主役(メインディッシュ)
今回のスタンピードの中で、最もやる気に満ち溢れているのは間違いなくエドストルだろう。
詳しくは聞いていないが、自分の両親を殺したやつが正教会国におり、その敵討ちに燃える彼がいたから俺は三姉妹と獣人組を引き連れてきたのだ。
「いつも真面目だが、今回は顔つきがさらに険しいな」
「コレで何か失敗があれば、間違いなく戦争には参加出来ないからねぇ。エドストルからすれば、ここでしっかりと自分達が戦える事を証明したいんだよ」
「多少失敗しても戦争には参加させてやるんだがなぁ........」
「それでも、失敗しない方が安心するでしょ?」
「まぁ、そうだな」
俺も花音も戦争に参加する理由は復讐だ。
どこぞのアホを始末するためだけに戦争に参加する。
そんな俺達が、同じく復讐に燃えるエドストルに力不足だからダメだなんて事を言うつもりは無い。
「エドストルの異能って戦闘向きじゃないんだが、大丈夫か?」
「大丈夫なんじゃない?ほら、時間の合間を見つけてはドッペルと稽古してるし」
エドストルの異能は、どいらかといえば補助寄りだ。
俺の様に理不尽でもなければ、イスやシルフォードの様に広範囲に高威力の攻撃ができる訳でもない。
だから、基本は身体強化を使った肉弾戦となる。
しかし、エドストルは徒手空拳の才能が余り無かった。
そこで彼は、剣を振るうことにしたのだ。
幸いな事に、剣の才能はあったみたいだしな。
「なんだっけ。自己像幻視流だっけ?また面白い名前にしたよな」
「ドッペルから教わった剣だから“自己像幻視”って訳だね。ドッペルの二つ名を持った剣術。数々の武の達人の顔を持つドッペルが教えた剣。剣聖が相手じゃなきゃ大抵は勝てるんじゃない?」
「剣聖にはさすがに勝てないか」
「アレを見て仁は勝てると思うの?」
「エドストルは無理だろうな。俺でも本気でやらないと勝てないだろうさ。イスみたいななんでもありな異能なら別だけど」
「その何でもありな異能を余裕で突破できる癖によく言うの」
「はっはっは!!こればかりは相性差だな!!」
俺は少し頬を膨らませるイスの頭を優しく撫でながら笑う。
心の中では、やり方次第では俺も殺されるんだけどなとは思うものの、流石にそれは言わなかった。
そうしている間に、エドストルは迫り来る魔物との戦闘に入った。
「おぉ、何もしてないのに魔物が倒れてくな」
「手品だねぇ」
魔物は、エドストルの射程圏内に入ると途端にバランスを崩して倒れていく。
そして倒れた魔物は、後ろから迫る波に飲まれていってしまった。
魔物が急に倒れた原因はおそらくエドストルが異能を使ったからだろう。
相手に干渉する系の異能は、相手の魔力量が多いと効果が薄れてしまう。
しかし、全く干渉できない訳では無いので、使い方によっては大軍をも押しのける力になるだろう。
まぁ、俺や花音、イスレベルにまでなると全くと言っていいほど効かないのだが。
「地竜に効くのかねぇ?使い方次第とは言え、エドストルの異能は弱いからな」
「どうだろうね。効くにしろ効かないにしろ、結局はその手に持った剣で仕留めるしかないからなんとも言えないかな」
「そうだな。かつて王に成り代わった魔物の剣技、見せてもらうとするか」
一万と言う大群を前に、臆することなくゆったりと歩くエドストルは、その手に持った灰輝鉄の剣に魔力を纏わせて振るう。
普通ならば、その剣が届く範囲までのものが切れるだろう。
だが、魔力を斬撃として飛ばす手段を持つエドストルの剣は、それ以上に切り裂いていく。
面白いように魔物がスパスパと切り裂かれ、荒野を血の海に染めていくその光景は見ていてとても爽快だった。
「無双系のゲームってリアルで見るとあんな感じだろうな」
「ちょっと楽しそう」
「なら参加するか?少し暴れるぐらいなら文句は言ってこないだろうし、なんならリーシャあたりは喜ぶぞ?」
「いいよ遠慮しておく。楽しそうだけど、やりたい訳じゃないしね」
花音はそう言うと、楽しそうにエドストルが暴れているのを見る。
昔からそうだが、花音は“やる”よりも“見る”の方が好きみだいだな。
「この調子なら問題無さそうだな。それよりも俺達の後ろにいる奴らの方が問題だわ」
「そうだねぇ。今は全員口開けて固まってるけど、全部終われば話を聞かれるよ?それに、揺レ動ク者って既に名乗ってるから、間違いなく神聖皇国に話が行くだろうし」
「何とかするさ。俺と花音の正体がバレなきゃそれでいい。その為にローブと仮面を被ってるんだしな」
仮面被ってても紅茶を飲める辺り、この仮面の魔道具は優秀である。
やっぱドッペルは凄いなぁ。
そう思っていると、一つの光線がシルフォードへと向かっているのを見つけた。
結晶スコーピオンの攻撃だな。
流石に大暴れする不死鳥を、相手にし続けるのは無理だと悟ったらしい。
魔物からの反撃が来ていた。
「あー、そういえば花音って結晶スコーピオンの結晶溶かす欲しい?」
「いらない。別に宝石とか興味無いし」
「そっか........」
そう話している間にも光線はシルフォードへと一直線に進むが、その歩みはいとも容易く盾に受け止められた。
鉄をも溶かす熱線を受け止めておきながら、その盾が傷ついた様子はない。
「流石、守りに関しては自信があると言うだけはあるな」
「あれ、魔法に近くて魔法じゃないから私だと無効化出来ないんだよねぇ」
「プランも反撃が早いの!!」
熱線を受け止めたゼリス。そして、光線を見て相手の位置を把握したプランの反撃。
お互いに通じあっている獣人夫婦は、何も言わずともかなりの連携が取れる。
手応えを感じたのか、結晶スコーピオン達は何度も熱線をシルフォードに向けて打つが、その悉くが不動の盾に阻まれる。
受け流すことも出来るだろうが、ゼリスは後ろにある街のことを考えて受け止めているようだ。
「お、プランがさらに矢を放ったな」
「記憶したのかな?」
「多分そうだろうな。あの弓はかなりの曲者だ」
プランの異能“|落ちゆく記憶《Folling Down》”は、その矢で撃ち抜いた相手を記憶することが出来る。
同種の魔物であれば、その記憶の対象になるためこのような乱戦で特定の相手だけを撃ち抜きたい時はかなり有用だ。
ちなみに、人間を記憶させれば、大量殺戮兵器の完成である。
他にも様々な能力があるプランの異能だが、今回は使わないようだ。
天高く登った矢は、空中で爆ぜると流星の如く狙いを済まして落ちていく。
リンドブルムの流星には遠く及ばないものの、プランの一撃は正確に結晶スコーピオンを撃ち抜いていった........多分。
「うーん。遠すぎて見えん。気配もこれだけ多いとさすがに分からんな」
「殺れてると思うよ。プランの矢を受け止められるほど、結晶スコーピオンの甲殻は固くないだろうからね」
目がいいからと言って、どこぞの巫女のような千里眼は使えない。
流石に離れすぎていると、俺たちには何が起こっているのかは分からなかった。
そうして三姉妹と獣人組が魔物を討伐して行く中で、一際大きい気配が姿を現す。
「ようやく来たな。地竜」
「ここからが本番だね。一応、動ける準備だけしておこうかな」
「食べるのー!!」
主役のご到着だ。
腹いっぱい食ってやろう。




