延滞料金
外を見ると小雨だった。時計を見ると約束の時間までもうすぐだ。
ふたつ傘を持って家を出る。右手の傘をさす。
あれから神社には行っていなかった。べつにそういう約束でもないけれど、なんとなく行きたくなかった。
あの角を曲がれば、くすんだ赤の鳥居が見えるはずだ。
雨が強くなってきた。一年前もそうだった。だから神社に行ったんだ。
雨宿りをしようとして。
鳥居に向かって石階段が伸びている。雨に濡れているので滑らないよう一段一段踏みしめて登る。心ははやるが、慎重に、慎重に……
この神社は昔からあったけれど、あのときまでは行ったこともなかった。親も行ったことがないという。
一番上まで登りきった。神社にはだれもいなかった。
あの人もいなかった。
調べてみると、この神社はとある神様を祀っていた。だれも来なくなって久しいが、それでも主はずっとここにいたのだろう。
何度見まわしてみても、あの人の姿は見えなかった。あのときと同じ、賽銭箱の近くにもいない。
返す人がいなくなってしまった。
しばらく待ってみても、姿は現れない。もう諦めて帰ろうか……
そろそろ空も暗くなって来た。ため息をつき、歩き出す。鳥居まで近づいた。
そのとき、背後で木床のきしむ音がした。