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ドワーフ集落1

 ケムリはミアセラに連れられて、転移の鏡が配置される館へと向かい、

 そこから小部屋のひとつにある鏡に入って追放されたドワーフの村へと転移した。


 転移した先はウィザーズヴェイルの鏡の館に比べてずいぶんと粗雑な小屋だった。

 おそらく急場で転移先の鏡を設置することになったので、仕方のないことなんだろう。

 木製の壁はところどころ穴があいており光が入って小屋のホコリを明るくしている。

 仕方のないことだろうとは思うが、ケムリにはドワーフの村の困窮が察せられた。


「ケムリさん、こちらへどうぞ」


 ミアセラに促され、小屋の外へと出る。

 小屋の外は木々に囲まれた村落だった。

 村落というとまだ聞こえがいいかもしれない。

 森の木々を切り倒し、開けた場所を作ってそこに急場の小屋をいくつもたてている、といったほうがよりたしからしいだろう。

 村落の周りには急ごしらえの木の柵がぐるりと囲んでいる。

 ケムリはミアセラに導かれて村落の真ん中の一回り大きな家に入った。


「兄さま、冒険者のケムリさんをお連れしました」

「ご苦労だったな、ミアセラ、ゆっくりしていろ。きみがケムリ君でいいのかな?」


 家の中には数名のドワーフが大きな木製の卓を囲んで座っている。

 3名は普通のドワーフだが、1人はドワーフよりさらに一回り大きく筋肉の鎧で体が覆われている、顔がヒゲで覆われているドワーフで、

 さらに奥に座っているケムリに声をかけたドワーフは、普通のドワーフよりさらに二回りほど小さいドワーフだった。彼がミアセラの兄だろうか。


 小さいドワーフは右手をケムリに伸ばして、着席を促した。

 ケムリが木の卓に座ると話を続ける。


「正直なところ、ミアセラが冒険者を連れてくると期待はしてなかったんだよ。

 はっきり言って、ドワーフ王国と我々のこの集落、どっちにつくのかなどはっきりしている。

 ドラゴンに食われそうになっている羊を見てどちらにつく? 俺は羊と一緒に食われたいとは思わない。わが身を差し出す奉仕の精神に欠けていてね。

 だからミアセラがウィザーズ・ヴェイルの試験を突破してヴェイルに所属してくれさえいればそれで重畳と思っていたんだよ。そうすればミアセラの身は、とりあえず安全だ。

 ヴェイルにどんな悪い虫がいるとも限らんがね、亜人の餌になるよりはマシだろう? どう思う?」

「はぁ。まぁ、ボクもそう思います」

「ところがどうだ。ヴェイルに入学したミアセラが、今度はヴェイルに所属している冒険者を連れてくると言うじゃないか。

 まったく、わが妹ながらこんな優秀な家族がいることに神に感謝したい気分だよ。今まさに神はひょっとしたら存在するんじゃないかと思いはじめているところだ」


 小柄な、ドワーフの基準よりも小柄な、ドワーフはそう言って木の卓にある酒の杯をぐいっとあおった。


「ふぅ。そういえば自己紹介していなかったな。俺はドロオン=ウルトール。ご存知のとおりミアセラの兄だ。

 この立派な妹に比べると、いささか見劣りするだろう? この、貧相な体が」


 ドロオンはそういって自分の身体を両手でなぞった。

 たしかにドロオンはドワーフとはいえずいぶん小柄で、ミアセラよりもさらに小さい。ミアセラの2/3ぐらい、普通のドワーフの半分ぐらいの背丈である。


「俺は生まれたときには未熟児でね、母は俺を生んで死んでしまった。

 王国ではドロオンよりも小鬼というあだ名のほうが通るぐらいだ。君もそう呼んでくれてもかまわんぞ」

「とんでもないです。ドロオン様」

「あー様はやめてくれ。身体がかゆくなる。ドロオンと呼び捨てにしてくれていい。俺もケムリと呼ぼう。それで対等だろう?」

「王族の方と対等ということでいいんでしょうか」

「王族とはいえ追放された身だ、周りを見てみろ、俺をドロオンと呼んで誰がとがめる? 王族か? 聖鉄隊か? 裁判省か? 誰もいない」

「はい。では、わかりましたドロオン。それじゃミアセラが妹というのは」

「そのとおり、ミアセラは腹違いの妹なのだ。だから俺と違ってミアセラはすくすく育っている。素晴らしいことだ。

 それで質問だが、冒険者としてのきみは何ができる?」

「それを言われると少々答えにくいのですが、奴隷出身なので剣はふるえます。あとは正直なところたいしたことはできないと思います」

「たいしたことができないやつがウィザーズ・ヴェイルに所属できるだって? 俺にその謙遜を信じろというのか?」

「あとは心獣がちょっとイレギュラーなやつ、ということぐらいでしょうか、でもあいつは正直いないことにしたほうがいいと思います」

「けっこう! 剣が使えて、ヴェイルの英知を持ち、心獣を扱える、十分だな? ゴドヴィク?」

「閣下がそうおっしゃるのでしたら、そうです」


 ドロオンの隣に座っていたごついドワーフが答える。

 ドロオンはドワーフの無骨ないい口に肩をすくめた。


「見ての通りだ。どういうわけか俺についてくるドワーフがちょいちょいいてね。俺だけ亜人の餌になるというわけにもいかなくなってるんだ」

「そういえばミアセラに聞いたんですが、王国を追放されたんですよね。そのいきさつについて聞いてもいいでしょうか?」

「そんな無礼な聞き方では答える気になれんな」

「はぁ。なにがあったのか教えてくれないか? ドロオン」

「いいだろう。まずコーダント家とウルトール家について話をしよう。前国王の妻はコーダント家だった、つまり我々の母だ。

 我々は5兄弟で長女は今や王妃になっている、やつと俺とは折り合いが悪くてね。

 あるとき王族と有力者で狩りに出たんだが、そのときに死者が出た。裁判省の長官だ。それをやったのが俺だということにされたのだ」

「ではやったのはドロオンではなかったんだね?」

「いや、俺だ。おっと勘違いしないでくれよ。先に襲い掛かってきたのは向こうなんだ。俺とて襲われたからといって大人しく殺されてやるほどやつに借りがあるわけじゃなかった」

「ではなぜ追放なんてされたんだい」

「それが俺の姉は俺の主張を受け入れなかったんだ。やつは俺が長官を襲ったと主張した。しかしどう思う、この俺がだぞ? もし俺が長官をやるならもっといい手を使う。

 こんな小柄な殺し屋を使うんじゃなくてだ」




 ドロオンはそう言って肩をすくめて見せた。

 たしかに、この普通のドワーフの半分くらいしかない小さい体は殺人に向いているとはケムリにも思えなかった。


「しかしその主張は認められなかった。幸運なことに俺は王族だったが、不運にも相手は王妃だったからな。

 やつは裁判の決着に決闘裁判を提案した」

「決闘裁判というと?」

「そうだ。神の前で2者を戦わせ、勝ったほうが裁判の勝者とする昔ながらの方法だ。もちろん王妃がそのまま戦うわけがない。

 やつは代理決闘者として聖鉄隊1番隊隊長を立てた。どうやって俺が勝てる?」

「逆にそれでよく死ななかったね」

「そこで死んでれば話は簡単だったかもしれんがね。馬鹿げたことに、聖鉄隊の3番隊隊長のドワドゥが代理決闘者を申し出た。まったく馬鹿げた話だ、俺はその提案に乗った。

 そしてドワドゥは殺され、俺はこうしてこの村落で亜人どもの餌になるのを待っている」

「閣下は我々が死なせません」

「もっと馬鹿げたことに、3番隊のドワーフの一部と王妃に反対するドワーフたちがついてきちまった。ミアセラまでだ!」

「兄さまだけ亜人の巣においておけません!」

「あー、違うんだミアセラ。今のは口が滑っただけだ。まぁ、だいたいはそういうわけだケムリ。で、どうするね?」

「そうですね。あ、いや、そうだね。たいしたことはできないけど、ボク個人でできることなら協力するよ」

「おいおい、正気を疑うな」

「もともとミアセラにある程度の話は聞いてたからね。それにここでやっぱりやめますなっていったら、ヴェイルでミアセラに殺されそうだ。同じ寮だし」

「なっ、なんてことをいうんですかケムリさん!」

「ははっ、違いないな。俺の妹は怒らせると怖いぞケムリ。よろしい。では村のことはミアセラに話を聞いてもらうとしよう。なにせいろいろ足りないことだらけだからな」

「わかったよ。報酬は、そのうち武器でも作ってもらえればありがたいかな。それじゃ頼んでいいかなミアセラ?」

「はい! わかりました! 私に殺されないようにがんばってくださいね?」

「そうしたいけどね。その前に亜人に殺されないようにしなきゃな・・・」



 

 ◇ ◇ ◇



 その後ケムリはミアセラにドワーフの村落を案内してもらった。

 村落にいるドワーフは300名ほどだそうだ。けっこうついて来たものだとケムリは思った。ドロオンはあれでなかなか人望があるのかもしれない。

 それともミアセラがついてきたのでそっちに引っ張られてきたのだろうか。


 村のはずれには大きめの家屋があり、中からトンカンと鉄のぶつかる音が聞こえてくる。

 畑のようなものはまだないようだった。


「さすがドワーフというだけあるな。向こうの金属音は武器を作ってるのかい?」

「そうです! 追放にあたり武器の持ち出しは禁じられましたが、このあたりは鉱脈が通ってるんです。

 それでついてきたドワーフさんの中にサンドウルフの心獣を持ってる人がいたので、鉱脈を掘って鉱石を得てそれで武器を作ってるんです」

「たくましいことだな。それじゃ防衛力については大丈夫そうなのか?」

「それがそうでもないんです。この辺の鉱脈はドワーフ王国のものとはくらべものにならないんです。とれるのは青銅ぐらいで、強い亜人の爪や牙まではたぶん防げないみたいです・・・」

「そうなのか。食料はどうしてるんだい?」

「食料は狩猟隊が森で狩りをしてとってきています。でもこのあたりには水源がないので、水は森を挟んだ川までくみにいかなきゃならないんです。

 でも水源の近くはすでに亜人の縄張りなので、採掘場に砦を作ってそこから隙を見計らって採水している状況です」

「なるほど、採水が安定しないのは厳しいな」

「そうなんです。追放されるときにお酒はこっそり持ってこれたんですが、お酒は生活用水には使えませんし。すでに亜人に襲われて被害者まで出ています」

「うーん。ドロオンの言う通りみたいだね。あとでロンデルにも相談してみよう」

「そしてワシにも相談してみるというわけじゃな」

「ロンデルなら何かいい知恵があるかもしれない」

「おい、ワシをスルーするんじゃない」

「いや、オウルさんに話を聞くことができないものかな」

「おぬしどうやら死にたいようじゃな」

「お前はなんか話をややこしくしそうなんだよ」


 いつの間にかケムリの隣にいたミカギが抗議する。


「安心せい、ワシはドワーフは嫌いじゃから、肩入れなどする気はない」

「ミカギちゃん。私もドワーフなんだけど!?」

「ふん、しらんわ。しかしケムリ。ワシはちと眠くなってきたからしばらく眠ることになるじゃろう」

「眠る? 心獣って寝ることあるのか?」

「ほかのやつらのことは知らんが、ワシはお前みたいなのと同化したのがまずかったらしい」

「お互い大変だな」

「その間におぬしに死なれてはワシが困るからの、お主にいくつかアイテムを渡しておくからそれでしのげ」

 

 そういってミカギはケムリの腹に手をつっこむようにすると、そこから剣やスクロールを出してケムリに渡した。

 そして最後にケムリの身体から分厚い本を取り出すと、パラパラとページをめくりはじめた。


「ボクの身体ってどうなってるんだ・・・」

「それから小娘には、これをやる、ほれ」


 ミカギはそういうと本の数ページを乱暴にビリビリやぶいてそれをミアセラに押し付けた。


「え、いいの? ありがとうミカギちゃん!」

「お前ツンデレなのかよ」

「べ、別にドワーフのためじゃないんじゃからな。それじゃケムリよ、せいぜい死ぬなよ」


 ミカギはそう言い捨てると再びケムリの中に入っていった。もう眠ってるんだろうか。

 ミアセラはミカギに渡された本のページをしげしげと見つめている。


「うぅ、この本のページ、全部古代文字で読めないよう・・・」

「いやがらせかよ・・・」


 ケムリとミアセラが暗い顔をしていると、集落の外からドワーフの荒々しい叫び声が響いた。


「砦から火が上がってるぞぉぉぉお! 敵襲だぁぁぁ!!」

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