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しばしの別れ

 リーゼンお嬢様の授業を終えたその日は、リーゼンお嬢様の家族も混じえての夕食を食べることになった。


 リーゼンお嬢様が口添えしたのか、かなり豪華な食事を頂いたのだが、2ヶ月前に地竜のパーべキューより劣ってしまうのは仕方がないと言える。


 地竜が美味しすぎるのはしょうが無いね!!アレを毎日食べようものなら、間違いなく他の肉を食べることが出来なくなってましまうので、偶に出てくる高級肉として置いた方がいいだろう。


 まだ100頭近くストックがあるので、気が向いた時に食べるとしよう。


 そして翌日。


 リーゼンお嬢様とその家族&使用人達に見送られながら俺達は傭兵ギルドへと足を運んだ。


 正確には、空を飛んでいった。


 「この街に来られるのは何時になるかねぇ」

 「さぁ?少なくとも、戦争が終わってからじゃない?」

 「戦争が終わる頃には、世界はどうなっているのやら。特に、俺達が魔王にならないか心配だな」

 「それはそれでいいと思うけどね。ほら、勇者が魔王になって世界を支配するお話とかあるじゃん?」

 「勘弁してくれ。俺は魔王なんて器じゃないし、何より面倒だ。あの厄災級魔物達ですら手を焼くんだぞ?俺が魔王になって部下が増えようものなら過労死するわ」

 「パパが魔王........想像できないの」


 出来れば平穏に暮らしたいものである。最も、戦争をおっぱじめようと企む奴のセリフではないが。


 勇者から魔王に転職して許されるのは物語の世界だけだ。現実でやろうものなら、間違いなく面倒になる。


 俺は花音とイスと話しながら、傭兵ギルドの扉を開いた。


 相変わらず昼前から酒の匂いがする酒場兼ギルドには、5人ほど人がおり楽しそうに酒を飲んでいる。


 その内の1人がこちらに気づいて、木のジョッキを持った手を振り上げた。


 「お!!ジンじゃねぇか!!お前もこっちに来て飲むかぁ?!」

 「飲まねぇよ。俺は酒が苦手って言ってるだろうが。今日は普通に用事があってきたんだ。ギルドマスターはいるか?」


 俺がそう聞くと、顔を若干赤くした傭兵のおっちゃんは受付で暇そうに新聞を読むおばちゃんに話しかける。


 「おーい!!おばちゃん!!ジンがギルマスに用だってよ!!」

 「聞こえてたさね。連絡は入れたから、2階のギルドマスター室に行くといい」


 新聞から顔をあげたおばちゃんは、つまらなさそうにギルドの階段を指さしたあと再び新聞に顔を落とす。


 相変わらず仕事の早いおばちゃんだ。


 俺達は例を言うと、そのままギルドの階段を登ってギルドマスター室に辿り着く。


 ノック無しに入ろうとして、流石にそれは不味いかと思い直しコンコンとノックをした。


 「誰だ?」

 「傭兵団揺レ動ク者(グングニル)団長、仁だ。それといつもの2人も付いてきている」

 「あぁ、さっきの連絡はお前達だったか。入っていいぞ」


 ギルドマスターからの許可が出たので、俺達は“失礼します”と言って部屋へはいる。


 ギルドマスター室に入ると、山盛りの書類に埋もれながら必死に書類を捌くギルドマスターがいた。


 「おう、そこら辺に座っててくれ。悪いが紅茶とかも自分で適当に入れてくれや。今ちょっと手が離せん」

 「だってさ。頼めるか?花音」

 「はいはーい」


 花音は気の抜ける返事をすると、テキパキと紅茶を入れ始める。


 その際、資料に埋もれるギルドマスターが普段の俺達の仕事と重なったのだろう。花音は、ギルドマスターの分まで紅茶を入れていた。


 「紙に埋もれてるな。大丈夫か?」

 「大丈夫なわけないだろ。これ全部俺以外では処理できない書類だぞ?人に押し付けることも出来ん」

 「そりゃ大変だ。せっかくこの街の顔役になったってのに、大変そうだな」

 「全くだ。あのジジィを追い出せたと思ったらそのしわ寄せが全部俺にきやがった。牢にぶち込まれても人に迷惑かけるとか、さっさと死んで欲しいね」


 この2ヶ月の間に、バルサルの街の勢力図は大きく変わった。


 その原因となったのは俺だが、普段からいがみ合っていたのだろう。俺と言う火種を皮切りにこの街は水面下で権力争いをしていた。


 冒険者ギルドのトップでありこの街の顔役であったギルドマスターは、俺を使って傭兵ギルドに打撃を与えようと画策するが、俺をよく知る傭兵ギルドと衛兵がコレを妨害。


 更に中立の立場をとっていた教会は冒険者ギルドへからのちょっかいを受けて、こちら側についた。


 勢力的に不利になり始めた冒険者ギルドは次の一手として、俺達の仲間に手を出そうとしたものの花音によって阻止。


 その死体をギルドマスターに丁寧に送り返し、動揺して派手な動きが出来なくなったスキをついて傭兵ギルドは冒険者ギルドの悪事を暴いた。


 俺の助言がここで生きたな。


 スラム街にある“魔の手(デッド・ハンド)”の隠れ家を見つけ出し、俺がこっそり盗み出しておいた取引の書類を見つけ出したのだ。


 既にこの街から手を引いているとは言え、“魔の手(デッド・ハンド)”とのやり取りは確実に犯罪行為でありきっちり証拠付きで衛兵に報告された。


 その後は、冒険者ギルドのギルドマスターは捉えられ、その甘い汁を啜っていた連中も皆仲良く豚箱行きに。


 市民に対しては、一部の悪事を暴露することで不信感を煽り、悪事を暴いた傭兵ギルドをヒーローとして扱った。


 世論と言うのはとても簡単に流れやすく、あっという間に冒険者ギルドは悪者にされ、傭兵ギルドはヒーローとなる。


 信頼を積み上げるのは大変だが、壊すのは一瞬と言うのを体現していた。


 そして、顔役となった傭兵ギルドのマスターには膨大な仕事が流れてくるようになってしまった訳だ。


 「大変そうだな」

 「........よし、終わった。大変ってもんじゃねぇよ。ここ暫く、まともに睡眠すら取れてねぇ。もう少しすればいつも通りになるらしいが........期待するだけ無駄そうだな」


 そう言うギルドマスターの顔には、目の下に濃く残るクマ。更に会った時はサラサラだった毛並みもボサボサになっており、全身から疲れていますオーラが出ている。


 流石の俺も、ここまで疲れきったギルドマスターにちょっかいをかける気にはなれなかった。


 紅茶を持ってきた花音に例を言いつつ、ギルドマスターは紅茶を一口飲んでからゆっくりとソファーに座る。


 目が死んでいる。コレが社畜かぁ........


 「それで?要件は?」

 「とりあえず、コレが終わったら休め。過労で死ぬとか笑えんぞ?」

 「後で少し仮眠を取るさ。2時間も寝れば十分だ」


 不安しかないが、あまりとやかく言いすぎるのも迷惑だろう。


 俺はグッと言いたいことを堪えて本題を切り出した。


 「暫くこの街を離れることになる。戻ってくるつもりではいるが........場合によっては戻って来ないからな。挨拶に来たって訳だ」

 「ほう?普段からこの街に居ないお前達が、暫くこの街を訪れないのか。仕事か?」

 「そんなところさ。俺達も傭兵団なんでな」

 「........ここら辺で戦争は起きてないはずだが?」


 流石傭兵ギルドのマスター。周辺国家が戦争しているかどうかの情報は持っているらしい。


 まぁ、しばらくはこの街を離れるのだ。少しだけ情報を漏らしても問題ないだろう。


 「戦争は起こるさ。それも、今までに無い規模のな」

 「........何を知っている?」

 「一応、シズラス教会国は気をつけた方がいい。既に国は解体されてるが、世界が混乱すれば何があるか分からんからな」

 「........チッ、分かった」


 無理やり聞き出すのは無理だと判断したギルドマスターは小さく舌打ちをした後、大人しく俺の助言を聞き入れるのだった。


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