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15話 アウトドアご飯

 



「おいりり。起きろー!」

「うえええ!?」


 りりはアーシユルに首輪を掴んで揺さぶられ、鞭打ちになっていた首の痛みも込みで叩き起こされる。

 続き、いきなり手を離され、頭が長椅子に落ちた衝撃で完全に覚醒した。

 雑すぎる起こし方に文句を垂れる。


「ぃったぁ……言ってくれれば直ぐ起きますよ……っていうか首痛めてるのに……」

「んなことより出来たぞ。飯だ飯。丸焼きでも良かったんだが、おっさんがどうしてもってな」


 首を気遣いつつ起き上がると、テーブルの上には中華鍋のような鍋が2つ並んでいた。

 片方にはスライスされた香草混じりの肉が、もう片方には水が並々と。

 いちいち水ジンギを起動するのは手間なので、予め溜めておいてコップで(すく)い飲むスタイルだ。


 御者(ぎょしゃ)の方を見ると、視線に気づいて人差し指と薬指だけ立てるという、りりがやるには指がつりそうなハンドサインを返してくる。

 サムズアップのハンドサインに当たるものだ。


 真似をしようとするがスムーズに出来ず、御者の器用さに小さく笑みをこぼす。

 そして、肉は御者が気を利かせてスライスにしたのだということを敏感に感じ取り、ハンドサインの代わりに軽くお辞儀をした。

 丸焼きであったならば嫌悪感で食べられないまであったのだ。その感謝は大きい。




 アーシユルと一緒にリュックから食器を取り出して並べてゆく。

 そのどれもが軽く、少々分厚い金属製。破損対策だ。


 りりがアウトドア感溢れるリュックの中身に感心していると、御者はトナカイ馬車の方へ向かい、剣を携えて帰ってくる。

 それを不思議そうに見ていると、御者は視線に気づいたのか口を開いた。


「ジンギは強いけど発動までに時間がかかるのさ。こういう咄嗟に対処しなきゃいけない所では、ジンギよりも即物的な武器のほうが良いんだよ」

「あー、なるほど。食事の時が一番油断するって言いますもんね」


 それとトイレ時。

 りりのその知識はテレビで聞きかじったものだが、アーシユルはそんな妙な知識を持つことに対して首を(かし)げた。


「りりは常識ないのに、そんなえげつのない知識はあるんだな……」

「え!? 今のって、こいつ判ってるな! って関心するところじゃないんですか!?」


 りりは少々大げさなリアクションでもって、数少ないドヤりポイントを逃した! と、少々悔しそうに振る舞う。

 とは言え、ただの雑談のソレなので本気ではない。ただ仲良くしようという意味合いだ。


「関心って言ったってなぁ……ハンターじゃそんなの常識だからな。そんなことより食おうぜ。あたし、腹が減ったんだ」


 流されたものの、アーシユルの言うように空腹なのは確かだった。

 眼の前の肉が兎の形をしていたというのを頭の(すみ)に追いやり、手を合わせてから食事を始める。




 御者は、言われもしないのに各皿に肉と香草を盛り付けてゆく。

 アーシユルは御者を雑に扱っているが、りりの目から見た御者はハイスペックに映る。

 見た目こそ中年のおじさんだが、丁寧()つ女子力すら感じさせてくる人物……というのがりりの評価だ。

 妙にテンションを上げて喋る時に、アメリカンな感じになる所だけは気になっているものの、それを差し引いてもお釣りがくる人物。


 そんな事を考えながら貰った肉を食べてゆく。

 牛や豚と違いヘルシーではあるものの、肉はそのまま野性味溢れる肉の味だ。香草程度では臭みが消えきっていない。

 おまけに、タレも塩も無いので味気もなかった。


「これせめて塩とか無いんですか? 味が野性的すぎて……調味料とかでも良いですし……」


 この発言に御者は()き込む。


「おっさん大丈夫かよ……あのな、りり。こっちの方じゃ塩は高いんだ。海が遠いし……判るな? あと、調味料は無い。直ぐにダメになるからな……っていうか、調味料なら香草がそうだ。贅沢言わずに食え。ここは飯屋じゃない」


 万能調味料である塩どころか、あらゆる調味料が無しという状況……濃い味付けに馴れたりりの舌は満足しない。

 だが、食べないことには飢えはしのげない。我慢して肉を口にしていった。




 ものの数分。りりの食べるペースが落ちる。

 味もそうだが、肉が柔らかくないので顎が疲れるのだ。

 それでもまだお腹いっぱいまではもう少し遠いので、おかわりをしようとフォークで鍋を突いた。お玉に準ずるものが無いからだ。


 フォークを引き上げると、紐のようなものが付いた球体が出てくる……それはどう見ても目玉だった。

 薄い肉の下にあったのか、見事に肉を貫通してフォークに刺さっている。

 りりは血の気を一気に引かせた。


「お、目玉そんなところにあったのか。それ旨いんだぜ。りりは初めてっぽいからやるよ」


 アーシユルは楽しそうに言うが、りりはそれどころではない。目玉から目を離せないまま呼吸をどんどんと荒く、浅くしてゆく。過呼吸だ


 頭部を陥没させられ死んだ命。その形。

 意識しまいと思っていたものが、目玉という実感の籠もったもので呼び起こされる。

 突いた時の生々しい感触もそれを後押しし……りりはそのまま椅子から転げ落ちた。

 落ちた際に頭を打って意識を飛ばし、りりはこの記憶にそっと都合よく蓋をする。

 意気地無しでごめんなさい……と、心の片隅で謝りながら……。




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