隣国へ
誘惑の森とは違い、木々の間から日の光が届きだしている。徐々に明るくなっていく中、久しぶりに浴びる朝日と森の中の涼しげな風がとても気持ちがいい。森林浴を楽しみながら森の中を進んでいく。
「う~ん、気持ちいい!…そういえば、ダンはどうしてあの道を知っていたの?」
「まだ新米の頃に子どもが拐われる現場を目撃しまして、後をつけたんです。ですが、私一人でしたから中々助け出せず、もたもたしている内に悪人どもの馬が足を踏み外しましてね、奴らは崖下に転落したんですよ。子どもは辛うじて手を掴んだんですが、私も一緒に落ちてしまって崖にしがみついている状態で。」
笑いながら話すダン。
「子どもだけでも引き揚げようと思ったのですが、掴んでいた場所が崩れてしまって…いやぁ、あの時は、もうダメだとおもいましたね。死を覚悟したはずが、生きていて驚きましたよ。子どもを連れて急いで崖に上がったのですが、すぐにもう一度引き返す勇気はなかったですね。いやぁ引き返さなくてよかった。まだ数分で消えるなんて知らないですから、引き返していたら死んでましたよ。それから、時間がある度にあの道を調べていたのですが、こんな日が来るとは…お役に立ててよかったです。」
どうやら、あの道のことは偉い人たちには話さなかったらしい。だから、私たちが生きていて、あの道を通り、隣国へ渡ったことは知られないだろうとダンが言っていた。
それから私たちはしばらく目的地を目指して走り続けた。
「綺麗!川だ!」
目の前に見えたのは、とても大きな川だった。水がエメラルドグリーンの色をしており、川のほとりには色とりどりのの綺麗な花が咲いている。テレビで見たことのあるようなどこか遠い国のリゾート地に来たような場所だった。まぁ、遠い国ではあるけどもね…。
「あっちの川も綺麗だったけど、この川の水もとても綺麗だね。」
「この国は、豊かな自然に恵まれていますからね。きっと暮らしやすいと思いますよ。さぁ、疲れたでしょう!食事にしましょう。」
ダンが食事の準備をしてくれる。なんだか家政婦さんみたいだ。今朝の食事は…茶色い…ジャーキー?何の肉だろう?
私がジャーキーらしき干し肉を眺めていると、ダンがそれにきづいたのか申し訳なさそうな顔をした。どうやら、勘違いをさせたようだ。
「申し訳ございません…日持ちしないものから食べていたのですが、残りが干し肉しかなくて…すぐに魚を捕まえて」
「待って!干し肉でも十分だよ!」
「いえ、しかし…」
「大丈夫!」
私はリュックからカップ麺を取り出した。
「シオリ様、これは?」
「これはね、カップ麺っていうの。」
「カップメン?何に使うのですか?」
「使うんじゃなくて、食べるの。」
「食べる?」
「ダン、お湯を沸かしたいんだけど」
「お湯ですか?お任せ下さい。」
カップ麺は、味噌ラーメン、塩ラーメン、担々麺の3種類だ。全部開けるつもりだったが、故郷の味が恋しくなったらいけないからと、ダンが反対したため、話し合いの末、2つをみんなで分けて食べることにした。選ばれたのは塩ラーメンと担々麺だ。
「シオリ様、これくらいの量で足りますか?」
ダンが飯ごうのような小鍋でお湯を沸かしてくれている。
「うん、足りるよ。ありがとう。」
お湯を沸かしてくれている間に、スープや薬味を入れて、お湯を入れるだけの状態にしておく。ダンもベニトもモミジも興味津々で私の手元をじっと見ている。
「らーめん♪らーめん♪みんなでらーめん♪」
楽ちゃんはラーメンが嬉しいのか某有名なCMの歌を歌いだした。
「おいしいね♪ちゅるちゅるちゅるちゅる~あ~おいしい♪」
か、可愛すぎる…
はっ!動画を撮らなくちゃ!
急いでスマホの準備をする私。楽ちゃんもう一回!っと言おうと思ったら、スマホの充電がなく、カメラ起動せず…
酷すぎる…
泣く泣く撮影を諦めた…
「シオリ様、お湯が沸きましたよ。」
「ありがとう。」
ダンからお湯をもらい、カップ麺に注ぐ。そして蓋をして3分待つ。
「「「┅」」」
私が何もしないでカップ麺をジッと見ているから、不思議に思ったらしいベニトが声をあげた。
「シオリ、これって何してるの?」
「えっ?あぁ、カップ麺はね、お湯を入れたら少し待たないといけないの。」
「待つだけ?」
「そう、待つだけ。」
「何もしないの?」
「うん、何もしないよ。」
「シオリ様、切ったり、煮込んだりなどは…?」
「もちろんしないよ。ほら、そろそろいいかな。」
何もしないのが信じられないような顔をしている二人と一匹をよそに、私はカップ麺の蓋を開ける。
ほわぁ~ん。。。
白い湯気にのって、食欲をそそるいい匂いが漂ってきた。
「う~ん、いい匂い!できたよ、食べよう!」
私と楽ちゃんは、お湯を沸かした小鍋を借りて塩ラーメンを取り分け、ダンは小鍋の蓋に担々麺を取り分けた。
「「いただきます!」」
ふぅ、ふぅ、と息を吹きかけ、ラーメンを少し冷まして楽ちゃんの口に運ぶ。
「熱くない?」
「うん!おいしいよ!」
私も早速スープを口に含むみ、麺を一口食べる。
「うん、美味しい!」
「シオリ!これ、美味しい!!」
ベニトが食べているのは担々麺。
「なんだ、このスープは!深い味わいに、ピリッと舌に残る辛さがじわりと効いて旨い!待つだけでこんなに旨いスープが…」
ダンはスープに感激している。
「ガウガウ!」(ウマイ!)
モミジは器用に塩ラーメンを堪能中。虎がラーメン食べてる姿なんて、日本にいたら滅多に…というより、ほぼ見られないよね。スマホの充電がないのが残念すぎる。
ラーメンをお腹に入れると、楽ちゃんとベニトはモミジの尻尾で遊びだした。
「シオリ様、これからのことをお話してもよろしいですか?」
「うん、お願いします。」
「ここから一番近いのはピラートという町なのですが、少し遠回りをしてテトラスという町に向かおうと思います。」
「テトラス…」
「はい、例の知り合いが今その町に滞在しているようなのです。」
「ここからどのくらいで着くの?」
「そうですね…4日ほどで到着するかと。ただ、ここからは今まで以上に慎重に進まなければなりません。」
「何か危険なことが?」
「魔物除けの魔道具がもうないのです。本来は、行商の一行に紛れて頂き、ガイドラを通って安全な道を行って頂こうと思っていたのですが、人数が増えてしまい、こちらのルートになってしまったので…」
「あぁ、気にしないで!魔物は怖いけど、もしもの時は私も頑張るから!私の力がどこまで通用するか分からないけど、みんなと生きるために頑張るわ!」
思わず力こぶしを握る私。
「ところで、ダンは大丈夫なの?」
「大丈夫とは?」
「土地を捨てようとする人は重罪って…」
「あぁ、大丈夫ですよ。私はシオリ様のお側でお仕えしたいので、もうあの国に戻るつもりはありませんし、万が一追っ手が来ようものなら丁重にお帰り頂きますから。」
ダンの笑顔が怖い…
追っ手の皆さん、来ない方が身のためですよ…
どうか追っ手が来ませんようにと心から願う私であった。
モミジの尻尾でじゃれあいたい!思う存分もふりたい!妄想の世界で癒されてきます(笑)
朝ですが、今日はお休みなので、おやすみなさい(*>∇<)ノ




