常磐 蒼(1)
俺はいけない感情を抱いてしまったのかもしれない。まさか、親戚を好きになってしまうなんてな。翠には申し訳ないが、許してくれ。柚葉が好きなんだ。
*
年末年始。それは、親戚たちが集まる人が多いだろう。俺もそうだ。だが、一つだけ違った。それは、俺は小さい頃から従兄妹の世話をしてきた。だから、年末年始問わず、ほとんど一緒にいることが多かった。
小さい頃の翠と柚葉は可愛かった。世話している時は感じなかったのだが、突然それは芽生えたといっていいだろう。
柚葉が好きになったんだ。最初は戸惑った。これが恋なのか、と。疑心暗鬼になったりもした。だが、恋だと認めざるを得えなかった。
「蒼お兄ちゃん!」
突然、声が聞こえ我に返った。目の前に柚葉がいる。俺はいったいなにしてたんだ。
「蒼お兄ちゃんってば!」
「ど、どうした? なにがあったんだ?」
よく見れば、柚葉は泣いていた。それを見て、動揺してしまったが、冷静になって聞いてみた。どうやら、翠が柚葉のことをぶったらしい。兄妹喧嘩はよくあると聞くが、二人が喧嘩したというのは初めて耳にする。
二人が仲が良いことをよく知っている。世話してきた俺だからな。それはともかくだ。なぜ、ぶったのかを知りたい。
俺は翠のところへ行き、柚葉をぶった理由を聞いた。そしたら、なんとも子どもらしい理由だ。
翠がパソコンで宿題をしていたら、柚葉が寄ってきたらしい。追い払おうとしたら、柚葉がパソコンを触り始めた。それまではいい。柚葉は誤って電源を落としてしまったらしい。それにイラッときた翠は柚葉をぶったということだった。
あー、翠が怒るのも分かるが、手を出すのはどうなんだろうか。俺は二人にどちらも悪いと理由を説明し、お互い謝って仲直りするように言葉を掛けた。ここで、説明が上手く出来ないと更に喧嘩しそうだと思い、優しく言葉を掛けた。
二人は理解し、仲直りしてくれた。これで安心だな。
ある日、予想外のことが起きた。
「翠兄さん、柚葉のこと好きだろ?」
唐突に翠が発した。一瞬、時が止まった感覚になった。
「あ、やっぱり本当か」
「い、いや。柚葉に言わないでくれ」
「言っても俺が得することはないから言わない」
意外にも翠に勘づかれるのが早すぎた。翠に口止めするように頼むと言わないと約束してくれた。その時だった。
「私になにを言わないの?」
え? 柚葉が俺たちの話に加わるように現れた。話、聞かれてないよな?
「なんでもない」
「ふーん」
俺が答えると、柚葉は何事も無かったかのようにいつも通りの柚葉に戻った。ヒヤヒヤさせないでくれ。まだ気持ちを伝えるのは早すぎる。いずれ、言う時がくるだろう。そう思って過ごした。
翠に柚葉が好きだとバレてから、月日がどれくらい経っただろう。実際、かなりの時が過ぎていた。柚葉も成人し、翠も立派な大人。
俺は柚葉になにも気持ちを伝えていない。というよりも気持ちが薄れていっている気がするんだ。恐らくそれは、柚葉が成人して一緒にいることが減ったことにあると俺は思う。
それと、今更好きでいる気持ちを伝えても、きっと今の柚葉には好きな人がいるだろうという諦めもあった。それならと、心の中で応援してやろう。そう思った時、携帯の受信音がなった。
携帯を開くと、一通のメッセージが届いていた。
『蒼お兄ちゃん、久しぶり。相談があるの』
柚葉からだった。相談っていうのはさっき思っていた好きな人が出来たことなのかと想像してしまった。
俺は返信をした。数日後に会おうということになった。柚葉からなにを相談されるんだと考えながら、その時を待った。