仁VS魔王ルシフェル③
攻撃を防がれ、仁からの追撃を何とかいなした魔王ルシフェルは、砂埃の中から素早く出るとへし折れた両腕と潰れた顔半分の再生を始める。
ひしゃげた両腕はとてもでは無いが人としての腕の原型を保っておらず、本来曲がるはずのない方向に曲がっていた。
それだけではない。脇腹に突き刺さった回し蹴りも確実に魔王にダメージを与えており、魔王の口からは血が滲み出している。
「化け物が。あれは本当に人間か?我の両腕をたった一撃で粉々に粉砕した上に、顔を半分潰す程の威力を出せる者が人間と名乗るには少し無理があるだろうに..........」
自分の攻撃が防がれるのはともかく、その後の追撃はどう見ても人間の範疇を超えている。
悪魔達との戦闘の時は、殴る蹴るの攻撃をほとんどしていなかったので分からなかったが、その一撃は山をも粉砕する威力だった。
魔王は両腕と顔を再生すると、未だに砂埃の中から出てこない人間に注意を向ける。
先程の戦いから得た情報から、魔王は相手の能力を推測していた。
「我が太陽を落とした時は、黒い騎士達を消していたな。となると、あの黒いものを生成できる限界があると見た。恐らくだが、最初に放った再生不可の攻撃の時もその黒いのが無ければ発動できない.........か。形は恐らく球体でなければならない制約がかかっている。でなければ、2度目の時はもう少し形を変えてきているだろうからな」
2度目の再生不可の攻撃を仕掛けようとした時の魔力の動きを見るに、再生不可の攻撃は球体でなけば発動できないと魔王は推測する。
人間に殴られた場所が普通に完治している所を見るに、魔王の驚異となり得る攻撃は再生不可の攻撃だけだ。
一撃で頭を弾き飛ばされる様な事があれば別だが、流石に魔王とてそのぐらいは守ることが出来る......はずだ。
「何とかしてもう一度あの攻撃を見たいな」
1歩間違えれば死んでしまうだろうが、魔王は自分の推測を確信に変えたかった。
人間の能力の弱点が分かれば、やりようはある。
人間には徐々に自分の能力が暴かれてきているが、それでも切っていない手札はいくつもあるのだ。
魔王は、自分の失った片翼を見て小さくため息を着く。その溜め息が何を思ってなのかは、本人にしか分からない。
「さて、そろそろ来るのではないか?そうだろう?人間」
魔王がそう言った次の瞬間、砂埃の中から黒騎士が現れ魔王の首を刈り取らんと剣を振るう。
流れるように美しい黒騎士の剣を見ながら、魔王は辺りを警戒する。
人間は単純な盲点を着いてくることが多い。この黒騎士は釣り。なにか他の攻撃がどこからが飛んでくると考えるのが自然だ。
振り下ろされた黒騎士の剣を魔王は後ろに飛び退きながら、いつ人間が襲ってきてもいいように警戒を続ける。
反撃の準備はできている。いつでもかかってこいと意気込む魔王だが、いつになっても人間が襲ってくる気配がない。
「どういうことだ?なぜ襲ってこない」
黒騎士一体がただ剣を振り続けるだけであり、残りの黒騎士達が襲ってくるわけでもなければ、人間が襲ってくる訳でもない。
魔王は不気味さを感じる。
魔王は一旦大きく距離を取ろうと大きく飛び退いて空を飛ぼうとする。その時だった。
「捕まえた」
「?!」
黒騎士の中から人間が現れ、信じられないほどの速さで魔王の足を掴む。
着ぐるみのように黒騎士の中に入り込み、何度も機械的な剣を振るうことで魔王からの警戒を緩めさせたのだ。
そして黒騎士にあまり注意を向けておらず、それでいて動きが鈍くなる空へと羽ばたき始めた瞬間を狙われた。
警戒はしていたが、人間の方が何枚も上手だ。
またしても盲点を付かれた魔王は、急いで反撃をしようと魔力を練る。
だが、既に人間の射程距離圏内に入っているこの状況で、その反撃が間に合うわけがない。
ベキィ!!
先ずは掴まれた左足が握力によって握りつぶされる。
空き缶をぐしゃりと潰したかのようにいとも容易く握りつぶされた魔王の足は、血を吹き出して人間の持つ手を赤く染める。
「..........っ!!」
魔王とて、痛みを感じない訳では無い。ほんの一瞬痛みに顔をゆがめながらも、練り上げた魔力を霧散させないように集中を保つ。
「“焼かれろ”!!」
何とか魔力を練り上げ、足を掴む人間に能力を使用する。
この距離ならば避けようはない。
人間離れした化け物相手に果たして炎が聞くのかどうか甚だ疑問だが、この短時間で練り上げた魔力で行える反撃はこれが限界だった。
灼熱の太陽には到底及ばない。吹けば消えてしまいそうな程小さな炎。だが、人間一人焼く程度ならば十分な火力だ。
...........相手がただの人間ならばの話だが。
「熱いな」
燃え盛る炎の中、魔王の足を掴んだ人間はそれだけを呟くと、足を引っ張って魔王との距離をさらに縮める。
炎に焼かれている状態とはも思えないほど冷静だった。
足を掴んでいない右手が握り締めれ、その拳の周りをとてつもない魔力が覆う。
先程も食らった一撃だ。
その殺気が狙う先は魔王の顔面。確実に頭を吹き飛ばしに来ている。
先程は何とかガードできたが、次もガードできるとは限らない。
両腕をへし折った上に、顔面の半分を潰すほどの威力なのだ。
魔王はバランスを崩しながらも、人間の顎を狙って自由に動く足を強引に振り抜く。
いくら強くとも、相手は人間。
弱点をしっかりと的確に撃ち抜けばダメージを与えられる。
距離が縮まりすぎている。1番威力の出る蹴りは出せないと判断した魔王は、その膝で顎を撃ち抜こうとした。
「重厚なる盾よ」
しかし、その膝は再び黒く重厚な盾によって阻まれる。
そして、人間の拳が魔王を襲う。
魔王は自分の顔を守るように、その腕を交差させて腕と顔に魔力を集中させる。
両腕をへし折られてもこれなら顔を守れるはずだ。
死ぬ気で耐える。魔王は歯を食いしばった。
が、いつまでたっても腕に衝撃が来ない。
極限の集中状態により、魔王の中に流れる時間がとてつもなく引き伸ばされている。
今の魔王は1秒が10秒に感じているだろう。
だとしても、遅い。
魔王が疑問に思ったその瞬間、腹部に想像を絶する衝撃が襲ってくる。
「ゴッ...............ガァ!!」
肺の中にある空気が全て吐き出され、体内にあるありとあらゆる骨がへし折れ、内臓が潰される。
体内から血が逆流し、その口から噴水のように血が溢れ出た。
魔王は一瞬、何が起こったのか分からなかった。
身構えていた場所とは違う場所への一撃。
腕と顔に魔力を集中させていたため、ボディーのガードが緩くなっていた。
そこを突かれたのだ。
殺気の篭った視線は、自分に先程の顔面への攻撃を思い出させるためのフェイク。
本命はその身体を完全に壊す事。
空気を吸うことが出来ず、魔王の意識が朦朧としだす。とてもでは無いが、これ以上戦闘を続けられる状態ではい。
地面へと叩きつけられた魔王だが、その左足はまだ人間に握られたまま。
追撃が来る。
ガードは不可能。今の状態では、確実にトドメを刺されてしまう。
魔王は残る力をかき集め、最後の切り札を切った。
「ル..........虚言の支配者」
刹那、辺り一面は光り輝き、砂漠の街はその光に飲まれて行った。




