常磐 蒼(2)
今、目の前に柚葉がいる。数時間前、突然メッセージが届いて、現在に至る。
「相談ってなんだ?」
俺は真っ先にその言葉を発した。柚葉は言おうか言わまいか戸惑っているような仕草をしている。呼び出しといて、中々言わないということは言い難い相談なのか。もしかしなくもないが、やっぱり俺の予想通り恋の相談とかか? 俺じゃなくてもいい気がすると思えてきた。
「あの、ね。蒼お兄ちゃんに相談するか迷ったんだ。でも、相談するの蒼お兄ちゃんしかいなくて、」
「なんだ?」
随分と躊躇っているみたいだ。それでも、聞いてやりたいと思い、俺は問い掛けた。
「私、好きな人がいるんだ。でも、想いを伝えられなくて、どうすればいいかなって蒼お兄ちゃんにと思って……」
それを聞いた時、口を開けてしまった。恋愛相談をされると思ってはいたが、まさか本当に、それとは思わなかった。柚葉の性格なら、直ぐに想いを伝えそうだからだ。
答えてやりたい。でも、俺にはなにも役に立たない。精々頑張れとしかいえない。
「翠には言ったのか? 俺じゃなくて、まず翠に聞いてみたらどうだ? 兄妹だろ?」
「いやいや、お兄ちゃんに言えないよ。それに、好きな人はお兄ちゃんの知り合いだから、直ぐにバラしそうだし……」
あ、そういうことか。確かに翠なら有り得るな。でも、俺に相談されても正直困るんだよな。俺は相談している本人が好きだった時期があったし、結局は言えなかったから。
「とりあえず、好きな人に気持ちだけでも伝えてみたらいい。当たって砕けろって言うだろ」
「えー、砕けたくないし、砕けたら意味が無いよ」
その通りだな。だが、伝えないままだと良くない。俺みたいになるから。
「ま、頑張れ。俺は柚葉を応援してるから。じゃあ、またなにかあったら言ってくれ」
そう言い残し、座っている椅子から腰を上げた。
叶わなかった俺の想い。だけど、好きな人に好きな人がいるなら応援してやりたい。今まで面倒を見てきた従兄妹なら尚更だ。
さよなら、好きだった人。これから頑張れ。俺はずっと見守っている。
お店を出て、暫く経った頃、携帯に電話が掛かってきた。
『蒼、今大丈夫?』
受話器越しに聞こえた声。この声は。
「なに?」
少し冷たく答える。また言われるのかと思うと、溜め息が出る。
『もうそろそろいいんじゃないかと思って、いい人見つけたの。お見合いどう?』
そうか。もうそんなことを考えなきゃいけない歳だった。俺の気持ちは決まっている。
「悪い。もう少し待っててほしい。俺が見つけるから」
『そう、分かった』
その言葉を最後に電話を切った。気持ちの整理がつきそうだとはいえ、お見合いだけは勘弁だ。そう心の中で呟き、歩き出した。
蒼視点は終わりです。