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たまにはのんびりも悪くない

サラの成長を見届けてから5日後。サラの修行は一旦終わりを迎えて、シルフォードの元に帰ってきた。


5日前とは違い荒れ狂った魔力の気配を感じることは無く、静かな魔力を感じ取れる辺り、自分の力をコントロールすることが出来ているのだろう。


その体内に抱擁する魔力量は、下位精霊の時とは比べ物にならない。


「さて、サラも晴れて上位精霊になったわけだし、サラの姿を描いてもらうとするか」

「良かったね。ちゃんと精霊を描く仕事をしている人を見つけられて」

「ホントだよ。意外と需要があるのか、探せばそこそこの数いるのはびっくりしたな」


サラが自分の中に渦巻く魔力の制御に勤しんでいる間、俺達もサラの事を描いてくれる絵師を探していた。


絵師自体は割と直ぐに見つかったのだが、その腕前はピンキリらしく、値段も安ければ銀貨数枚、高いところでは金貨を取る所まであった。


折角なら腕のいい絵師に頼もうと探していたのだが、やはり腕のいい絵師と言うのは人気が高く予約を入れる必要がある。


幸い、今日は仕事がなかったようで、規定額の1.5倍を払うことで受けてもらえる事になった。


これがアゼル共和国ならもっと簡単にできたのだろうが、大エルフ国にはこれといったコネが無い。


やはり、権力は大事である。


何とかコネを作ろうかとも思ったが、そう簡単にコネが出来れば苦労はない。この5日間でコネを作るのは流石に無理だった。


アゼル共和国では上手く行き過ぎたのだ。普通はこんなもんである。


「サラの姿、皆に見せれるの!!」

「皆気になってた........私とイスちゃんと画力だと何も分からないからね........」

「シルフォード。その話はやめて欲しいの........」


サラの姿が皆に見せれるのが嬉しいのか、盛り上がるイスとシルフォード。


そして、勝手に地雷を踏んで落ち込んでいるその様子は少し間抜けだった。


「さて、婆さんの宿は引き払ったし、さっさと行こうか。時間は有限だしな」

「サラはどんな姿なのかなー。楽しみだね」

『同感。ワタシ達はサラの姿を知らないから尚更』


サラの姿が見れるということでワクワクしている花音とベオークを連れて、俺達は予約していた絵師の所へと足を運ぶ。


「え?私とイスにも絵を書いて欲しい?いや、無理無理。私の絵、見せられるものじゃない」

「私もそれはちょっと........なの。あの気や使われたなんとも言えない空気は二度と味わいたくないの........」


俺達が歩く後で、イスとシルフォードガサラと会話をしている。おそらく、イスとシルフォードにも自分の絵を描いてもらいたいのだろう。


しかし、自分達の画力の無さを自覚している2人はそれを拒否していた。


シルフォード曰く、依然描いたイスとシルフォードの絵はシルフォードの部屋に飾ってあると言う。


サラは自分が見えるこの2人にどんな形であれ、絵を描いてもらいたいのだろう。


契約者と友人のが描いてくれた絵というのは、サラにとって特別な物のはずだ。


「描いてやれよ。俺達に見せる必要は無いからさ。サラは二人に描いてもらった絵が欲しいんだろ」

「そうだよ。イス。少ない友達の我儘なんだから、聞いてあげなきゃ。大丈夫。私や仁に見られたくなければ、私達は見ないから」


大事な人からの贈り物は何物にも代えがたい。サラにとってはこの二人が大事なのだろう。


であった当初は俺の頭を燃やそうとしていたやんちゃ精霊が、随分と人間らしい感情を持ったものだ。


「む........サラだけが見るなら........まぁ........」

「友達のためになら........まぁ........」


似たような反応をするイスとシルフォード。


二人が自分の絵を描いてくれると分かったサラは嬉しいのか、2人の周りをグルグルと飛び回っていた。


ほんと、その表情が見れないのが残念だよ。


しばらく歩くと、目的の場所に着く。


見た目は普通の家でありながら、どこか高級感を漂わせるその家の扉を叩くと、1人の男エルフが顔を覗かせた。


「お、来ましたね。おまちしておりました」

「悪かったな急に頼んで」

「いえいえ、構いませんよ。私のモットーは“仕事は受けられるうちに受けとけ”なので。余程大事な用がなければ受けるようにしてますから。それに、今回は報酬も美味しいですしね」


仕事は受けられるうちに受けとけ、か。いい言葉だな。


特に実力主義である絵の世界では、仕事を選り好みできるような人は少ないだろう。


この人はそれなりに有名になってはいるが、下積み時代の心持ちを忘れないようにしているようだ。


「それで、今回描かせて頂く精霊はどこですかね?」

「あぁ。あそこにいる精霊だ。見えるか?」


俺はシルフォードの後ろにいる(俺には見えない)サラを指さす。


すると、絵師は大きく目を見開いて固まった。


「な、な、なぁ........!!上位精霊じゃないですか!!」

「そうだけど........そんなに驚くことか?」

「驚きもしますよ!!ここにいるってことは、どなたかと契約したってことですよね?!上位精霊の契約者なんて、滅多にいないんですよ!!」


へぇーそんなんだ。


という感想しか浮かばない。


そもそも精霊は位が上になっていくほど数が少なくなる。さらに、上位精霊ともなると人前には滅多に出ることはなく、人を気に入ることもほとんどない。


中位精霊ですら契約している者はかなり珍しい部類に入るのだ。


あの婆さんは割とレア物だったりする。


サラの場合は下位精霊から修行をして上位精霊になっているが、それをこの絵師が知る由もない。


「初めて見ましたよ。契約している上位精霊。あ、この国にいる時はあまり見せびらかさない方がいいですよ。国が取り込もうと必死になるので」

「そうなのか?」

「戦力としては破格ですからね。どんな手を使ってでも取り込もうとしますよ。私の知ってる話では、家族を人質に取ってまで軍隊に入れようとしていましたから」

「それは恐ろしいな。でもいいのか?そんな忠告して」

「私は、精霊が自由に生きているのを見るのが好きですからね。戦いに明け暮れる精霊は美しくない」


この人なりの美学と言ったところだろう。


それにしても、大エルフ国でもそういうことはあるんだな。


そういえば、そんな報告書を読んだ気がする。毎日のように色々な情報を頭に叩き込むから、大事なもの以外は忘れちゃうんだよな........


「まぁ、そんな訳ですから、気をつけてください。なんの後ろ盾もない一般人では国家権力には太刀打ちできないので」

「はは。その時はこの国そのものを消し飛ばすさ。俺の仲間に手を出すやつは許さん」

「あははははははは!!頼もしいですね!!さて、そろそろ仕事を始めるとしますか」


場も和んだところで、ようやく絵師はサラの絵を描き始めた。


サラは絵師の指示に従って、大人しく椅子に座っている........らしい。


気配でしか分からない俺達には、サラが何をしているのかが分からない。


時間がかかるそうなので、俺達はのんびりと待つことにした。


流石にサラのいる真横で遊ぶのは良心が咎めたので、大人しくしている。


たまにはこう言う時間もいいかもなと、俺は思うのだった。


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