緑川 翠(2)
俺たちはなんとか事務所を立ち上げることが出来た。僅か数年でだ。だが、レオと二人でやっていけるか分からない。茜音もいつか事務所に呼ぼうと思う。
「んじゃ、行ってくる。新しい依頼が来たら教えてくれ」
「分かった」
そう言って事務所を出ていったレオ。事務所といっても、なんでも屋というべきか。俺がシステム担当、レオは受ける担当。レオは最初、迷っていたようだが、言い出しっぺは俺だと言って受け入れた。受け入れてもらわないと意味が無いからな。
そんなある日、パソコンに一通のメールが届いていた。開いてみると、意外な人物だった。
『翠、事務所立ち上げたんだってな。俺も手伝おうか?』
蒼兄さんからだった。俺はすぐに返信をした。手伝わなくていいと送る。すると、一分もしないうちに受信の音が鳴った。蒼兄さんは暇なのか? そう思いながら、デスクに置いてあるマグカップを手にし、口をつける。
メールを開いて文を読む。その瞬間、思わず口に含んでいた珈琲を吹き出してしまった。咄嗟にティッシュを手にして拭いた。
メールの内容は柚葉のことだった。そういえば、蒼兄さんって柚葉のことが好きだったよな。今でも好きなんだろうか。俺はすぐに携帯で蒼兄さんに電話を掛けた。
『翠か。柚葉は元気か?』
蒼兄さんの第一声がその言葉だった。ということは今でも好きだってことなのか。
「柚葉は元気だ。蒼兄さん、今でも柚葉のことが好きなのか?」
俺は答えると、気になることを聞いてみた。だが、返答がない。まさか、傷を抉ってしまったか。そんな悪いことを考えていると、驚きの言葉が聞こえた。
『俺、柚葉のことは諦める。柚葉から好きな人がいるって相談されたんだ。それもお前の知り合いだって言ってた』
既に相談されてたのか。なんてやつだ。まあ、柚葉は蒼兄さんが自分のことが好きだって分かっていないから相談出来たんだろうな。俺は蒼兄さんを応援してやりたいとも思ってしまう。ずっと、一緒にいた従兄弟だからだろうか。
「蒼兄さんがそれでいいならいいが。また好きな人が出来たら教えてくれ」
『それは断る』
断るとは兄さんらしくないな。ま、無理に教えろとは言えないし、いいか。
『それより、お前には好きな人がいないのか? あの女性とかどうだ? 知り合いなんだろ?』
その言葉でまた珈琲を吹き出してしまった。勘弁してくれ。俺には好きな人などいない。今はパソコンと向き合っているだけで満足だ。
翠視点は終わりです。