精霊と虎と私
「名前…」
「え?」
「名前、決めてよ」
「私が?」
「うん」
「私でいいの?」
「あんた…じゃなくてシオリがいい」
照れたように、鼻の頭を指でポリポリ掻く少年に、思わず微笑んでしまう。
「う~ん、そうだなぁ…」
私は少年と虎さんを交互に見つめる。
「紅葉…」
「モミジ?」
「うん!キミは紅斗、そして、キミは紅葉だ。」
「ベニト?」
「ガウ?」
「字はね、こう書くの。」
私は指で土に字を書いた。
「私の国の文字なんだけど、“紅”の字はね、鮮やかな赤い色のことをいうの。」
「あかい色?」
「そうキミの瞳の色だね。そして、“斗”は広い宇宙のイメージがある漢字なの。」
「ウチュウ?」
「そう、宇宙。この空の、もっとずっと上の方にある空のことだよ。すっごく広いの!楽ちゃんの名前にも使われてるんだけど、名前をつける時にね、夢のある人生を楽しく過ごしてほしいっていう願いを込めて楽斗ってつけたの。」
「夢のある人生…」
「そう、キミにもいろいろな可能性があるんだから!諦めちゃもったいないよ!」
「ベニト…うん!ベニト!ありがとう!シオリ!」
嬉しそうに笑うベニト。気に入ってもらえたみたいでよかった。
「そして、紅葉はね、紅葉っていって、葉っぱの色が紅く変わっていくことをいうんだけど、たくさんの木々の葉の色が変わっていくと、紅や黄、橙のいろんな鮮やかな色が見られて、キミの体の色みたいなとても綺麗な色合いになるんだ。ベニトの魔力と混じりあってその体の色になったのなら、紅葉みたいだなって。それが、すごく綺麗で、私の国では秋の紅葉っていって、たくさんの人に感動を与える景色なんだよ。それに、美しい紅葉の夢を見ると、幸運に恵まれるって言われているんだ。私にとってこの世界は、夢の世界に入り込んだようなものだから。そこで紅葉のような綺麗な色の体を持つキミに出会えたから、私は幸運だよね。だから、キミは紅葉!」
「コウヨウじゃないの?」
「ガウ?」
「もみじの方が響きが可愛いから!」
「フフ、可愛いだって!お前男なのにね!」
「ガウ~」
「モミジ…みんな、お前を怖がるのに、可愛いだって…」
ベニトはモミジの方を向いて、モミジと額をくっつける。
「ガウ!!」
「フフ、気に入ったみたいだ!それにこの字、僕と一緒だね!」
ベニトは、私が地面に書いた“紅”を指して、嬉しそうに言う。
「この字は、楽ちゃんと一緒だよ。」
私は“斗”を指した。
「ベニトがお兄ちゃんで、楽ちゃんが弟、モミジが末っ子?」
「僕、お兄ちゃん?」
「ガウガウ!」
「クスクス。モミジが末っ子はイヤだって!」
「そう?じゃぁ、モミジが次男で、楽ちゃんが末っ子だね。みんな兄弟だ。これから、よろしくね!ベニト、モミジ!」
私が名前を呼んだその時、突然、彼らの体が輝きだし、紅と橙のモヤが出てきた。ゆらゆらと揺らめきながら、溢れでるそれは、空中で形作り、丸い形になって、私の方へと降りてきた。恐る恐る、手を前に差し出してみると、そっと私の手の平の上へ…
「ガラス玉?」
「契約の宝玉だよ」
「契約の宝玉?」
「シオリと僕たちの間で契約が成立したんだ」
「契約ってどういうこと?」
「う~ん、僕たちの力をシオリが使えるってことだよ」
「力を使う?」
「そう。精霊は気に入った人間に力を貸すとき、契約を交わすんだ。そうすれば、僕たちはより強い力が使えるし、逆に人間は契約した精霊の力を使うことができる。ただ、精霊は強い力を使える代わりに、契約した人間に縛られるんだ」
「縛られる?」
「うん。契約者を主と認めて、仕えるんだ。契約者の命令は絶対だからね」
「そんな…!?そんな契約しちゃダメだよ!」
「そんなことないよ?」
「どうして?」
「契約する理由はみんな違うけど、少なくとも僕たちはシオリに主になってもらえて嬉しいよ。シオリの側はとても心地いいから」
「ベニト…」
「でも、精霊の力を人間が使うってことは、精霊に負担がかかるんじゃないの?」
「心配してくれるんだね。それは心配ないよ。人間が精霊の力を使う時は、人間が持っている霊神力を精霊が吸収して、それを魔力に変換して使うから。だから、その点では、精霊に負担はないよ。だけど、シオリは霊神力を使っちゃうから気をつけてね。」
「霊神力?私、霊神力なんて持ってないよ?」
「え?そんなに溢れるほど持ってるのに?」
「え?」
ベニトの視線につられ、自分の体を見てみると、光輝くモヤが私の全身から溢れていた。
「な、なにこれ?!」
「シオリ、気づいてなかったの?あぁ、僕たちと違って人間は見えないものね」
「人間には見えないの?」
「うん。人間は、精霊と契約して初めて、自分の霊神力を見ることができるんだ。僕たちがシオリたちの前に姿を現したのも、その力に惹かれたからだよ。シオリほどの霊神力を見たことなかったし…―――――」
「え?なに?」
「なんでもない。っていうか、そんなに光輝いていて、溢れだしてる人間なんていないよ。だから、気になって…」
「そうなんだね。これのおかげでベニトとモミジに会えたんだね!ベニトとモミジに会えて嬉しいよ!」
「?!…へへ!」
ベニトは嬉しそうに笑い、モミジは頬をすり寄せてきた。
「この宝玉は私が持っていてもいいの?」
「もちろん。だけど、その宝玉は絶対に失くさないでね。それを失くしちゃうと、精霊との繋がりが切れちゃうから」
「…分かったわ、絶対に失くさない」
私は手の平にある2つの宝玉を見つめる。
“失くさないように、身につけられるものだったらいいのにな。2つあるから、ピアスとか?穴は開けてないけどね”
私がそう思った途端、宝玉が歪みだした。
「えっ?!」
グニャリグニャリと形を変え、眩しい光を放つと、手の平から消えていた。
「シオリ、耳!」
「耳?」
全く違和感なんて何もないのに、耳を触ると、何かがついていた。リュックの横ポケットから鏡をだす。
「なに、これ?」
鏡をみると、耳には紅と橙のマーブル模様の綺麗な宝玉が嵌まったピアスがついていた。
「えっ?!えーーーっ!!」
“穴開けてないんだけど!”
慌てて、耳からピアスを外そうとする。私の手がピアスに触れた途端、ピアス型の宝玉は、元の2つの丸に戻った。
「穴、開いてない…」
耳に穴が開いていないことにホッとし、“これなら、いいか”と思った瞬間、また、2つが混ざりあったピアス型の宝玉となり、耳についた。
「すごい…」
私がピアス型の宝玉に感動していると、ベニトが驚いたように声をかけてきた。
「信じられないよ!何度か、精霊と契約した人間の宝玉を見たことあるけど、みんな丸いままだったし、色がまざるなんて聞いたことないよ!しかも普通の宝玉は加工なんてできないのに何で耳についてるの!?」
どうやら、ありえないことが起きたらしい。
「んん…しぃちゃん?」
「楽ちゃん?目が覚めた?」
「…とらさん?!」
楽ちゃんは目の前にいたもみじにビックリしている。
「楽ちゃん、こっちのお兄ちゃんがベニトくん、こっちの虎さんがもみじくんだよ。しぃちゃんと仲良しになったの。楽ちゃんも仲良くしてくれるかな?」
「おにぃちゃん…?うん!ぼく、なかよくできるよ!ベニくん、もっくん、ぼくもなかよくしてね!」
楽ちゃんのヘビー級な笑顔にベニトもモミジも嬉しそうだ。
「ラクトは弟だからね!もちろん、仲良くするよ!」
「ガウガウ!」(オトウト、マモル)
「ん?モミジ?」
「ガウ?」(ナニ?)
“えっ?えっ?えっ?”
「…モミジ、楽ちゃんを守るって言ってくれた?」
「ガウ!」(イッタ!)
「モミジの言ってることが分かる…」
「あぁ、それ、契約したからだよ。頭の中に声が流れてくるでしょ?ほら、ぼくとも!」
(シオリ、聞こえる?)
「本当だ…すごいね!」
私がテレパシーのような力に驚いていた時、楽ちゃんはモミジとじゃれあっていた。
“う~ん、もふもふと楽ちゃん、写真に納めたい。”
色々なことが起こりすぎて、スマホのカメラの存在を忘れていた私は、あとでショックを受けるのだった。
バクライドの少年→紅斗
ドラド(虎さん)→紅葉
と、なりました。詩織ちゃんが呼ぶ時は、“モミジ”よりも“もみじ”と書きたかったんですが、ひらがなが続くと読みにくかったのでカタカナ表記にしました。
楽ちゃんとモミジのじゃれあいは、想像しただけで・・・:+((*´艸`))+:。ごちそうさまです☆




