復活前日
唐突に突きつけられた魔王の復活。それを聞いた俺達は、急いで準備に取り掛かる。
「.......なるほど、女神の信託が下ったのか。明日の正午ピッタリに、神聖皇国残りの首都、大聖堂カテドラにある大聖堂の真下に封印されている魔王が復活するらしいぞ」
「信託は下ったんだね。それに、この感じだと復活するのは神聖皇国に封印された魔王だけっぽいね」
俺たちの予想した“魔王同時復活”は、ものの見事に外れた訳だ。
まぁ、俺達としてはバラバラに復活してくれた方が対処しやすいので、これに関しては有難い。
「しかし、よく異能の中で気づけたなイス」
「私のせいで魔王の復活に気づけなかったら申し訳ないから、蜘蛛達にお願いしてたの。もし、遊んでいる時に復活の情報が入ったら庭にその書類を持ってきてって」
なんて偉い子なんだ。俺なんて“遊んでいる時にそんなタイミングよく復活とかしないでしょ”ってたかを括ってたからな。
そして、そのタイミングで復活の信託の情報が入ってきたのだ。
おぼえとけよ魔王の野郎。ウチの子との遊びを中断させやがって。この借りは何倍にもして返してやるからな。
「落としたトーストがバターを塗った面を下にして着地する確率は、カーペットの値段に比例するとはよく言ったもんだな。備えてない時に限って来て、備えている時に限って来てやってこない。どの世界でも通じる法則だ」
「マーフィーの法則だったっけ?色々な表現方法がある面白い法則だよね」
「“起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる”とか“作業の手順が複数個あって、その内破局に至るものがあるなら、誰かがそれを実行する”とか“洗車しはじめると雨が降る。雨が降って欲しくて洗車する場合を除いて”とかだな。一説では、不幸な事の方が記憶に残りやすいからと言われていたりするが、どちにしろ今回の魔王の復活は高級なカーペットにバターがついたことに変わりはないさ」
俺はイスの頭を撫でながら、謝ってやる。俺のせいではないが、俺の用事でせっかくの遊びが台無しになったのだ。
しかも、珍しく大人数が集まった時に。
「すまんなイス。埋め合わせは今度してやるから」
「大丈夫だよパパ。魔王が復活して街が壊れちゃったら直すのが大変だけど、遊ぶのはまた直ぐにできるからね」
イスは、気持ちよさそうに目を細めながら俺の手を堪能する。
ほんと、よく出来た我が子だ。今度は団員全員集めて遊ぶとしよう。団長権限とはこういう時に使うものだ。
あのでっかいドラゴンたちや犬っころ達も一緒に遊べる遊びを考えないとな。流石にアイツらは氷玉を持てないし、アスピドケロンに至っては、消えた時点で問題になってしまう。
あれ?もしかして魔王を倒すよりもコレは難題なのでは?
そんな事を考えながら、俺達は必要な荷物を全て用意する。
やっと、堂々と龍二達に会いに行けるのだ。個人的には、カッコイイ登場を考えている。
「こっちの防衛は頼んだぞ。だが、お前達の命が最優先だ。ヤバいと思ったら直ぐに逃げろ。いいな?」
「大丈夫よ。分かっているわ。警戒態勢はレベル3にまで引き上げておくし、私の眷属達も増やしておくから安心して行ってきなさい」
いつもは穏やかな母親敵立ち位置のアンスールだが、その目には厄災級としての圧を感じる強さがあった。
コレなら余程ヤバい敵が来ない限り死ぬことは無いだろう。
「お前達は無理に応戦しようと考えるなよ?まだまだ弱いんだ。自分の身のことだけを考えろ」
「分かってる。念の為にサラも呼び戻したし、逃げ足だけなら負けない」
「悪魔からずっと逃げてましたからね......」
「ここは大切な場所だけど、それ以上に団長さんの命令の方が重要だしねー」
三姉妹も問題ないだろう。逃げ足はかなり鍛えさせたし、周りには厄災級達もいる。
それに、彼女達は悪魔から逃げ切った事もあるしな。
「お前達もだ。俺の許可無く死ぬなよ?」
「分かっている。主人である団長の命令以外で死ぬ気は無い」
「まぁ、この戦力を掻い潜って私達を殺せる強者がそうそういるとは思いませんけどねー」
「プランさん。そういう油断は禁物ですよ」
「が、頑張って逃げます」
うん。奴隷達も大丈夫そうだな。最低限の強さは身につけたし、5人がしっかりと連携しながら戦えばかなり厄介だ。
そう簡単に死ぬことは無い。
「リーシャ。勝手に死んだらあの世で永遠にモフモフの刑だからね?」
「.......大丈夫ですよ。副団長様。拾っていただいた命は大切にしますから」
今一瞬迷っただろ。モフモフの刑ちょっといいなと思って、迷っただろ。
花音の命令だから、無闇に死ぬようなことはないと思うが、少し心配だ。この子はこの子で少し拗らせてそうだからなぁ......
「お前達も頼むぞ」
「「「グルゥ」」」
「ゴルゥ」
「ガルゥ!!」
犬っころ達も厄災級だ。自分の身を守る程度どうということは無いはずである。唯一、フェンリルが心配だが、そこはケルベロスが何とかしてくれるだろう。
「ウロボロス。結界の調子は?」
「問題ない。念の為、更に強くしておいたし、強引に破った所でワシらには敵わんよ。それに、ワシとアスピドケロンがいる時点で負ける気などしないわ」
「そうだよー!!私とウロちゃんが居れば百人力だよ!!団長さん!!」
「そいつは頼もしい限りだな」
実際、ウロボロスとアスピドケロンに敵う奴などそうそう居ない。まぁ、それで言ったら、この拠点にいるヤツら全員と戦って勝てるやつなど居ないのだが。
俺だって、ここにいる全員と戦えと言われたら勝てる気がしない。
タイマンなら勝てるだろうが、ここまで大勢の厄災級とやり合うのは無理だ。
「ま、俺が留守の間は頼んだぞ。もしかしたら長期戦になるかもしれないからな」
「うむ。団長殿もヤバいと思ったらワシらを頼るといい。今はまだその時では無いかもしれぬが、頼る事は恥ずべきことでは無いのでな」
「分かっているよ。ヨルムンガンドとジャバウォックも、頼んだぞ」
『気をつけて』
「ギュルァ」
残りのファフニールとリンドブルムとニーズヘッグは今ここに居ないので、心の中で留守番よろしくと言っておく。
まだアイツらの出番ではないので、自由にしてもらって構わないからな。
「さて、行くか。花音!!イス!!準備はできたか?!」
「問題ないの!!」
「大丈夫だよー。アイリスちゃん達に会いに行こー!!」
いや、魔王の討伐がメインだからね?感動の再会がメインじゃ無いからそこは間違えないでね?
若干花音に不安を覚えながらも、ドラゴンに変身したイスの背中に乗って俺達は神聖皇国の首都を目指して飛び立つのだった。
この世界に召喚されて3年と1ヶ月ちょっと。遂に七大魔王の一角の封印が解かれる。
人類の存続を賭けた、大戦の始まりだ。




