大神 涙(2)
高校生活はいつも通り中学と変わらなかった。ただ勉強が難しいってことかな。あっという間に過ぎ、卒業した。進学する子が多かったけど、私は就職。
けれど、仕事が上手くいかず、辞めてしまった。次の就職が決まるまでアルバイトをしようとしたところ、まさか決まったアルバイト先にあの湊人お兄ちゃんが居たんだ。
久しぶりすぎて、声が出そうなくらい嬉しかった。それを抑えて湊人お兄ちゃんと話した。忘れているかなと思ったけど、どうやら覚えてくれていたみたい。今まで元気にしてたのかなとか、あれから変わったこととか、おばさんたちはどうしてるのかなとか、色々聞きたいことが浮かんだ。なによりも、彼女はいるのか一番聞きたいと思った。
でも、聞くことは出来なくてアルバイトの日々が続いた。
そんなある日、噂を耳にした。
「新人の子、湊人さんと仲良いのかな」
「雫、鳴海っちのこと好きだもんね。仲良いとしたら、調子乗ってるよね。後輩のくせにさ」
「それは言い過ぎだよ」
私、調子乗ってるのかな。そういうつもりはないけど、そう思わせているなら湊人お兄ちゃんと距離置かなきゃ。
その日以降、私は働いている時は湊人お兄ちゃんに対して敬語を使うようになった。湊人お兄ちゃんは気にしてない様子を見せる。ちょっとは気にしてほしいなと思う。
そんなこともあって、アルバイトを続けていたある日のこと。ある先輩に呼び出された。
「ちょっと、大神さん。上がったら、話があるんだけど」
「あ、はい」
私はどきりとした。言われたのはあの噂をしていた先輩の一人。声からして、私のこと調子に乗ってるって言ってた先輩だ。なにか言われるのかな。なにも無いことを祈りながら業務をこなした。
業務を終えると、さっきの先輩のところへ。先輩は私を睨みつけているような気がした。正直、恐い。
「大神さんさ。鳴海っちと仲良いけど、どういう関係なの?」
「ご近所さんです」
直球の質問に私は一言だけ答えた。変に答えてしまったら、空気が悪くなってしまう。もうすでに悪い気もするけど、たぶん私が原因なんだろうな。
「随分、馴れ馴れしいね。本当に近所ってだけなの? 付き合ってるか付き合ってたとかなんじゃないの」
突然、そんなこと言われてしまった。どうしよう。誤解を招かないように、気を付けていたのに……。
そんな時だった。
「お疲れ様です。黒埼さん、後輩苛めるのやめなよ。店長に言い付けるよ」
「なにもしてないよ。鳴海っち、ひどーい」
タイミング良く、湊人お兄ちゃんが現れた。さっきの聞いてたのかな。湊人お兄ちゃんは黒埼先輩に言うと、一度私を見た。私は目を逸らしてしまった。
すると、近付いてきて肩を軽く叩かれた。
「大丈夫? なにもされてない?」
湊人お兄ちゃんの言葉に私は大丈夫とだけ答えた。その日以来、湊人お兄ちゃんは私が働く日にはシフトを入れていた。
そのおかげか、嘘のように他の先輩からはなにも言われなくなった。いいのか、悪いのか私には分からなかった。だけど、これだけはいえる。守られているようで安心する。
そんなこともあり、平和に日常が過ぎていった。あの出来事が起こるまでは。
湊人お兄ちゃんにもう一度会いたい。想っても、もう二度と戻れないんだ。
今でも大好きだよ。湊人お兄ちゃん。
涙視点終わりです。
これにて、色彩恋愛事情は完結です。
ありがとうございました。