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見つからない湖

 魔王の復活場所が神託によって判明してから半日が過ぎた。


 俺達は、様々なところから色々な情報を集めてリテルク湖の場所を特定しようとしているものの、その結果は芳しくない。


 ありとあらゆる国の地図や文献を子供達に漁らせているが、一向にリテルク湖についての情報は集まらなかった。


 「不味いな。場所が分からん以上、動きようがない」

 「一応、魔王の復活場所が分からない時のための対応は考えてあったよね?」

 「考えてはあるが、どうやっても被害が出る。だって待つだけだぞ?対応と呼べるものじゃないが、それ以外に手段がない。千里の巫女みたいな目が欲しいもんだ」


 空を飛べる団員達がそれぞれ大陸に散らばって魔王の魔力を探るというやり方を考えてはあるが、魔王の魔力を探知できるのような状況は基本的に魔王が何らかの魔法、又は異能を使った時だ。


 要は被害がでないと動けない。


 運良く、配置場所の近くに魔王が復活したとか言う事でなければ。


 花音は少し難しい顔をしながら手元にあった資料を置いて、ゆっくりと伸びをする。


 半日間ずっと座りっぱなしだと体が固まるからな。


 後、目が疲れる。


 「無理すんなよ。ほかの団員達の様に休憩取ってもいいんだぞ?」

 「大丈夫だよ。コレでも三日三晩ほぼ休憩無しで空を飛んだ経験があるんだよ?このぐらいどうって事無いよ」

 「あの島に流れ着いた時か。今でも謎だな。三日間も気絶してるのはともかく、起きてから全くと言っていいほど体に異常がなかった。誰かが俺を看病したかのようにな」

 「かもしれないね。仁を看病してくれた人がいたなら、お礼しなきゃ」

 「........だな」


 俺はそう言うと、手元にあった資料を置いて席から立ち上がる。


 おぉう........長時間足を組んでたから、痺れるぜ。


 力が上手く入らず、机にもたれかかった。


 「大丈夫?肩貸そうか?」

 「大丈夫だ問題ない」

 「そんな装備で大丈夫か?じゃないんだよなぁ」


 花音は少し呆れた表情をしながら、俺の足が元に戻るまで隣で待つのだった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 仁達の秘密兵器であり、全ての情報源である子供達。


 彼らはベオークと言う1人の母から生まれ、洗脳された影の兵士たちだ。


 ありとあらゆるところから人知れず情報を盗み出しては、それを仁に届けるのが仕事である。


 時に間違った情報を渡すこともあるが、その殆どの情報は正確で間違いはない。


 更には、あちこちから汚い金を盗み出して揺レ動ク者(グングニル)の資金源に回していたりもする。


 今の揺レ動ク者(グングニル)には欠かせない人材だ。


 その中で神聖皇国を担当している子供達は、様々な者を監視、又は情報の抜き取りを行っている。


 「シャ?」


 影の中から監視する子供の一体が、その影から部屋を見下ろす。


 その目線の先には、魔王の居場所を特定しようとする者達が慌ただしく動いていた。


 「リテルク湖ってどこだよ!!」

 「湖に関する文献を片っ端から持ってこい!!」

 「ダメだ。コレにも書かれてない」

 「急げ!!あと半日も無いんだぞ!!」


 思わず耳を塞ぎたくなるようなほどの喧騒だが、子供達にとっては気になるものでもない。


 子供達は静かにその影の中からじっと見つめる。


 有力な情報が出るのを待つのだ。


 しかし、その張り込みは急遽取り止められる事になる。


 「私も手伝いに来たのですが、想像以上に人が多いですねぇ」


 呑気に目を細めながら、顎に手を当てる人物。


 その人物を確認した子供達は、急いでその場を後にした。


 禁忌ロムス。


 神聖皇国を代表する灰輝級(ミスリル)冒険者であり、その実力は言わずもがな。


 大聖堂の奥にある大書庫の管理人として、神聖皇国に雇われており普段はその書庫から離れることはない。


 それこそ、魔王が首都で復活するようなことがなければ。


 「シャ、シャシャ」

 「シャー」


 子供達は急いで撤退すると同時に、自身の痕跡をしっかりと消していく。


 国を代表する灰輝級(ミスリル)冒険者は格が違う。


 一定の範囲内に入ると、隠密に長けている子供たちの居場所を突き止めてしまうのだ。


 その為、その距離に入らないようにしながらロムスを監視するのである。


 上級魔物である影蜘蛛(シャドウスパイダー)では監視できない。


 最上級魔物である闇蜘蛛(ダークネススパイダー)暗黒蜘蛛(ブラックスパイダー)が監視に着くのだ。


 相当な神経を使い、バレない様に細心の注意を払っているにも関わらず、2.3度バレかけたことがある。


 何者かが、自分を見ている事には気づいているだろう。


 そんな化け物が護る大書庫から本を盗み出すのは中々難しい。ましてや、彼が一番警戒している大書庫の奥底など覗けるはずもない。


 もし、無理に奥底を覗こうとすれば子供達は“禁忌”を知ることになる。


 ロムスが来たことを知った神官たちは、まるで救世主か来たかのように目を輝かせながらロムスを迎え入れた。


 「ロムスさん!!助かります!!」

 「そんなに期待された目で見られても、私にも知らない事はごまんとありますからね?」

 「いえいえ!!大書庫は基本入れませんからね。そこの知識を持ってる人が来ていただけるだけで助かりますよ!!」

 「基本入れない、ねぇ........」


 ロムスは何かを思い出すかのように天井を見上げた後、直ぐに気を取り直して神官たちに話を聞く。


 「それで、何を探してるんですか?」

 「あ、はい。リテルク湖と言う湖を探しているんです。どうも神託によるとそこに魔王がいるようでして........」

 「リテルク湖ですか。少し調べてみます。何か分かったらお伝えしますよ」

 「ありがとうございます!!」


 神官たちは頭を下げるが、内心は“もっと早く来いよ”と思った。


 人類の存続に関することなのに興味が無さすぎるだろうとも。


 しかし、大書庫を自由に出入りできるのはロムスぐらいだ。


 部屋を出ていくロムスを見ながら、一人の神官がポツリと呟いた。


 「こんな緊急事態なのに、なぜ大書庫の閲覧許可が降りないんだ?」

 「知らないのか?噂によれば、大書庫には見てはならない書物が封印されているらしいぞ」

 「なんだそれ。今の状況でその書物の封印の方が大切なのか?」

 「態々ロムスさんを守りに使わせる程だぞ?もしかしたら、封印が解かれたその瞬間にこの世界が滅ぶかもしれないな。まぁ、所詮は噂だ。あまり真に受けるなよ。それと、大書庫に関してはロムスさんに任せておこう。あの人は変人だが仕事はしっかりこなしてくれるからな」


 そう言って神官は仕事に戻るが、ひとつ疑問が残った。


 「そういえば、勇者の1人が大書庫に出入りしてなかったけ?」


 その疑問は、慌ただしい仕事によって忘れられるのだった。


 しかし、その会話を聞いていた最上級魔物である子供達は全てを聞いていた。


 「シャ。シャシャシャ(調べる必要がある。前々から噂はあったしな)」

 「シャシャ、シャーシャー(その前に、リテルク湖の事調べなきゃ)」

 「シャ、シャー。シャーシャー、シャ(そうだな、優先順位は間違えちゃいけない。下手をすれば母様やジン様に怒られる)」


 見えない影はロムスの後を追うのだった。


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