紅 茜音(1)
まさか、私が告白されるとはね。思ってもいなかった。アイツが恋愛なんて興味無いと思っていたし、そんな素振りは……いや、あったか。
ま、どうでもいいわ。私に関係のないことだから。
***
それは突然だった。
「俺、お前の事が好きなんだ」
それを聞いた瞬間、意味が分からなかった。
「あ、えーと、だから、好きなんだ」
「だからなによ。私に惚れるなんて百年早いわ」
私は言ってやった。性に合わない。今までなかったじゃない。告白されるなんて思ってなかった。言い切ってやったんだから、アイツは悲しむはず。
「お前に惚れて悪いかよ。惚れちまったもんは仕方ねえだろ。俺、諦めねえから」
「あっそ」
諦めが悪い男ね。ま、頑張りなさいよ。その場にアイツを残して私は去った。
それから、数日後。アイツ、玲央は唐突にあるものをくれた。箱に入った食べ物。見るからにケーキの箱。そんなもので私を釣ろうなんて馬鹿にされてるとしか思えない。
「これ、好きだろ」
たったそれだけ言って渡してきた。いや、それだけじゃ分からないんだけど。だから、私はそっぽを向いて受け取らなかった。
「ショートケーキ。アカネ、好物だろ。色々悩んだんだ」
アンタってやつは本当に……。そう思いながら、受け取った。レオは嬉しそうにニコッと笑った。分かりやすいやつ。
「ありがとう」
御礼を言うと、更に嬉しそうに笑った。本当に私のことが好きなんだ。実感した瞬間だった。
「で、アンタも食べる?」
私は声を掛ける。ここだけの話、レオは食べるのが好き。甘いものも好きだから食べると張り切って言うに違いない。そう思ったのも束の間。
「そんな甘いもん食べれるかよ。お前一人で食え」
レオにしては意外な言葉。まさか食べないなんて、どうかしちゃってる。一人で食べられるわけないのに。
「なんだよ。俺は食べないからな」
レオを見ていると、その視線に気付いたのか、声を出した。食べないって否定している顔が面白くて、声に出して笑ってしまいそう。ずっと見続けていると、頬を引き攣らせて笑う仕草をしたかと思ったら、眉を顰めて表情を変える。それが面白すぎて、耐えようにも耐えきれなくて。
「あはは。アンタ面白い」
ついに声に出して笑ってしまった。だって、面白すぎでしょ。普段は厳つくて、近寄り難いっていうのに。そんな表情するんだと思うと、おかしくて笑っちゃうって。
「るっせえな! なにが可笑しいんだよ。俺はアカネが好きな、」
「あー、はいはい。百年早いっつうの」
「んだよ。諦めねえからな」
こういうところなのよ。だから、私は告白を断ったんだけどさ。そんな時、遠くで女の子が私たちのほうを見ていた。なんだろう? 私は知らない。ってことはレオが知っていたりするかも。
「ねえ、あの子知ってる?」
「は? あー、確か翠の妹だ。それがどうしたんだよ」
翠の? 妹なんていたんだ。でも、いた気がしなくもない。
「妹さんの名前なんて言うの?」
私の言葉にレオは目を丸くして、嘘だろっても言いたそうな顔をした。いや、そんな顔されても知らないのは仕方ないじゃない。
「マジかよ。柚葉ちゃんを知ってるだろ」
その言葉になんとなく思い出した。翠が妹の話をする時、柚葉と呼んでいた気がするわ。
「そうだ。今、呼んでくる」
レオは柚葉ちゃんのところに行った。暫く、柚葉ちゃんと少し話した後、連れて、私のところに戻ってきた。
「柚葉ちゃん。この女がアカネってやつだ。アカネ、柚葉ちゃんだ。これからよろしく」
レオの紹介にイラッときた。女じゃなく女性って言いなさいよ。ま、口が悪いし注意しても直らないか。
そうして、柚葉ちゃんを加えて三人で会うようになった。意外と私たち合うんじゃないかな。結構、可愛い子だからさ。