黄山 怜太(2)
それから、どのくらいか経った。あれから、俺は異性とは付き合いがなくなっていた。というよりも、あんな事があったら、二度と付き合いたくないと思ってしまった。おそらく、誰でもそうだろう。
でも、柚葉ちゃんだけは付き合いたいと今でも思ってしまうのは一途だなとつくづく思う。柚葉ちゃんどうしているかな。
そんな時だった。偶然か必然か。久々に柚葉ちゃんから連絡がきた。実をいうと、あの時以来連絡のやり取りもしていない。だから、きた時は飛び上がりそうなくらい嬉しさがこみ上がった。
『怜太さん、久々です。あの、今大丈夫ですか?』
メッセージを見て、俺は直ぐに『大丈夫だよ』とだけ返信した。その瞬間、突然見ていた携帯から着信音がなった。俺は突然すぎて思わず心臓が止まりかけた。
携帯を見ると、柚葉ちゃんからだった。俺は一度、深呼吸をして、電話に出た。
「もしもし。柚葉ちゃん、どうしたの?」
俺は電話の向こうの柚葉ちゃんに問い掛けた。しかし、応答がない。どうしたんだろう。次の瞬間、それは聞こえた。すすり泣きが聞こえたんだ。
「柚葉ちゃん、大丈夫? 今、どこにいるの?」
咄嗟に口にしていた。それでも、応答がない。俺は好きな人が泣いていることで焦る気持ちになる。
『第一公園に、来れ、ますか?』
「待ってて今行くから」
その言葉に俺は通話を切って、直ぐに向かった。
公園に着くと、柚葉ちゃんがぽつんとベンチに座っていた。どうしたんだろうか。俺は隣に座って、柚葉ちゃんが話し始めるのを待った。
数分後、落ち着いた柚葉ちゃんが俺のほうを見た。あの時と変わらない姿。だが、目の下が赤く腫れていた。やっぱり、泣いていたんだ。
「玲央さんに振られちゃいました」
その言葉に俺は柚葉ちゃんの背中を優しく撫でる。こういう時、なにか声を掛けたほうがいいのか。
「柚葉ちゃん、頑張ったね」
たったそれだけの言葉を掛けた。本当は今、今までの気持ちを伝えたくても、振られた後は良くないと思う。弟からって思うと、尚更だ。だから、今はそっと慰めることしか出来ない。その時を待とう。きっと、大丈夫だから。
あれから何年も過ぎていた。俺は三十をとっくに超えていた。弟は……。
「怜太さん、行きましょう」
その言葉に俺は我に返る。澄み渡る空。その下で今日も穏やかな時間は流れていた。
怜太視点は終わりです。