森の外
ビシッ!としたダンが、声を上げる。
「よし!本日この場にて、シオリ様をお守りするための親衛隊を結成する!第一部隊“ヒスイ”、第二部隊“クレナイ”、第三部隊“コウヨウ”、それぞれの隊長は、俺、ベニト、モミジだ!誠心誠意お仕えするように!そして、シオリ様の大切な弟君、ラクト様をシオリ様同様、必ずやお守りするように!いいなっ!」
「「おうっ!(ガウ!)」」
私と楽ちゃんは置いてきぼりのまま、話がまとまったようだ。
「それではシオリ様、我々は見張りをしておりますので、ゆっくりと水浴びをされて下さい。では。」
一礼し、川から離れていくダン。
「僕たちも行こうか、モミジ!」
「ガウ!」(オウ!)
「本当に見張りをするの?」
「当たり前さ!なんていったって、僕たちは親衛隊の隊長だからね!」
「ガウガウ!」(タイチョウ!)
「安心して、水浴びしてよ!」
ベニトとモミジもダンの真似をし、一礼して去っていく。手を繋いでいる楽ちゃんと顔を見合せ、思わず笑ってしまった。
「ふふ、おかしいね。」
「しぃちゃん、たいちょーってなに?」
「隊長はね、う~ん、強くて優しい人かな。皆を守ってくれるヒーローみたいな?」
「ひーろー?」
「そう、ヒーロー。えぇっと、そうだ!スーパーベアみたいな人だよ。」
「すーぱーべあ!?じゃあ、つよいんだね!かっこいいな!ぼくもたいちょうになりたいな!」
楽ちゃんの大好きなアニメのスーパーベア。“弱気を助け強きを挫く”森のスーパーヒーローだ。
「ふふ、じゃあ隊長さんになれるように、モリモリ食べて早く大きくならなきゃね。」
「うん!ぼくいっぱいたべておおきくなるよ!つよくだってなるんだから!」
瞳をキラキラさせた楽ちゃん…可愛いすぎる。そんな楽ちゃんをまだ見ていたいが、皆が見張ってくれてるから早く入ってしまわなければ…残念。
「さぁ、楽ちゃん、お水に入ってさっぱりしようね!」
「うん!」
それから私たちは水浴びをし、皆と合流してから野宿した場所まで戻り、再び移動を始めた。ただ、水浴びをしてさっぱりしたのはいいが、やはり着替えが欲しいと思った。タンクトップとズボンはまだ我慢できる。だけど下着は、数日間同じ下着だなんて不衛生だし、21世紀を生きてきた私たちにとっては気持ちのいいものではない。
…隣国に行ったら私にできる仕事はあるだろうか。早く働いて生活の基盤を整えなければ。楽ちゃんに不自由な暮らしをさせる訳にはいかないから…
「…様。シオリ様。」
「!?」
色々考えていたら、ついボーッとしてしまっていたようだ。
「どうかされましたか?お加減でも?」
「ううん、大丈夫…どうかした?」
「このまま行けば夕刻には森を抜けれるかと。」
「森を抜けた後はすぐに国境を越えれるの?」
「馬で半日ほど進みますと国境警備隊が常駐するガイドラという町がございます。通常はそちらから国境の扉へと続く道を通って隣国へ行くのですが、今回は別の道を行きます。」
「どうして?」
「目撃者は少ない方がいいですからね。」
“目撃者…”
殺されてるはずの異世界人2人、伝説のバクライド(さらに珍しい人間とのハーフ)、滅多にお目にかかれないドラド(他にはない毛色)、そしてこの国の元?騎士団長…しかも国が手放したくないほどの強さ…
“確かに目撃されれば大騒ぎに…”
「そんなの、僕の力で違うものを見せとけばいいのに。」
ベニトが得意そうに言う。
「それも1つの手だが、町には一般人もいるしな。巻き込む訳にはいかないだろう。」
「僕らがよければいいじゃないか。」
「町に何人の人間がいると思っているんだ?お前だって疲れるだろう?」
「それがシオリと契約してから、力が溢れるくらいに満ちてるんだ。だから、全然平気だと思う。」
「とにかくだ、町には行かず別の道を通る。その方が時間と手間を省けるしな。」
「時間と手間って?」
「こちらの世界では、隣国との境に国境を守る砦が設けられておりまして、隣国へ行く際には、砦に設置された扉を通るための通行証というものがいるのです。」
“パスポートみたいなものね。”
「まずはそれを発行するのに時間がかかります。通行証はどの町でもギルドにて発行できるのですが、審査がありまして、これにも時間がかかるのです。シオリ様とラクト様の黒髪を見られると騒ぎになりますし、珍生物も…」
“珍生物って…”
チラッと横目でベニトとモミジを見ながら、小声で言うダンにベニトが突っかかる。
「ちょっと!今何か言ったでしょ!」
「!?」
ダンは1つ咳払いをし、説明を続ける。
「それに、砦の扉を通る際にも、こちら側とあちら側で通行証の偽造や荷を改められたりするので一組ずつしか通れず、通る時にも時間がかかるのです。」
何も知らない私に丁寧に教えてくれるダン。
「別の道を通るって言ってたけど、その道は?」
「森を抜けて、ガイドラの町とは反対に進みます。そうですね、馬で三刻ほどでしょうか…」
「そこは通行証はいらないの?」
「通行証どころか、荷物を改められることもありません。誰もいないのですから。」
「誰もいない?」
「えぇ、私も偶然発見したのですが、あるのですよ。誰にも知られずに隣国へと入れる場所が。」
「そんな便利な道があるなら、なぜ誰も通らないの?」
「気づいていないからではないでしょうか。」
「気づいていない??それってどういうこと?」
「言葉の通りです。気づいてないのですよ、誰も。そもそも国境を通るのに、町を通り過ぎて何もない反対側に行こうとする者がいませんし、いたとしても滅多なことでは気づかないかと。」
「そんなに分かりにくいの?」
「はい、分かりにくいというよりも分かりません。」
「よく見つけたね。」
誰にも気づかれない道…どんなところだろう?ジャングルの奥地の滝の裏とか、洞窟の中が迷路になっていてその中の1本の道だけが正解とか?一体どんな道何だろう…まさか…いや、これ以上考えるのはよそう。
道無き道を、ひたすら馬を走らせ、そろそろ夕暮れが近くなってきた。
「シオリ様、もうすぐですよ!」
木々の向こう側に夕焼けの光が見えた。
バサッ──!!ヒヒ~ン!
「!?───!!」
馬が急に止まったため、ダンが私の腰に腕を回し、しっかりと支えてくれた。私は声にならない叫びをあげ、ダンの腕にしがみつく。
「シ、シオリ様、大丈夫ですよ。」
恐る恐る目を開けると、切り立った崖の上に私たちは立っていた。
「!!」
ダンの腕を持つ手に力が入ってしまう。
「シ、シオリ様!?」
「あっ、ごめんなさい。びっくりして。」
慌てて、ダンの腕を離す。驚くのも無理はないのだ。突然目の前に、切り立った崖と深い谷底が現れたのだから。
「驚かせてしまいましたね、申し訳ありません。先にお話しておくべきでした。この崖沿いを西に行くとガイドラの町に着きますが、我々はここを東に進みます。」
「この崖沿いを通って行くの?」
「はい。…大丈夫ですか?」
「う、うん、大丈夫。急に崖が現れたから、予想してなくてびっくりしただけだよ。しがみついちゃってごめんなさい。痛くなかった?」
「い、いえ、私は大丈夫ですので、気になさらないで下さい。」
「!楽ちゃんは…」
楽ちゃんの方を向くと、楽ちゃんはモミジの上でお休み中だった。怖い思いをさせずによかったと思う反面、快適そうなモミジの上がやっぱり羨ましいし、寝顔が可愛い我が弟であった。
いかがでしたか?ようやく森をぬけることができました。だけど、ぬけでた先には切り立った崖…果たして別の道とはどんな道なのか…
楽ちゃんがモミジの上でダラ~ンと寝てる姿、可愛いです!モミジの上はホントに快適なんですね(笑)
また次話もよろしくお願いします(*^-^*)




