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私は私?

 俺が花音に絞められた次の日。


 俺は宮殿の庭に集まった面子を見て、不安に思う。


 「獣人達はともかく、他はバレようものなら国から追い出されそうだな........」

 「人類の裏切り者と呼ばれるダークエルフに、かつては一国の王と王妃だった吸血鬼、更には一国の王と成り代わっていたドッペルゲンガー。1人でも正体がバレれば、大騒ぎになるだろうねぇ」

 「三姉妹はそこら辺ちゃんとわきまえてそうだし、ドッペルゲンガーも完全に人間になれるからいいけど、吸血鬼夫婦は不安しかないな........」


 余程街へ行くのが楽しみなのか、ウッキウキが全身から伝わってくるストリゴイとスンダル。


 彼らの特徴は、その発達した歯だ。


 真祖と呼ばれる程にまで強くなった吸血鬼の見た目は、ほぼ人間と変わりはない。


 しっかりと注意しておけば問題ないとは思うが、割と自由奔放な2人が、会話の中でポロッと“自分は吸血鬼だ”と言うかもしれない。


 そんなことになれば、いくら仲が良かった人達であっても俺たちを避けるだろう。


 下手をすれば、指名手配犯にまでなる可能性がある。


 そうなれば、この国に吸血鬼を連れ込んだ俺達もお尋ね者になるし、アゼル共和国の大地を踏むことは二度と無くなるだろう。


 物資を買い込むのに困ることは無いが、今まで積上げてきた信頼をここで失うのは惜しい。


 それに、バルサルで起こっている傭兵ギルドと冒険者ギルドの力関係が一気に崩れてしまう恐れがあった。


 そんなことになれば、恩を仇で返す所ではない。


 俺は、念の為釘を指しておく。


 「いいか?スンダル。ストリゴイ。向こうでのお前たちの名前は、ラーグとティールだ。間違っても本名で呼ぶなよ?」

 「ふはははは!!分かっておる!!昨日はその名前で呼ぶ練習はしっかりとしたのでな!!」

 「大丈夫よ。団長さん。いくら楽しみだからと言って、迷惑をかけるようなことは絶対にしないわ」

 「ほんと、マジで頼むぞ」


 信頼を積み上げるのは大変だが、壊すのはあっという間だ。


 そして、壊れた信頼は二度と戻らない。


 俺は、やっぱり不安だと思いながらも吸血鬼夫婦を信じることにした。


 いざという時は、ちゃんとやってくれるはずだ。


 ........フラグじゃないからな?


 「団長さん。私達も傭兵登録?ってのをやるの?」


 吸血鬼夫婦への釘刺しが終わったのを見て、シルフォードが話しかけてくる。


 バルサルでの滞在は2日間。


 1日目はバルサルのあちこちを案内し、2日目は自由行動にしている。


 ついでに、彼らが街に簡単に入れるように、傭兵登録を済ませるつもりだ。


 傭兵団って言っておきながら、今まで3人しかいなかったしな。


 「そうだ。実力試験もあるから、気合い入れろよ?もし落ちたら、吸血鬼夫婦にシゴいてもらうからな」


 俺がそう言うと、三姉妹と獣人達の顔が一気に引き締まる。


 普段から戦い方を教わっている吸血鬼夫婦の容赦のなさを、彼らは思い出したのだろう。


 俺公認で“シゴいていいよ”なんて言った日には、どんな目にあうのか分かったものでは無い。


 「まぁ、そんなに肩の力を入れなくても大丈夫だとは思うぞ?あそこのギルドマスターは金級(ゴールド)冒険者並の強さらしいから、今のお前たちなら問題なく叩きのめせるだろ」


 そもそも、合格の条件はギルドマスターをぶっ飛ばすことではなく、しっかりと戦える事を見せる事なのだが、本人達はやる気満々のようなので何も言わないでおこう。


 後でギルドマスターに怒られるかな?


 ボコボコにされたギルドマスターが、俺に半分呆れながら怒鳴る姿が目に浮かぶ。


 俺は少しだけ口角をあげた後、真面目な顔に戻って街に行くことが楽しみな我らが団員達を見る。


 「さて、行くとするか。本当はイスの異能で連れて行ってもらおうかと思ったが、そうすると道が分からんだろ?少し走っていくから、ちゃんと付いてこい」

 「「「「了解」」」」

 「ふははは!!あいわかった!!」

 「楽しみねぇ」

 「いつ見られてもいいように、顔を変えておきマスか」


 顔を変えたドッペルや、ウキウキな吸血鬼夫婦、少し緊張している三姉妹といつも通りな獣人達を見ながら、俺はバルサルの街へと走り始めたのだった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 世界を恐怖へと落とした七大魔王が討伐されたが、彼らが残した不穏な種はその芽を開こうとしていた。


 「........ん、これもハズレかぁ」


 手に待った本を置くと、朱那は大きく伸びをする。


 彼女の座っている椅子の横には、何十冊もの積み上がった本が置いてあった。


 「初代勇者を調べろ、ねぇ。魔王の言うことが全て本当だとは思えないけど、幾つかは本当っぽかったんだよなぁ」


 朱那はそう言って、憤怒の魔王との戦闘中の会話を思い出す。


 「“我々七大魔王は女神に挑むつもりなどない”“女神が作った異能勇者(ヘルト)”“我が身が可愛いだけの女神”色々な情報が入りすぎて、何が本当なのか分からないよ。でも、天使については多分合ってる」


 朱那はそう言うと、天井を見上る。


 綺麗な装飾が施された天井ではあるが、今の朱那の目には学校の教室よりも無機質に見えた。


 「天使は既に滅んでいた。言い方からして、天使に関する異能は受け継がれるのかな?多分、私の異能も元は前任者がいたんだろうなぁ。まぁ、だからどうしたって話なんだけどね」


 朱那は自分の手を上へと持ってくると、その手をじっと見つめる。


 その手は白く美しく、何者にも汚されない。


 「興味本位で調べ始めたけど、知ってどうするって話だよね。まあ、その時考えればいいんだけどさ」


 朱那はそう呟くと、横に置いてあった本を片付け始めた。


 「手伝いますか?」


 朱那が動くと同時に、朱那の対面に座っていた男が語りかける。


 彼は、朱那の独り言には反応しなかったその男。


 朱那は小さく微笑みながら、首を振った。


 「大丈夫ですよ。ロムスさん。場所はちゃんと覚えているので」


 ロムスと呼ばれた男は、静かに頷くと持っていた本に目を落とす。


 大聖堂の書庫。


 様々な文献や本が並ぶこの場所、かつて仁が知識を詰め込むためにいた場所。


 朱那もその場所で知識を貪る。


 「あぁ、そうだ。先程の独り言ですけどね。この世界に受け継がれるの異能はありますよ。その予想はあっています」

 「へぇ?私、結構いい線行ってました?」

 「七大天使(グレゴリウス)。それが貴方の持つ異能の名前ですよ」

 「ん?私の異能の名前は、四番大天使(ウリエル)では?」

 「えぇ。貴方の異能は“四番大天使(ウリエル)”です。そして、その分類は“七大天使(グレゴリウス)”と呼ばれています」


 朱那は“また始まった”と思いつつも、ロムスの言葉に耳を傾ける。


 ロムスは自分の知識を披露したいのか、語り癖がある。


 仁は結構無視していたりしたが、朱那ら下らない事でも話を聞く。


 ロムスにとっては、割と居心地が良かった。


 しばらくロムスの話を聞いた後、シュナは一つだけ質問をする。


 「私は........私は、一体何者なのでしょうか?」

 「天使は天使。シュナ君はシュナ君さ。君が君である限り、君はクロユリシュナなのさ」

 「.......?」


 その言葉の意味を知のは、まだ先である。

昼飯食ってたら投稿遅れた。すまぬ.......

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