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武勇を語るは勝者の特権

 厄災級魔物達との大乱闘。見るものによっては、世界の終わりかのような光景を作り出した遊びを終えた翌日。


 俺と花音は、たった二日で溜まりに溜まった報告書に軽く絶望感を覚えながら仕事をしていた。


 「死ぬ........この前の5倍はあるんだけど」

 「しょうがないだろ。それを承知で2日も仕事サボったんだから。諦めろ。俺はもう諦めてる」


 前回アスピドケロンよりも高く見えた書類の山。今回はそれが5つに増えていた。


 ヒマラヤ山脈かな?


 正直、こんなに増えているとは思わなかった。


 どうも、地脈に関係ありそうな物を全て持ってきているらしく、そのせいでこんなにまで報告書が膨れ上がっているんだとか。


 だとしても多すぎる。


 俺と花音がヒィヒィ言いながら山積みの報告書と向き合っていると、聖堂の扉が開かれる。


 気配からして、シルフォードだ。


 仕事中の時は大抵シルフォードが来るな。


 シルフォードは、俺達を見るやいなや、ものすごく心配そうに話しかけてきた。


 「団長さん、カノン。大丈夫?顔が死んでるけど」

 「コレが大丈夫に見えるなら眼科に行った方がいい........んで、何しに来たのシルフォード」

 「アンスールさんから昼食を預かってきた。食べる?」


 シルフォードはそう言うと、マジックポーチからサンドウィッチが入ったカゴを取り出す。


 茶色のパンに挟まれた色鮮やかな野菜達と、少量の肉。


 パンの色も相まって、どちらかと言えば形の変わったハンバーガーにも見える。


 俺は報告書を置くと、疲れた目を軽くほぐしてからそのサンドウィッチを手に取った。


 「いただきまーす」

 「いっただきまーす」


 この世の全ての食材に感謝の心を抱きつつ、アンスールの作ったサンドウィッチにかぶりつく。


 シャキシャキとした食感と、柔らかくそして溢れ出た肉汁が口の中を満たし、午前中の疲れを癒してくれる。


 やはり、アンスールのご飯は美味しいな。


 花音も何も言わないが、心の中では美味しいと思っているのだろう。


 その顔には小さな笑顔が浮かんでいた。


 「ねぇ、昨日はすごい遊びをしたんだよね?」


 俺達がサンドウィッチに夢中になってると、シルフォードは昨日厄災級魔物達と遊んだことについて聞いてくる。


 「ヨルムンガンドから聞いてないのか?」

 「うん。昨日はちょっと忙しかったから」

 「なら本人から聞いてこい。ヨルムンガンドもその方が嬉しいだろうよ」


 俺がそう言うとシルフォードは少し考えた後、“わかった”とだけ言って聖堂を出ていった。


 ところで、“昨日はちょっと忙しかった”はもしかしてこの量の報告書を捌いていたからか?だとしたら少し申し訳ない。


 俺と花音は自業自得なところもあるが、シルフォード達は俺の命令でやらされてるからな。


 こんなにたくさんの報告書を持ってくるのは正直勘弁して欲しかったりするが、それは俺の責任である。


 さて、俺も花音も無言で昼食を食べる様な気まずい仲では無い。


 話は自然と、シルフォードが言った大乱闘の話題になる。


 「昨日は凄かったねー。仁が私を道連れにした後、ファフやフェンもやって来ての大乱戦。徐々に脱落者が出てくる中で、ヨルが隙をついて全員を巻き込んでの攻撃で勝っちゃったんだから」

 「そうだな。大乱戦の時に姿をしっかりと隠して耐え忍んだヨルムンガンドの作戦勝ちだったな」


 俺と花音がイスに落とされた後、大乱戦になっていた場所にファフニール、フェンリル、マーナガルムもやってきた。


 皆結構マジで勝ちに来ていたので、誰とも手を組もうとしない。


 俺が残ると厄介だと分かって、俺だけを狙ってきていたニーズヘッグとケルベロスもお互いに牽制し合っていた。


 イスはファフニールと戦いたいらしく、しつこく氷塊や氷のブレスで攻撃。


 対するファフニールはイスではなくニーズヘッグを狙い、ニーズヘッグはファフニールに応戦しつつジャバウォックに攻撃。


 ジャバウォックはニーズヘッグの攻撃を上手く捌きながら、全員纏めて潰そうと画策し、ケルベロスと途中から来たフェンリルがそれを止めようとする。


 そして、その隙を狙ってマーナガルムがいい所を貰っていこうとあちこちにちょっかいをかけ、リンドブルムはチマチマ攻撃をしてくるマーナガルムに痺れを切らして狙い撃ちを試みる。


 そんなハチャメチャな攻防戦の中、ヨルムンガンドはただ1人じっと氷の地面の中をゆっくりと移動して気を伺っていたわけだ。


 そして、徐々に脱落者が出てきて、人数が減ると皆ヨルムンガンドのことが頭からすっぽ抜けていた。


 殺し合いならともかく、あくまでもこれは遊び。もしこれが、殺し合いの戦闘なら地面にヨルムンガンドがいるのを探知できていただろう。


 「多分、皆“態々隠れてコソコソと気を伺う様な厄災級魔物はいないでしょ”って思ってたんだろうな」

 「そうだねぇ。普段はプライドも高いし、こういうのは正々堂々!!って考えてそうだね」


 ヨルムンガンドはそれが分かっていたから、隠れて気を待ったのだ。


 別にルール違反ではないしな。


 そして、全員の意識がヨルムンガンドから外れたその瞬間を狙って攻撃をし、全員対応が遅れて負けた。


 「結構忍耐強いのかもな。他の厄災級魔物は短気なのが多いし」

 「イスと遊ぶのが1番の目的だったけど、こうしてみんなで遊んであまり見ない一面が見れたのは良かったかもね」

 「そうだな。三年以上の付き合いになるが、未だに全員の性格を把握しきれていないしな」


 ヨルムンガンドに負け、中には“卑怯だ”という者もいるかと思ったが、誰一人としてそういう事を言う者はいなかった。


 それどころか、耐え忍んだヨルムンガンドを褒めていた。


 そこら辺は、人の良さが出ているのだろう。


 いや、この場合は魔物の良さか?人ではないしな。


 プライドが高くとも、認めるべきものはしっかりと認める。


 それが出来るからこそ、彼らは強いのかもしれない。


 「あの嬉しそうなヨルムンガンドは初めて見たな」

 「ちょっと可愛かったねぇ。触角が犬の尻尾みたいにブンブンしてたのは思わず笑っちゃったよ」


 褒められたヨルムンガンドも嬉しそうにしており、きっとシルフォードに自慢するだろう。


 俺はそう思ったから、“ヨルムンガンドに聞きに行け”と言ったわけだ。


 ヨルムンガンドの勇姿を語っていいのは、ヨルムンガンドだけである。


 「まぁ、結果がどうであれ、皆が楽しそうでよかったよ。今度は団員全員でできるような遊びをやってみたいな」

 「でも、それってアスピちゃんの問題をどうするかだよね。イスの世界に連れて行けるとしても、急にアスピちゃんが消えたら間違いなく大騒ぎだよ」

 「だよなぁ。アスピドケロンは良くも悪くも目立ちすぎるからな........ジェスチャーゲームとかならワンチャン行けるんじゃね?流石に出題者側にはなれないけど、回答者側なら参加できるだろ?」

 「いいねそれ。他の厄災級魔物達も参加できそうだし、色々と落ち着いたらみんなの親交を深めるためにやっても良さそう」


 割と妙案が思い付きつつ、俺達は昼食を食べ終えると再び報告書と向き合う。


 徹夜までして丸2日頑張ったが、結局地脈についてそれらしい内容は見つけることは出来なかった。


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