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《視点》風見梨子①

「まったく、やってられないわ!」


彼氏に浮気をされた。これで2度目だ。頭に来て、家中のものを投げてきてやった。それでも怒りが収まらない。


「あんな女のどこがいいのかしら!」


私といるのに、えらくスマホを気にする彼。話しかけているのに、気のない返事にスマホを取り上げた。写真のようなものが見えたので、思わず画面を見てしまった。


≪昨日は楽しかったね(ハート)≫


見知らぬ女が彼の頬にキスをしている写真。


「楽しかった?!何がよっ!!」


思わず手に持ったスマホを彼に投げつけ、家中の物を手当たり次第に投げつけていた。そのまま、コートと鞄を持って彼の家を出る。乱暴に自転車のかごに鞄を入れ、鞄の中からスマホをだす。耳にイヤホンをし、お気に入りの曲を大音量でかけて、自転車をこぎだす。しばらくすると彼からのメールが入ってくる。


≪ごめん!≫


≪彼女はただの友達だ≫


≪本当に好きなのは梨子だけだ!≫


ありきたりの謝罪メールにまた怒りが沸く。そんな時だった。目の前に急に人が見えた。驚いてバランスを崩す。


ズザザザザ!!


自転車は倒れ、鞄の中身が飛びでる。イヤホンは耳から外れ、スマホごと近くに落ちる。


「痛っ!」


スマホを拾おうとすると、足に痛みが走る。


「大丈夫ですか?」


少し離れたところから女の声がした。声のした方を振り向いてキッと睨みつける。そこには、口元をストールでグルグル巻いた地味目な女がいた。女の横を見ると小さな子どもも一緒だ。暗くて顔はよく見えないが、ニット帽を深く被り、メガネをして、ストールをグルグル巻いて、地味目な服、しかも子連れ…オバサンだなと判断した私。


「大丈夫じゃないわよ!!どこ見て歩いてんのよ!オバサンッ!」


彼氏に浮気をされた怒りと、危ない目にあった怖さと、体の痛みで、オバサンに怒鳴りつける。私が怒鳴りつけると、オバサンは固まっていた。


“頭の回転が遅いのかしら?”


と思っていると、オバサンが何かを言いかけた。



その時───!



それは、一瞬の出来事だった。


突然眩しい光に包まれ、体が浮く感じがした。


「きゃあぁぁぁっ!」


“なに?何なの?!”


眩しい光がおさまるとガヤガヤと人の話声が聞こえてきた。


「聖女様!聖女様!」


「成功じゃ!」


「我が国に聖女様が来てくださった!」



“聖女?小説じゃあるまいし何言ってるの?”


ゆっくりと目をあけると、


「?!」


周囲をたくさんの人に囲まれていた。しかも、外国の映画に出てくるような格好をしている人ばかりだ。


「なんなの!?ちょっと、何なのよこれ!ここはどこ?私のスマホは?!」


「聖女様、落ち着いて下さい」


“また聖女様って…もしかして私に話かけてる?”


声がした方を振り向くと、肩まで伸びた金髪の髪をなびかせ、昔話の王子様のような格好をしたイケメンが、私の前まで来て片膝をついた。


「突然のことに戸惑われておられることでしょう。私はミークレイ王国が第一王子アルトリア・ミークレイと申します。聖女様にお会い出来て光栄でございます」


私の目を見つめながら、自己紹介をすると私の手を取り、そっと手の甲に口づけをした。


瞬間、一気に顔が赤くなるのがわかった。


“こんな格好いい人に見つめられながら、手の甲にキスされるなんて、お姫様になったみたい!…??この人、今王子って言った?”


「王子?」


「はい、アルトとお呼び下さい、聖女様」


「聖女?何言ってるの?」


「貴女様は、我が国のために、異界の地よりお呼びした聖女様でございます。まさかこんなに可愛らしい方が来て下さるとは思いませんでしたが」


そう言って私の手を握ったまま、真っ直ぐに私を見つめて微笑む。


“何この感じ!胸がドキドキするわ!”


「…異界の地?日本じゃないの?」


「はい、ここはミークレイ王国です。聖女様の国はニホンという名前なのですか?」


「そうよ、これは夢じゃないの?」


「はい、私のこの温もりが聖女様にも伝わるかと」


イケメン王子は、片手で握っていた私の手を両手で包み込んだ。イケメン王子の手から伝わってくる熱が温かい。彼の手の温もりに、これは現実なのだと思い知らされる。


「嘘でしょ…」


私は呆然と呟いた。まさか、そんな!


「異世界転移ね!信じられないっ!」


あまりの嬉しさに私はイケメン王子、もといアルト王子に抱きついた。


「せ、聖女様!」


顔を赤くしながら、焦るアルト王子。やだ、私ったら積極的ね。


「私が聖女?!じゃあ、私はこの国になくてはならない存在なのね!嬉しいわ!夢にまでみた異世界転移!まさか、現実に起こるなんて!しかも、聖女よ!聖女!私はここにいてもいいのよね?」


「もちろんです!喜んで頂けてよかったです。つきましては、聖女様、成人されているのでしたら、私と結婚して頂けると嬉しいのですが…」


やだっ!まさかのプロポーズ!?もっとロマンチックなのがよかったけど、イケメンにこんなに見つめられながら言われるのも悪くないわね。しかも、王子様よ!普通に暮らしてたら味わえないわよね!


「私は18よ!この世界では結婚できるかしら?」


こっちはこっち、日本は日本よね!あっちで彼氏がいても、こっちの世界では関係ないわよね!やっといい男に巡り会えたわ!


「えぇ、大丈夫ですよ。聖女様、よろしければお名前を教えて頂けませんか?」


「風見梨子よ!」


「カザミリコ様」


えぇっと、異世界の小説だと、反対に名前を言ってたっけ?

まぁ、いいわ。とりあえず名前よね。


「名前が梨子よ!梨子って呼んで!」


「リコ…お名前も可愛らしいですね。私の可愛いリコ」


本当に王子ね、こんな台詞をスラスラ言えるんだもの。


“あ~、なんて気分がいいのかしら!”


アルト王子は、私の前髪をそっとかきわけ、額にキスをした。

“チュッ”という音が聞こえ、潤んだ瞳でアルト王子を見つめる私。アルト王子の頬も少し赤くなっている。


“ふふ、王子って言っても普通の男と変わらないのね。”


「あ、あの~…」


“今いいところなのに、邪魔するのは誰よ!”


私は声がした方を向く。そこには、さっきのオバサン親子がいた。


「あら、オバサンもいたの?」


“またこのオバサン?!異世界までついてきて、いいところを邪魔するなんて、一体何なのよ!!”


オバサンが何か言いかけたら、アルト王子がそれを遮った。


「この者は?リコの侍女か?随分変わった格好をしているな。それは獣人の子か?子連れで仕えているとは」


「侍女?獣人?」


“侍女?オバサンが??そういうことにしといた方がいいのかしら。異世界って確か身分が大事なんだっけ?でも、私、聖女よね?侍女がいた方が箔が付くかしら?なら、せっかく勘違いしてくれてるんだし、そういうことにしておきましょ!言葉遣いもそれらしくしなくちゃね!”


「…えっ、えぇ!そうですわ!私の侍女ですの!獣人との間に産まれた子を抱えて不憫でしたから、侍女として職を与えてあげたのですわ。貴女、いくら恩があるからって、私のために異世界にまでついてこなくていいのに」


“獣人って嫌われてる方が多かったわよね?悪く言っちゃったけど、この世界でもそうかしら?”


「リコは優しき姫なのだな。リコの世界でも獣人は忌むべき存在なのか。不憫な子だな。異界の地の侍女よ、これまでご苦労であった。リコには我が国の優秀な侍女がいるのでな、そなたは暇をもらってよいぞ。」


“よかった!あってたみたい!”


「いえ、あのですね、私は侍」


“何?!オバサン反論してきたんだけど!”


「あ、貴女!私のことは大丈夫だから、早くお帰りなさい!」


“危なかった!”


「では、帰ります。失礼します。楽ちゃん行こう」


“あら、オバサン空気が読めるじゃない。よかった!これでもう安心ね!”


オバサンは子どもと一緒に扉に向かって歩きだした…と、思ったら、立ち止まり振り返った。


“何で止まるのよ!!”


「どうやって?」


“えっ?!えっ?!そんなこと知らないわよ!早くどっか行ってよ!ホントに邪魔なんだから!!”


「何をやってるの?早く帰りなさいよ」


私は立ち上がり、オバサンを睨む。すると、周りの人がざわめき、私から視線を逸らした───なんでっ?!

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