ガラクタ作りの情報屋
それからさらに一ヶ月。
嫉妬の魔王が復活し、討伐されてから三ヶ月が過ぎていた。
今まで約一ヶ月おきに復活していた魔王の復活。しかし、今回は間が開きすぎている。
これに関して各国の上層部、特に神聖皇国の教皇はこの事を気にかけている。
自分の知らないところで、とてつもない何かが動いているのではないかと。
とは言え、魔王が復活しないことには何も出来ない。
地脈の情報に関して殆ど調べ終え、後は子供たちに任せている俺達はバルサルの魔法具店を訪れていた。
「なんつーか。ガラクタばかりだな。やっぱお前は情報屋の方が向いてるよ」
「あ?もっぺん言ってみろや。その口を魔道具で切り取るぞ?」
「だったらもう少し実用性のあるものを作ったらどうだ?マルネル」
マルネスと呼ばれた幼女店主は、頭に青筋を浮かべながら俺の見ていた魔道具を手に取る。
相変わらず凄い格好だ。
片方だけ袖が長い上着と、片方だけ長いズボン。
しかも、上下で逆になっている。
A型とかが見たら発狂しそうだな........いや、俺A型だけど別に発狂してないわ。
そんなロリ店主を見てるると、マルネスは手に取った魔道具を俺に向けてきた。
まさか、本当に口を切り取る気か?
そう思った矢先、円形の魔道具はクルクルと回りはじめ、次第にその速度が上がっていく。
そして10秒後止まった。
何がしたいのか分からず見ていると、マルネスは顔をバッと上げて俺に凄む。
「ほら!!これのどこがガラクタか言ってみろ!!」
「どこもかしこもガラクタだろが!!クルクル回るだけのどこに実用性がある?!」
「あるだろ!!ほら、子供の玩具とか........」
「銀貨5枚もする高級玩具か?まだ剣を振り回している方が遊べるぞ?このガラクタと違って壊れても懐も痛まないしな」
「うぐっ........」
俺に負けたと感じたのか、マルネスは苦い顔をする。
やはり、自分でも少しは思っていたのだろう。
“こんなガラクタ何に使うんだ?”って。
結構リアルに凹むマルネスを見て、流石に申し訳なくなった俺は少しだけアドバイスをした。
「とは言え、こんなガラクタでも色々と組み合わせたら面白いものができそうだけどな」
「........?」
マルネスは、俺の言いたいことが分からず首を傾げる。
正直こてんと首を傾げるその姿は可愛かった。
口調こそ男勝りな感じだが、見た目はかなりいいからな。
「例えば、馬がなくても動く馬車とか作れそうじゃないか?車輪をこれにして、もっと動力を上げれれる事が前提だけどな」
「........なるほど。それは面白いな。馬が無くも走る馬車。その速度にもよるが、馬車なみに走れて魔石の消費が現実的であれば行ける........か?」
「それはマルネス次第だろ。自称バルサル1の魔道具士さん」
「貴様。本当にいい性格をしているな。イスちゃんやカノンがいなければ、出禁にしてたぞ」
割とマジトーンで言われた。
俺はケラケラと笑いながら、そのガラクタをマルネスから取り上げると、会計のカウンターに置いておく。
「なんの真似だ?」
「分からないのか?その小さい脳を頑張って働かせてみろよ」
「お前、本当に嫌いだわ」
そう言いつつも、俺から貰ったアイディアを元に何か考えているのか、ずっと下を向いて考え込んでいる。
これは言うタイミングを間違えたかもな。
下手したら、このままずっと固まって会計して貰えないかもしれない。
俺は、一旦マルネスをそのまま放置して花音達の元へ足を運ぶ。
花音とイスは色々と魔道具を動かしていたようだ。
「固まっちゃったね」
「そうだな。傍から見たらやべーやつだ。立ち尽くしてブツブツ何か呟いているんだからな」
「ちょっと不気味なの」
イスはそう言いながら、手に持った魔道具を起動させる。
見た目はただのナイフだ。
「何それ」
「切れないナイフなの。ほら」
イスはそういうと、自分の腕をなんと躊躇いもなく切りつける。
思わず反応してイスの腕を止めそうになるが、何とか思いとどまった。
イスが自分を切りつけた部分には一切傷が無く、白くて綺麗な肌が太陽の光を浴びて輝くだけだった。
「ね?切れないの」
「ほー。実用性はともかく、面白いものではあるな」
「昔似たようなのあったよね。刃が引っ込むナイフの玩具」
「あーあったな。俺も窓にくっ付く弾を打てる銃とかで遊んでたわ」
スーパーの100均の玩具コーナーとかにあるショボイ玩具だ。
俺が高校に上がる時には既になかったが、火薬を入れてパンパンと音だけ鳴らす銃とかもあったな。
俺が懐かしんでいると、花音も色々と思い出したのかどこか懐かしむような顔をしている。
「昔はBB弾とか入れれる玩具の銃とかあったのに、いつの間にか無くなってたよな」
「あったねぇ。エアガンとは違う奴ね。あれば危険だからクレームでも入ったんじゃない?」
「まぁ、確かに小学生低学年とかが持つと危ないよな........」
節度を守れば安全だが、子供に節度など求めるものでは無い。
イスやリーゼンお嬢様のように賢い子供は、ごく稀だ。
大抵は調子に乗って問題を起こす。
「やべぇ、この話してたらサバゲーやりたくなってきた」
「分かる。今度ドッペルに作ってもらおっか」
「さばげーって何なの?」
イスが可愛らしく首をこてんと傾げる。
どっかの自称バルサル1の魔道具士とは違い、こちらの破壊力は絶大だ。
可愛いすぎる。
「サバゲーってのは........なんて言ったらいいんだ?」
「エアガン........って言ってもわかんないし。銃........もない。どう言えばいいんだろ?」
異世界でサバゲーを伝えるのって難しいな。
んーとあっ、これなら通じるか?
「イス、氷合戦分かるよな?」
「分かるの」
「あんな感じだ。自分の手で投げずに、魔道具で弾を発射すること以外は、似たような感じだ」
「んー何となく分かったの」
ウチの子は理解が早くて助かる。
少し話しはずれるが、サバゲーは日本発祥の遊びらしい。
アメリカ発祥なのはペイントボールなのだとか。
「ねぇ仁。今思ったんだけどさ」
「ん?」
「私たちの知ってるエアガンやガスガンの弾速はさ、この世界だと余裕で避けれちゃうよね?」
「........あ」
俺たちの身体能力なら、対物ライフルだって容易に避けられるだろう。
前の世界でもその気になれば、避けれないことも無いエアガンやガスガンなど止まって見えるはずだ。
不意打ちで当てれれば別かもしれないが、俺達には更に探知と言う技能がある。
何処から奇襲されようが、当たらないのだ。
「ドッペルにはとてつもなく早い弾速を放つ銃を作ってもらうか?」
「それ、間違っても市場に流れないように気をつけないとヤバいよね?管理が面倒だよ」
俺がドッペルにアイディアを渡すのにはルールがある。
何らかの間違いで情報が盛れた場合、軍事的に使われそうなものは教えないのだ。
俺以外にもクラスメイト達が色々と知識を持っているから、遅かれ早かれ大量殺戮兵器が生まれるだろうが、それが俺達から出ては行けないと思っている。
一種のエゴだな。
特に、魔道具を作ることに優れたドッペルがあるからな。
アイツなら、あっという間に作ってしまうだろう。
「........サバゲーは諦めて、氷合戦にするか」
「その方が懸命だよ」
俺は少し肩を落として、まだブツブツ何かを呟いているマルネスに会計を頼むのだった。




