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計画はどんなに綿密に練っても穴はある

  俺達は2日で計画を纏めて、協力者を増やした。俺達が立てた計画は、最終的に全世界を巻き込んだ壮大なものになる。アイリス団長に話を持っていったら、あれよあれよと話が膨らみ、教皇のお爺さんまで話が持っていかれた。


  もちろん俺達はそうなってくれないと困るのだが、少しすんなりと行き過ぎている気もする。


  教皇のお爺さん、さすがにこの国の一番偉い地位にいるだけあって頭がよく回る。俺達が提示した計画のどこがダメなのかをすぐに見抜き、計画を修正をしてくれた。超有能お爺さんである。


  教皇のお爺さんはこの計画には賛成らしく、正教会国を潰せるのが嬉しいらしい。その喜び様を見るに、よっぽど身勝手な正教会国を腹に据えかねていたのだろう。


  無闇矢鱈に計画の協力者を増やすと情報がどこからか漏れるかもしれないので、この計画を知るものは少ない。


  俺達3人と、アイリス団長、師匠、ニーナ姉、教皇のお爺さん、教皇の次に偉い枢機卿と呼ばれる階級の1人、この8人だけがこの計画を知っている。

 

  こうして味方を増やし、準備している間に暗殺計画が実行されないように、龍二あの5人の中に加わった。前の世界でも、それなりに話していた為か割とすんなり受け入れられ、暗殺計画の主導権を握ることに成功。龍二がこの計画に関わっている証拠を残さず、あの5人だけを犯罪者として仕立て上げるように仕向けた。


  表向き死ぬ事になっている俺と、俺が死んだことで錯乱し失踪した事になっている花音は、魔王と戦う前のこの3年間で死なないようにいつより厳しく訓練された。正直、この訓練で死ぬんじゃね?と思ったが.........


  こうして準備をする事、2週間。ほぼ全ての準備が終わり、明日、計画を実行することになった。


「いよいよ明日か.........」

「出来ることは全てやったつもりだが、やっぱり不安だな」

「大丈夫だよー。よっぽどのヘマをやらない限り、成功するよきっと」

「だといいんだがな.......」


  計画実行を明日に控え、俺達は緊張していた。いや、花音は平常運転か。この最初の計画を失敗すると、今後の計画全てが水の泡と化す。手伝ってもらったアイリス団長や師匠に合わせる顔がなくなってしまう。


  少し重い空気が部屋に漂う中、コンコンと扉がノックされる。


「どうぞ」

「邪魔するぞ」

「お?馬鹿弟子、柄にもなく緊張してそうな顔してるじゃないか」

「弟弟子!!来てやったぞ!!」


  俺が入室の許可を出すと、そこに入ってきたのはアイリス団長達だ。その手には紙袋が握られている。


「なんの用?」

「なぁに、旅立つ教え子に餞別をと思ってな」


  そう言ってアイリス団長が取り出したのは、腰に巻き付けるベルトが着いたマジックポーチだ。


「これに、サバイバルに必要なものが全て入っている。後、偽造の身分証な。神聖皇国の属国名義で作ってあるから、バレないぞ。無くさないように気をつけろよ」


  そう言ってマジックポーチを放り投げてくる。俺と、花音はそのポーチを受け取ると、アイリス団長にお礼を言う。


「ありがとう。団長。偽造の身分証は考えてなかった」

「気にすんな。私がやりたいようにやっただけさ」


  頬を人差し指で掻きながら、照れくさそうにそっぽをむくアイリス団長はとても可愛らしかった。


「次は私だな。馬鹿弟子、カノン餞別だ持ってけ」


  師匠に渡された紙袋の中を確認すると、そこに入っていたのは一式の服だ。


「師匠これは.......」

「お前たちの身体に合わせた戦闘服だ。物理、魔法、共に体勢に優れている。リュウジから聞いたぺあるっく?とか言うお揃いにしてやったぞ」

「やったね仁!!お揃いだって!!シンナスちゃんわかってるぅ!!」


  渡された服を広げると、真っ黒なロングコート。肩から袖にかけて2本の白いラインが入っており、手首辺りのところはベルトらしき物が着いている。更に襟は長く立っており、横から見れば顔半分を隠せるだろう。


「ちなみに、襟に魔力を通すとフードに早変わりだ。雨の日なんかは雨を弾いてくれるぞ」

「何それカッコイイ」


  言われた通り魔力を通すと、襟の部分がフードに変わった。ファンタジーすげぇ。しかもこのコートの機能はこれだけではない。ある程度の大きさまでなら、自動でサイズを調節できるそうだ。高性能すぎる。


  そのコートの中に着る服も黒色だ。このシャツは普通のシャツらしく、特に何か特別機能がある訳では無い。


  ズボンも同じように黒いが、外側に太ももから裾ににかけて赤黒いラインが入っている。普通にカッコイイ。


  最後にブーツ。これも黒色で、ベルトが2本、着いている。足首より少し上までを覆い、動き安さを重視したようなブーツだ。これには自動調節機能が付いている。


「いいのか師匠。こんなすごいの貰って。高かっただろ?」

「あ?いいんだよ。餞別なんだから少しは、見栄張っていい物くれてやらねぇとな」

「ちなみに給料1ヶ月分吹っ飛んでましたね。流石師匠です」

「んなぁ!!ゴラァ馬鹿ニーナ!!それを言うんじゃねぇ!!」

「イタイ!!イタイです師匠!!」


  顔を真っ赤にしながら、ニーナ姉の頭にアイアンクローを食らわせる師匠。大丈夫か?なんかミチミチ言ってるんだけど。


  ま、まぁ、師匠はツンデレって事で.........


  最後に餞別を渡してくれたのはニーナ姉だ。紙袋を開けると、中に入っていたのは指の穴が空いたグローブだ。このグローブも黒く、手の甲には白い十字架と丸のマーク。ケルト系キリスト教のシンボルマークに似ている。少し違うのは十字架が逆十字という所だろうか。


  このマークだが、特に意味は無いらしい。ファッションかよ。そして、自動調節機能も付いている。斬撃に強い素材でできているらしく、鉄の剣程度では切れないそうだ。


  そして、今気づいたのだが、これら全部を着たら完全に厨二病患者なのではないだろうか........いやちょっとワクワクするんだけどさ。


「これ全部着たらカッコイイよね!! 如何にも厨二病って感じ!!」

「そうだな。そしてこの格好が許されるこの世界に感謝だな..........ところで龍二」

「ん?」

「親友に餞別は無いのか?」

「...............親愛のハグでいい?」

「なるほど。親愛のパンチが欲しいと」

「待て、そんな事一言も言ってな────あべし!!」


  こうして、計画実行前日は団長や師匠のおかげで賑やかに過ごしたのだった。



  翌日。俺達は計画を実行。まずは恒例の魔物狩りと称して森へと行く。この魔物狩りは必ずクラス全員(魔物が殺せなくて脱落した者以外)で行くので、龍二も5人組も当然いる。


  そして、いつもの様に始まる魔物狩りだが、能力者は組は二班に別れる。俺と花音、光司と黒百合さんペアに別れたあと、2人から距離をとる。


  2人の気配を完全に感じなくなった後、龍二との合流地点に移動。下調べは完璧にしたので迷うことは無い。花音とはここで1度お別れだ。花音は俺にものすごく細い鎖を巻き付けると、その場を後にする。この鎖を辿れば俺がどこにいてもわかる仕組みだ。


  龍二と合流した俺は、龍二の案内によって森の少し開けた場所に出る。龍二の仕事はここまでだ。ここの開けた森には、映像を記録できる魔道具が何個も仕込まれている。8000万がいっぱい.......


  龍二が森の奥に消えると、ぞろぞろと5人が森の奥から出てくる。俺を渓谷の方に追い詰めるため、5人が現れたのは森の浅い方からだ。これで俺は森の奥に逃げなくてはならない。渓谷の方に逃げても違和感はないだろう。


「..........何か用で?」


  いかにも不穏な空気を感じて警戒してます、と言った感じの演技をする。ここからは演技力が試されるな。


「ふん。自分の置かれた状況が、分かっていないようだな。やはり愚民風情は頭が悪い」


  まず最初に口を開いたのは神城神城だ。状況が分かってないのはお前の方だし、頭も悪いのはお前だよとツッコミたいのをグッと我慢して演技を続ける。


「分からないか?分からないだろうな。今から貴様は死ぬのだよ愚民。この私の崇高な計画によってな」


  龍二が立てた計画だろ?何ちゃっかり自分の手柄にしてるんだよ。


「俺が死ぬ?どういう事だ?」

「ギャハハハハハ!!俺たちに殺されるって事だよ!!」


  汚い笑い方をするのは、自分がイケメンだと思っている武田優太君。真のイケメンはこんな笑い方しないよ。光司を見習って鏡を見てこいブス。


「さっさとやろうぜぇ。俺は早くコイツを殺して、花音ちゃんを慰めてやらないといけないからなぁ!!」

「確かに、時間の無駄だ。さっさと殺ろうぜ」


  武田の言葉に続いて、頭の中ピンクの三谷と黒歴史製造機の伊藤が話す。ちなみに黒歴史製造機君は赤のメッシュが入った髪をしているのだが、この異世界だと割と普通なので目立っていない。良かったな黒歴史製造機君。


「............」


  そして、何も喋らない見た目だけ頭良さそうな山田秀一君。彼の場合、話すと頭が悪いとこがバレるので黙っているのだろう。正しい判断だ。


  そして、全員が魔法の詠唱を始める。次第に魔力は形を変化させ、ソフトボールよりも少し大きい程度の球になる。


  それぞれ火属性が2人、水属性が1人、風属性が2人だな。魔力もしっかりと練られているわけではなく、形だけの魔法だ。よくもまぁこの程度で俺を殺そうと思ったなコイツら。


「死ね」

「クソっ!!」


  神城の合図とともに、魔法が放たれる。俺はそれをギリギリで避ける演技をしながら、渓谷に向かって走り始めた。身体強化を使って全力で走ると、間違いなくあの5人を置いていくので、身体強化は使わない。


「チッ、面倒だな。追うぞ」


  こうして、森の奥にある渓谷まで魔法を避けつつ、偶に魔法を受けつつ誘導した。


  渓谷まで辿り着くと、船越英〇郎が出ている刑事ドラマの犯人のように崖を背負う。


「はぁ、はぁ、はぁ.......行き止まりだと......」

「ふん。言っただろここで貴様は死ぬんだよ」


  そう言って放たれた魔法を、俺は身体強化して受け止める。この程度の魔法なら傷一つつかないが、俺はこの崖に落ちなければならない。


  魔法を受け止めると同時に、吹き飛ばされたように後ろへ飛ぶ。正直超怖いが、男は度胸だ。渓谷の下は川になってるし大丈夫だろ。


  ただ、俺は1つ見落としていた。水は高さ40mから叩きつけられるとコンクリートの様に硬くなる。もちろん、身体強化を使えばその程度はどうとでもなるのだが、所詮俺は人間。当たりどころが悪ければ怪我をするし、気絶もする。


  渓谷の高さは60m程。水がコンクリートに変わるには十分な高さだ。


  水面に叩きつけられた衝撃は俺の脳を揺らし、典型的な脳震盪の症状を引き起こした。


「やべ、意識が.........」


  たった一つの誤算、だがこの誤算が俺にとっていい結果をもたらすのはまだ先の話だ。

 

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