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那朗高校特殊放送部!

那朗高校特殊放送部~触らぬ先輩に祟り無し?編~

作者: 那朗高校特殊放送部

今回の登場人物:城嶋蓮、倉井雪絵、三条翡翠

筆者:城嶋蓮


10月末。


ハロウィン用の動画の作成も終わった上で、実際のハロウィンはもうちょっと先と言う、

何とも言えない中弛みの時期。

俺は部室がある部員共用のアパートの部屋に向かっていた。


いやさ、自宅じゃ受験勉強が捗らない事あるじゃん?

部屋にマンガとかあるし、自由にしてても怒られないし。


一方で部室はPCはあるけどマンガとかの誘惑は少ないし、

日によっては先輩がいるのでサボれはしない。

勉強するには結構いい環境だったりする。



「おはようございます」


部室の扉を開けると、そこには先輩がひとり。


「あら、おはよう」


先輩の一人、倉井雪絵先輩だ。

先輩は、部屋の椅子に座って文庫本を読んでいる。

内容はカバーがかかっていて分からない。


俺は先輩に軽く会釈をしながら、先輩が座っている席の、机を挟んだ斜向かいの席に座った。

メンバーが集まるまでは別に会話もせず黙々と過ごしていることも多い。

実際、俺はそのまま鞄からノートと問題集を取り出して受験勉強を始める事にした。





-------------------




受験勉強を始める事にした…んだけど、どうにも勉強がいまいち手に付かない。


何故なら、



倉井先輩の髪の毛に、寝癖なのか大きく跳ねた毛束があるのが凄く気になるから!


元々倉井先輩はくせ毛なのかファッションなのか、前髪の一部を少し跳ねさせた髪型だったりするけれど、

何故か今日の先輩の跳ね毛が、それこそアホ毛のように反りかえっている。



クールな顔立ちには似つかわしくないその跳ね毛は、どう見ても寝癖!

…けれど、もしファッションでやってるのなら指摘するのは恐ろしく失礼な行為!


挿絵(By みてみん)


俺自身、別に女性のヘアスタイルには明るくないので何とも言えないし、

倉井先輩はどちらかと言うと物言いは強めなタイプなので、後輩と言う立場から考えても、下手な事は言えないし言いたくない。


でも、知ってて放置するのもそれはそれでちょっと怒られそうな気もする…



…玄関のハンガーラックには、確かに俺の物では無い帽子はあった。

でも、あれが倉井先輩の物という確証は無いし、

(この部、コートとか帽子の忘れ物は結構多い)

跳ね毛の位置的には帽子との両立も出来なくも無い位置だ。



えぇー…?

マジでどうするのが正解なんだ…?






理想形としては、俺が気が付いているとは悟られずに、倉井先輩に自らその存在に気が付いてもらう他ない。

鏡を見なければならない状況に持って行って、

直ってたら問題なし、直って無ければファッション。

それでいいはず。



問題は、どうやって先輩を鏡へ誘導するかだ。


このアパートに存在する鏡は、洗面所にある鏡と、

更衣室にある全身鏡。

後は…浴室にも小さいものがあったか?


概ねそんな感じだ。

先輩自身が手鏡を持ってる可能性はあるけど、そんな可能性に賭けたくはない。



…と、なれば!

他の誰かが入ってくる前に勝負を決めるしかない。


額に軽く冷や汗を浮かべながら意を決して話しかける。


「倉井先輩」

「ん、なにかしら?」


先輩は本から視線を外し、俺の方を見る。

その頭の動きにつられて、跳ね毛が揺れるのを必死で見ないようにしながら、

平然を装いながら、少なくともそう思い込みながら続けた。


「先輩、トイレ行かなくて大丈夫ですか?」


作戦その1、トイレに誘導する作戦。

とりあえず、直球で聞いてみる作戦。

これで言ってくれれば即完了だ。


が、


「え?いや別にいいけど、何でそんな事聞くのかしら?」


と一言目で突っぱねられてしまう。

しかもちょっと怪しまれるおまけ付き。


「あ、ええと…お、俺が行くので、今大丈夫かな…って」

「そう言う事。私は今は大丈夫よ」

「そ、そうですか。じゃあ、行ってきます」


何とかごまかせたようだ。

代わりに俺がトイレに行く事にはなったが。


とりあえずああ言った手前はトイレに行かなくちゃいけないので、そのまま席を立って、部室の外のトイレへと向かった。





第1の作戦は失敗だ。

便座の蓋を開けないままトイレに座って頭を抱える。

これでそのまま、

「そうね。ちょっと行ってくるわ」

とか言ってくれれば良かったんだけどなぁ…


そう上手くはいかないか。


何か他の作戦を考えねば!



洗面所ではないもう一つの鏡、更衣室に誘導させるためにはどうすればいいか。

更衣室である以上、一番簡単なのは着替えさせる事だけど、


倉井先輩はもう自分の衣装に着替えている。

だから一番簡単な

「そろそろ着替えておいた方が良さそうですね」

作戦は使えない。


だとするなら、候補は2つ。

ひとつは、元の服に戻させる事。

これは、これから活動するって言うのに私服に戻させるのは無茶苦茶だ。


もうひとつは、何か別の恰好をさせる事。

今なら、ハロウィンの仮装をやっていた直後だし、ワンチャンあるかもしれない。



偽装の為にトイレの水を流して部室に戻ると、

先輩は変わらず本を読んでいる。跳ね毛もそのままだ。

おまけにまだ誰も来る気配はない。


よし、作戦に入ろう。


勿論すぐに話しかけたのでは怪しまれるので、俺も5分くらい勉強を続けながら、何の気なしに思い付いたように声をかける。


「そう言えば先輩」

「何?」

「今年のハロウィン用の仮装、良かったですよ」

「え、あぁ、そう?ありがとう」


普段俺がそんな事言わないせいか、先輩はやや困惑気味な返事をしつつも、

視線を本から俺に移して、少し柔らかそうな表情をしている。


「それでなんですけど…えーっと、もう一回見たいなぁ、って気持ちがですね…」

「もう一回?また私にアレを着て欲しいって?」


口実としてはそう言う理由を選んだ。

倉井先輩に、一度撮影で使った衣装をもう一度着てもらうのだ。

その過程で全身鏡を見れば気が付いてくれるはず…


「え、えぇまぁ。そんな感じです」

「ふぅん…城嶋ってそう言うのが好みだったりするのかしら」


倉井先輩は、少し冷めたような目で俺を見ている。

なんというか、あらぬ誤解を受けようとしている気はする。


実際倉井先輩の今年の仮装はポリスのコスプレで、しかも短めのタイトスカートに網タイツなんていう、結構コスプレしてる仮装だったりする。

…俺、結構なマニアだと誤解されてないか??


まぁ別に、嫌いじゃないけど、刺さるかと言われたらそうでもない。

でも、好みだって言っておかないと着てくれなかったりするかな。

逆に好みだって言ったらドン引かれて着てくれない可能性もある。


また難しい2択を…!


返答に困っていると、今度は倉井先輩の方から話を持ち掛けて来た。



「そうね。じゃあ城嶋、あなたも去年までの仮装があるでしょ?それ着たら私も着てあげるわ」

「え、な、なんで俺まで」

「ハロウィン当日でもないのに私だけ仮装してたら恥ずかしいじゃないの」

「そ、そうですよね…!」



クソっ、背に腹は代えられないか!

俺も着るしかない!




-------------------



って訳で、俺も去年までに使ってた仮装。

吸血鬼の仮装をした訳だけど、

あれね。なんか貴族っぽい胸元にヒラヒラのネクタイみたいなやつ付けたシャツと、無駄に襟のデカイマント、あとトゲトゲしい歯ね。


でも、元々は倉井先輩の跳ね毛を何とかする筈だったはず。

なんで俺がここまでしてるんだ?



とはいえ、その甲斐あって倉井先輩を更衣室に誘導することには成功した。

今頃先輩はハロウィンのポリス仮装に着替えて居る頃だ。

そうもすれば髪の毛の現状に気が付くはず…!



そんな、普段と違うドキドキを抱えながら数分。


「おまたせ」


と冷静な声で更衣室から出てきた倉井先輩の頭には、

変わらず跳ね毛が残っていた。


「えっ!?」

「何よ、ちゃんと着たわよ」


うっかり声を上げてしまった俺に、先輩は不満そうな顔、というかもうちょっと睨みを聞かせた顔を向けて来る。

しかし、それで更に気が動転した俺は、


「先輩、着替えの時に鏡とか見ないタイプですか?」


等と火に油を注いでしまう。

まだファッションの可能性は消えてないのになぜそんな返事をしてしまった俺!!


「鏡?何?なにかあったかしら?ボタンの掛け違えとか、タイツの伝線とか…」


先輩は自分の衣服を触ったり凝視したりしながら全身をチェックしている。

そうだけど!


そこじゃないんだ!!


「…とくにおかしな所は無いわね…それとも、マニア独特の着眼点?」

「そ、そうじゃないです…」


やっぱ完全にマニアだと勘違いされてる…


「じゃあ、何で鏡の話なんてしたのよ、した以上はなんかおかしな所、あるんでしょ?」

「あ、あぁー、いやですね、その…」

「何よ、怒らないから言ってみなさい。私も気になるんだから」


これ、詰みか?

倉井先輩の目は氷のように冷たい。

まるで蛇ににらまれた蛙だ。

っていうか恰好も相まって、取り調べを受けている気分になる。


「ほ、本当に怒りませんか?」

「そう言ってるんじゃない」


そう言ってる人間は怒るんだよなぁ。

なんてことは言えるわけないし、かといってもう黙っている事もごまかす事も出来そうにない。


ここはもう腹を括ろう。

最悪土下座で許してもらおうか…


「じゃ、じゃあ、言いますよ。…先輩の前髪、ちょっと跳ねてません…?」


遂に白状した。

この威圧感には耐えられなかった!


「…」

「…」


気まずい沈黙が続く。

緊張感に口がカラカラになりそうなとき、先輩が、


「あぁ、これ?これわざとよ」


とあっけらかんとした口調で言う。


「えっ」

「どうも巷で流行ってるらしいのよね。このアホ毛スタイル」

「そ、そうなんですか…?」

「ええ、似合うかどうかはともかく、ちょっとやってみてる所よ」


等と言いながら、倉井先輩は跳ねた前髪をクルクルと弄んでいる。


「そ、そうだったんですか…」


拍子抜け、と言う訳では無いが全身の緊張が一気に抜けて椅子の背もたれに雪崩かかる。

最初にそう聞いとけばよかったなぁ


ああいや、それも結果論か。


「色々気を使ってたのか、遠巻きに色々仕向けたのかもしれないけど、惜しかったわね」

「うっ…」


しかもバレてる。

先輩はクールな顔を維持しつつも、その目は得意気に俺を見ている。

ある種、これが先輩流のドヤ顔に近いものがあるのかもしれない。



でもこれで俺はだいぶ気持ち的に解放された。

先輩は故意でこれをやってると分かった以上、気にする必要は無くなったのだから。

これで安心して勉強に戻ることが出来る。


とペンを手にノートに目を落とそうとしたその時、


「おはよう」


とドアを開け放たれる音と主に誰かが入って来る。

音の主は三条先輩だった。

先輩も今年のハロウィンの仮装組だ。


先輩は部室を軽く見渡して、自分の荷物を棚に置く。


「ん、まだ二人だけか」

「そうね」


それに対して倉井先輩は、本を読みながら答えた。

わりといつもの光景だ。

いつもならこのまま先輩は着替えに行くなり冷蔵庫を漁りに行くなりする感じだけど、今日は違った。


「所でなんで二人ともハロウィンの仮装してるんだ?撮影はもう終えたろ?」


そうだ忘れてた。

今俺も倉井先輩も、なんだかんだ仮装中だった!


でもその意味を答えるのはちょっとマズいって言うか…


「ああ、これ?」


ペンを持って固まっている俺の代わりに、

倉井先輩が自分の衣装を軽く引っ張りながら答える。


「これは城嶋の要望で着たのよ。なんでも、城嶋はポリスフェ、」

「あーえっとですね!!」


そうじゃないんだ!!

それは誤解なんだ!


「えっと、どうせならハロウィン本番のデモンストレーションでもしようかなって!!」


これは割って入ってでも止めなければならない!

変に拡散されても困る!


「あー、そうなのか、でも渋谷ハロウィンは今年は控えめにって話だろ?」

「べ、別に俺らは渋谷に行くわけじゃ無いじゃないですか…?」

「そりゃまぁ、そうか」


言いくるめられたのか何なのかは分からないが、

とりあえず変な誤解はされずに済んだ気がする。


とりあえず倉井先輩の方を確認すると、

随分と慈悲の籠った目で俺を見て来る気がする。

イメージとしては、


「あぁ、男子にはバレたくないのね。仕方ないから黙っててあげるわ」


って感じに見える。


そうじゃないんだ!


挿絵(By みてみん)


…あとでこっそり事の顛末を全部話して釈明しておこう。

三条「あれ、倉井のそれ、寝癖か?」

倉井「地雷を踏んだわね!?」

三条「え、ちょ、待った!!」

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