鳴海 湊人(2)
月日はあっという間、高校生活あと半年になっていた。なにも変わりない日常、ではなく、実をいうと、高校の間に告白されたことがあった。
俺はまだ心の中にあの子のことを想っていたため、断った。それから、新しい友人と過ごす毎日を送った。高校生活は楽しいはずなのに、心の中で物足りなさを感じた。その理由はおそらく……。
「鳴ちゃん、なにボーとしてるの。あ、近所の子のこと考えてるんだ」
不意に聞こえてきた友人、航汰。航汰は、高校生というより中学生に見える。ふわふわ系男子っていうやつなんだけど、意外と鋭いんだ。今だってそうだ。
「ねえねえ、やっぱりその子のことなんだ。会いに行っちゃえば。近所なんでしょ?」
「ぶっ、」
「汚い。ほら、拭きなよ」
航汰の思わぬ言葉で、口にしていたミルクティーを吹き出してしまった。すかさず航汰はティッシュを渡してきた。
昼食時にそんな事をいうからこうなったんだけど、航汰に言っても聞き流されるだけなんだよね。
航汰にだけ、あの子のことを言ってある。後々、言わなきゃ良かったなんてもう遅い。航汰は呑気にパンを食べてるし。でも、航汰の言うとおり一度会いに行こうかな。ぼんやりと考えつつも昼食時を過ごした。
夜二十時。ちょうど家に着こうとしていた時、ふとあの子のことを思い出した。寄って行こうかなと思ったけど、こんな時間に迷惑だろうし、第一、用もないのに行くのはどうかしている。ただ会いたいっていうのも変な理由だし。
そもそも、俺がこんな時間に家に着くのはいつもの事で、その訳は部活と塾。入った高校は必ず部活動に入らなきゃいけないことになっている。塾も勉強についていくためでもある。だから、こんな時間になってしまう。
あの子の家に寄っていくのは辞めようかな。今度、行けばいい。必ず、行く。そう決めて、家に帰った。
それから、五年くらい経った頃かな。久々にあの子、涙ちゃんに会ったんだ。俺の職場に後輩として来た。最初、顔を見た時、飛び上がるくらい嬉しかった。また、一緒にいれる。
久しぶりの再会に涙ちゃんは俺のことを『鳴海先輩』と呼んだ。それでもいい。距離を縮めればいい話なんだ。いつかきっと、伝える。そう思ったのはその時だけ。まさか、自分の身に襲いかかるなんて、こと、は。
走馬灯のようにあの懐かしい思い出が蘇ってきた。もう、叶わないんだと悟った。
湊人視点は終わりです。