが、既に賽は投げられ、その出目すらも決まりつつあった。
こんなればヤケクソだ。出目にしたがって、俺達は突き進むのみである。
「楽に楽しめ。我々が第二の........いや、第八の魔王になろうとも構わない」
第八の魔王辺りで、全員がほんの僅かにニヤける。
少し冗談っぽく言っているが、こうなる可能性は高いだろう。
厄災級魔物を16体も従え、更には人類を裏切ったダークエルフの子孫を3人。獣王国では災いの子と呼ばれる白色の獣人を5人を仲間にしているのだ。
傍から見なくともヤベー奴らにしか見えない。
さらに言えば、上位精霊や終末の異能持ちまでもがいるのだ。
戦力としては七大魔王よりも間違いなく強い。
戦争が終わって魔王認定されたらどうしようとは思うが、それはその時になってから考えるとしよう。
問題の先送り。日本人の悪いところである。
「好きに暴れて来い!!我々は世界で揺れ動く者。揺れ動いた世界は我らの断片のなる。血の錆びた槍の元に集いし魂達は、決して浄化させることなく、その錆を落とすこと無く、留まり続ける。さぁ!!我らの放つ槍の威力を、この世界に知らしめに行こうではないか!!我らが名は揺レ動ク者!!この世界にただ一つの槍!!この槍は神をも穿つ神槍!!血に錆びた槍の元にこの世界で暴れ回れ!!」
かつて、あの退屈な島を出る時に放った言葉。ゲーム時代の決まり文句。二度目となる言葉を聞いた者達は盛大に笑い、初めて聞くもの達は呆気に取られる。
戦争が始まるのはもう少し、ほんの少し先だがやる気を先取りするぐらいは許されるだろう。
「さぁ行こう。我々の名が世界に轟く日も近い。と、言うわけで、それまでは大人しくしておけよ?」
俺がそう言うと、リンドブルムが爆笑しながら尻尾を地面に叩きつける。
ウロボロスの結界によって、結界内の衝撃や音は外には盛れないが中にいると地面は揺れるしドンドンうるさい。
「アッハッハッハッハッ!!分かっているさ!!どこぞの老人とは違ってアタシ達は大人しいんでな!!」
「リンドブルムと意見が会うとは珍しい。安心せい。儂はのんびりするのでな」
「私も少しの間休暇としますかね。英気を養うってやつですか」
「ぐぬぬ、我の半分も生きておらぬ者達にここまで言われるとは........戦争では本気でやらせてもらうぞ。これでは我の威厳がなくなってしまう」
既にないけどね?とは言えないので、俺はニッコリとだけ笑ってファフニールを見つめる。
創世記と呼ばれる神々が世界を産んだその時から生きてきた最古の竜としての威厳は、この4年近くで既に無くなっている。
そりゃ、酒を樽で飲みながら焼いた肉を美味い美味いと言って笑顔で食べるおっさん竜に威厳があるかと言われれば、Noであろう。
「それじゃ行ってくる。しばらくは帰らないだろうから、その間の留守を頼むぞ」
俺がアンスールに視線を送ると、アンスールは了解したとばかりに頷いた。
「分かっているわ。ベオーク。何かあれば連絡を取り入れなさい。私達の頭は、何をしでかすか分かったものでは無いですからね」
『分かっている。母様も気をつけて』
暫く出番がなかったベオークだが、今回はちゃんと連れてきている。
この前スタンピードの時に連れていくのを忘れたら、滅茶苦茶小言を言われたのでそれ以来は忘れないように心がけていた。
まさか丸一日近くも説教されるとは思わなかった。
しかも、花音が面白がってベオーク側に付くもんだから、更に面倒になってしまったのだ。
アンスールもイスも味方してくれず、結局俺はベオークのご機嫌を取るために一日仕事を休んで子供達やベオークと遊ぶことに。
割と楽しかったのは内緒である。
「忘れ物はないな?」
「問題ないよー。お金さえ持ってれば大抵は何とかなるし」
「問題ないの!!ちゃんとお金は持ってるの!!」
『増員用の子供達はすでに影に入ってる。問題なし』
今回神聖皇国に行くメンバーである、花音、イス、ベオークに確認をとると、その腰にぶら下げたマジックポーチを軽く叩く。
あちこちから盗み出してくる金は、今も増えるばかりであり遂にはアポンを白金貨で買えるレベルにまでなってしまった。
釣りはいらねぇよ。と言ってみたい気もするが、金銭感覚が未だに庶民な俺にはせいぜい鉄貨1.2枚が限界であり、それ以上は勿体なく感じてしまう。
小国どころか、中国の国家予算にすら匹敵する財力を手に入れてしまったと考えると、異世界って夢があるなと思う。
国に所属してはいないから、税金とか取られないしな。
もちろん、この夢を掴めるのはひと握り以下だろうが。
「それじゃ行くとするか。久々に友人の顔を見に行くとしよう」
「龍二は元気かな?報告では元気そうだけど」
「さぁな。文面だけじゃわからん事だらけだし、なんとも言えないさ。少なくとも、怪我や病は無く、アイリス団長とはよろしくやってるぐらいか」
「しっかり茶化してあげないとね。結婚式とかやるのかなぁ?」
久々に会う友人の顔を思い浮かべながら、俺達はドラゴンに戻ったイスの背中に乗り、団員達に見送られながら空へと飛び経つのだった。




