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月見山りりはヒトデナシ  作者: ふる里みやこ
ゼーヴィル編
36/208

36話 げっそりする名案

 



 早朝のゼーヴィル。

 夜が残滓(ざんし)として残るこの時間は、もうしばらく魔物が跋扈(ばっこ)している時間である。漁師達が活動しだすのはもう少ししてからだ。

 そんな時間に、りりは少々の尿意と共に目を覚ます。

 身体のことがあるので仕方がないのだが、生活リズムは乱れていた。




 昨晩の動けるようになったというのが嘘ではないというのを確認するために、ベッドから起き上がって確認する。

 左腕は使えないので、ちょっとした動作だけでもいっぱいいっぱいなるが、それがかえって今まさに自身の力で動けているという実感になっていた。


「あは……動ける……立てる……」


 思わず笑みが溢れる。

 立っている足はまだ震えているが、それでも自身の足で、自身の力で立てていた。ただそれだけの事が何より嬉しい。




 喜びを噛み締めてから、トイレに行きたいついでに協力してくれていたアーシユルに感謝をしようと、立膝で眠っているところに近づくと……アーシユルは飛び起きてナイフを構え臨戦態勢に移行し……すぐにその構えを解いた。


「っ!? ……あぁ、りりか……」

「……おはよう」


 アーシユルは警戒を解き、胸のホルダーにナイフをしまう。たった今まで眠っていたというのに、もう完全に目が覚めている。

 一方、りりは驚いて一瞬漏らしそうになっていた。

 平静を装い会話を続ける。


「目覚め良いね」

「あぁ、クリアメに鍛えられたからな。これに何度も命を助けられたからな。今では感謝してる」


 訓練時はきつかったが……と重ね、アーシユルは遠い目をした。


 アーシユルのしているのは、咄嗟の時に動けるように敢えて睡眠を浅くしておくというある種の生存戦略。わざわざ座って寝ているのもこのためだ。これは上位のハンターであるなら皆身につけている程という必須級のものになる。


 しかし、アーシユルはこの年齢で自然とこれが出来ているのだ。クリアメのシゴキのハードさと、これが必要であるという点だけでもこの世界が如何に厳しいのかが伺い知れる。


 りりがそんな事に思いを()せていると、アーシユルは光ジンギを起動してから扉を開く。


「こんな時間に起こしたって事はトイレだろ? 行くぞ」

「……よくわかったね」


 変に察しの良いアーシユルに対し良かれ悪かれだと思いつつも、肩を貸してもらえないと(ろく)に移動も出来ないのも事実なので大人しく従う。




 しかし、牛歩のような歩みでトイレに着いてから問題が発生した。


「ところで、トイレどうするんだ? 今のりりが入ったところで汚すだけだろ」

「……あ」


 この世界のトイレは洋式ではない事を思い出す。

 つまり、現在踏ん張る事が出来ないりりにはトイレの利用が不可能というのに同意だ。

 それどころか、漏らす以前に転んで糞尿まみれになるのが目に見えていた。


「どうしよう……」


 考えるも、そろそろ膀胱の主張が激しくなってきているので案を絞り出せない。


「海でしろよ。川は遠いし」

「いやそれは……こっちじゃアリなのかもしれないけど、私はちょっと……」


 無茶苦茶を言うアーシユル。

 だがトイレを使えない以上、それに準ずる物も無いここではアーシユルの案が適しているように思えた。

 しかし、りりの持つ倫理感はそれを許さない。


「人魚は皆やってるんだがな……じゃあ、あたしが支えながらとかな……」

「しない!」


 案としては良いものに思えるが、今度は羞恥心が邪魔をする。


「じゃあ草原でするとか? たまにヤってる命知らずも居るが」

「いやそういう情報は……っていうかもっとこう……」

「じゃあもう桶の横でして、念力で入れるとか……あれ? 良い案じゃないか?」

「えっ」


 アーシユルはナイスアイデアと言わんばかりに最高の笑顔で言い放つ。

 りりは顔を引きつらせるが、こうなってはアーシユルは止められない。

 況して便意が近いのだ。考える時間は無い。


「りりの念力は、魔法のエナジーコントロールというのがわかったんだ。つまり、最低限受け皿として使えるんだ。練習にもなるから良いだろう」


 駄目だっても洗えば終いだ。と、そう続けるアーシユルの目は輝いていた。


 諦めるしかないというのは理解したが、気は乗らない。

 だが、他に方法も思いつかないので、大人しく肩を貸してもらいトイレに入る。

 羞恥心で暴れたい気分だったが、そんなことをしても漏らすだけだ。


 アーシユルを追い出してから壁にもたれ、生まれてこの方最悪の気分のまま、半分立った状態で、念力を併用してのトイレを済ませた。

 これが、こちらに来てから嫌だった出来事のナンバーワンに躍り出る。


 ついでに嗅覚が戻っているのにも気づいたが、それを自覚した原因が汚物臭だったので、全く喜ばしい気持ちににはなれなかった。




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