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4話 神子の元へ




 りりがクリアメに手を引かれ連れ出された外は、まだ早朝だというのに、まばらとは言え人の行き交う大通りだ。

 すぐ左を見れば城の側面が目と鼻の先。城壁の先が少々焦げ付いて見えた。


 そのままクリアメに引かれながら、その城壁伝い反時計回りに歩く。事故現場から反対方向だ。


「これどこに向かってるんですか?」

「?」


 目的地の質問をするが、手を繋いでいるのでジェスチャーが出来ず、話は伝わらない。

 もっとも、聞いたところでりりはこちらの何もかもを知らないので意味はない。

 ふとそれに気づき、早々にコミュニケーションを諦めた。




 更に少し歩き城の正面へ。

 城の入り口は大きく立派な木製の門で出来ていて、手前には門番と思しき兵士が2人。

 そこで、ようやくクリアメが目的地を指差す。


「『あそこに行く』───。『付いてきて』」

「あ、はい。あ、でもあそこ何処なんでぇぇぇー!?」


 クリアメが指さした場所は、2階の少し飛び出た離れ。

 あそこは何処だと聞こうとした途中、再び強引に腕を引かれて言葉はキャンセルされた。


 否応無(いやおうな)しに連行しているというよりは、単に雑で大胆なだけ。

 乱暴ではない。純粋なのだ。

 りりは、クリアメはメンタルもフィジカルも強そうだな……と、そんな事を考えながら、諦めて引っ張られて行った。




 城内。

 廊下は、初日に見た部屋と同様、白い石で構成された壁と天井に、ツヤツヤしているタイル状の床で統一され、壁にはいくつもの照明用キャンドルが並んでいた


 ここは外とは違い、この時間でも人が居る。

 まだ早朝だということを加味すればここからもっと増える。


 すれ違う兵士や貴族のような出で立ちの人々は、皆揃ってりりを見た。

 ただし、りりを見ているというよりは珍しいものを見ているといった表情だ。

 単に顔の作りと髪色が珍しいので見ているだけ。りりの方も、同じく物珍しそうに見ているのでおあいこになる。




 人通りがなくなった廊下の突き当り。

 窓から風がよく入る以外は何の変哲もない部屋の前で、クリアメの足が止まった。目的地だ。


「──、『ツキミヤマ』。『ここ』──」


 場所こそ離れではあるが、扉自体に特別感はない。

 ただし、扉の前に細身の全身甲冑の兵士が1人立っているので、何かしら重要な部屋であることは察せられる。

 そして、その甲冑のバイザーが上がっていたことで……。


「うわ! イケメン! やっばい!」


 りりの語彙力が消失した。




 ───────────────




 クリアメは、明らかに興奮して鼻呼吸が荒くなっているりりを見て、いつもの事かと苦笑いする。美形好きの女性なら、この護衛(ガード)の素顔を見るとこうなるからだ。


「やあ。警備ご苦労様。この女の子が神子様の連れてきて欲しいと所望だった子だよ」

「ハッ! ご苦労様ですクリアメ様。では念のためボディーチェックだけさせていただきます!」

「ツキミヤマ、体調べるからじっとしててね」

「? ──!?」


 りりは突然体を触られだしたのに驚き、ガードにビンタを繰り出す……が、ガードはサッと左腕で防いでしまう。

 りりはその行動に驚いて困惑の表情を見せた。

 その行動だけを見ると好戦的に映るが、冷静に見てしまえばただ恥ずかしがっているだけと分かる。


「『なにを』─────!? ──────! ──!」


 りりの抗議の声にクリアメは困惑する。

 ガードの声は問題なく拾えているので翻訳機は上手く動作していると判る……だとしたらりりの声は……。

 そこまで考え、ゴクリと息を呑む。


 ここに住む者全ての言語を、余すことなく翻訳してくれる物を通してなお手に負えない言語……となれば、少なくともりりはここの生まれではないのだと思い至ったのだ。

 そして自身の "特別な目" にも、りりの姿がブレて映る……。

 その2つの事柄……両方が有り得ないことなのだ。


 それらをおくびにも出さないで、笑顔を貼り付けて世間話と洒落込む。


「この子、言葉がほぼ通じないんだよ。翻訳特化の2本角タイプ使っても思わしくない。使ってる言語が違いすぎるんだろうね。身振り手振りでようやくなんとかというくらいだ」

「……何者なのですか?」


 そう言いながらも、ガードは手際よくりりのボディチェックをしていく。

 されている側のりりは、身体のあちこちを触られ、顔を真っ赤にして面白い表情になっていた。


「さあね? 先日の火災と関係あるのは間違いないと思うけどね」

「ふむ……とりあえず危険物は持ってないようですね」

「──、────────。『クリアメさん』─────────────!」


 開放され、羞恥から必死に放たれるりりの訴えは、ジェスチャーがないので名前以外はほぼ言葉としては伝わらない。

 その姿は全く危険を感じさせない子供にしか見えないので、クリアメは鼻で笑って微笑んだ。


「来る前に服を変えさせたが、脱がされるのを今みたいに恥ずかしがったくらいで武器の類は持ってなかったけれど……」

「何か気になる点でも?」


 言われ少し思案する……も、考えていても仕方がない。と、頭を切り替えた。


「……いや、どちらにせよ直ぐに判る話だ」

「ですな。しかし、本当にまるで何を言っているのか解りませんね……と、すみません」


 断りを入れ、ガードが叫ぶ。


「神子様! ハンターギルドマスターのクリアメ様と、1名が後到着いたしました!」


「通してちょうだい」と、中から神子(みこ)の声がし、ガードが扉を開けて2人を中へ促す。


 クリアメが神子(みこ)に会うのは何度目かになる。ガードともその度に会っているので、今ではもうすっかり顔見知りだ。

 相変わらず緩いのか固いのかよくわからないが、面倒くさくなくて良い……と、そう何度目かになるガードへの評価をする。

 そして、伝わらぬ言語で何やら訴えているりりの頭を軽くチョップし、その手を掴んで部屋の中に連れて入った。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 りりはイケメンに体を隅々まで調べられるという、クリアメの早着替えさせに続く、本日2回目の羞恥にすでにへとへとになっていた。

 その状態で手を引かれ入ると、やや散らかっている豪華な部屋が現れる。


 本が無造作に積まれ、あちこちに文字のようなものが彫られた円柱状や板状の金属が転がっていた。

 しかし、部屋自体が広いので足の踏み場がない程ではない。


 部屋のあちこちをキョロキョロと観察していると、ベッド横のデスクからドレス姿の女性が立ち上がり、りり達の方へと振り返った。


 ドレスはパステルイエローで、丈は八分程。動きやすさが重視されている。

 肌は外に出ていないのかどこまでも白く、髪は銀色で胸ほどの高さまで伸びる右寄せの三つ編み。

 右目にはモノクルをしており、全体的に健康なのか不健康なのか判りづらい女性だったが、最もりりの目を引いたのは、側頭部から額を覆うように湾曲した、浮遊している何かだった。




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