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106話 エナジーコントロール

 



 ケイトの矢が、向かって右のゴブリンの頭を貫く。

 ゴブリンは悲鳴も上げることができずに息絶えた。


 りりはアーシユルを従え、黒い2つの球を浮遊させて突っ込んだ。

 ゴブリンは訓練されていたのか、すぐさま笛を鳴らし戦闘態勢に入る。

 この時点で暗殺は失敗だ。しかし、そのための黒球だ。


 お互いの射程圏内に入る。

 直ぐにゴブリンとの間に、念力で物理バリアを張り、そっと黒い球をゴブリンの方に浮遊させてゆく。

 どうせ他のゴブリンが来るまでほんの少し時間はあるのだ。


 それは1メートル程の漆黒の球。

 光を反射させないせいで、球なのに平面な黒い円にしか見えないという、目を疑いたくなるような見た目をしてる。


 ゴブリンは徐々に近づくそれを、鉄の棍棒で殴った。

 しかし、黒い球に触れたはずの棍棒は、空振りするかのように通り過ぎる。

 通り過ぎた後の黒球にはなんの変化もないように見えた。


 これにはゴブリンも、後から付いてきたアーシユルも困惑の表情だ。

 りりだけが胸を撫で下ろす。


 成功だ。エナジーコントロールは問題なく機能している。


「あ、そうか! そう見えて炎の塊だから触れられないのか!」

「うん。で、多分こうしたら……」


 素早く黒球をゴブリンに押し付けた。

 触れるや否や、ゴブリンは飛び退き身悶える。

 その皮膚は僅かに爛れるが、肝心の炎はどこにも無い。


「りり……まさかそれ……」


 黒球を倒れたゴブリンの右足を覆うように触れさせる。

 ゴブリンは悶え苦しむが、ジタバタした先に黒球が付いて行く。

 これは操作しているのワケではない。


 念力で創り出したものは空間に固定できる。

 空間に固定できる以上、物にだって固定できる。

 そう。この黒球をゴブリンの足に固定されているのだ。


 固定された以上、ゴブリンの右足から黒球が離れることは絶対にない。




 僅か数秒。

 ゴブリンは動かなくなる。

 それを確認してから、黒球をそばに戻す。

 どれほどの熱量だったのだろうか? ゴブリンの足は炭化していた。


「……ショック死……だな」


 生きながらにして足が炭化する程の熱で焼かれたのだ。死にもする。


「これが……エナジーコントロールの本当の力……か……」

「うん。熱エネルギーだけを外へ出さないっていうフィルターそのもの。中は何度くらいになってるか判らないけど、これくらいの熱量はあるの……」


 これは自虐だ。

 さっきまで泣くだの墓だの言っていたのに、ショック死させたり、串刺しだなどと残忍な方法で殺している。

 アーシユルだって、そんなりりに違和感を感じていた。


 残忍な殺し方をする奴に殺されたのだ。存分に恨んで死んで欲しい。

 それがりりの願いだった。


「おい、りり!」

「洞窟奥から……いっぱい……」

「チッ! 後で話してもらうぜ!」


 洞窟の奥から、先程の笛の音を聞いてか、ゴブリン達がわんさかと押し寄せてきた。

 アーシユルは鉄塊を構えるが、りりは手を出してそれを制する。


「アーシユルは後ろをお願い」

「は? でも」

「大丈夫」


 洞窟奥から出てくる大量のゴブリン。30は居る。

 マルチグラスのおかげで暗がりはなんとかなっているが、視界が[亜人:ゴブリン]で埋まり、非常に見辛い。

 実戦向きではないと聞いたが、なるほどその通りだった。


「ヒトだ!」

「おんなだ! つかまえろ!」

「あたらしいおんなだ!」


 ゴブリン達はその子供のような見た目でイヤらしい表情を浮かべる。

 あまり見たいものではなかった。


 前方に、ショック死したゴブリンの死体を念力で放り投げると、ゴブリン達が足を止め狼狽えだす。

 外傷は少しの火傷に加えて、片足の炭化。そして顔はこの世のものとは思えない形相で死んでいる。

 それはもう存分に警戒してもらえた。


 アーシユルは何が起きているのか判らない。

 りりに言われた通りに、大人しく背後を守っているのだ。

 ここで、気になるからと言って、りりの方を見るのは、りりからの信用の裏切りに当たる。

 アーシユルはこういうところはしっかりしていた。




 大きく息を吸って、勧告をする。


「ゴブリンさん達に告げます! 私達はあなた達に攫われた人を連れ戻しに来た者です! 言葉は通じるようになっていると聞きます! 大人しく通していただけるのならば危害は加える気はありません!」


 ゴブリン達が騒めく。


「りり。それは無謀だ……」


 アーシユルの言うことは解る。


「因みに! この警告に従わない場合はこうなります!」


 念力で、先程のゴブリンの死体を持ち上げ、上半身を黒球で飲み込む。

 数秒して、上半身だけが炭になったゴブリンが出来上がった。


 ゴブリン達から悲鳴が上がる。

 阿鼻叫喚の様相だ。


「もう一度言います! こうなりたくなければ道を開けて下さい!」


 しばらく待つ。

 突撃してくる様子もなければ、道を開ける気配もない。

 ゴブリンは皆、どうしていいのか解らなくなっているようだった。


 しかし、時間はかけていられない。

 仕方がないので歩みを進める。

 すると、奥から矢が飛んでくる。恐らく毒矢だ。


 しかし、矢は事前に張ってあったバリアに阻まれる。

 それを念力で拾い上げ反転させ、適当にゴブリン達の方向に投げ返した。

 威力など、手で投げた場合より少し早い程度しかない。

 しかし、ゴブリン達は、その矢には毒が付いていると知っている。

 全力で避けるも、1人掠ってしまう。


「やが! どくが! しぬ! いやだ!」


 ゴブリン達にとって、毒矢は最大の攻撃力を持った武器だ。

 それがいとも容易く跳ね返ってくるのだ。堪ったものではないだろう。


 矢が掠ったゴブリンも直ぐではないが、しばらくしたら急速に毒が回って死ぬ。

 ケイトの毒はそういうタイプだ。


 心が痛む。

 しかし後には引けない。

 りりが油断やヘマをしたら、アーシユルに毒矢が当たるかもしれないのだ。




 ゴブリン達は混乱してはいるが、未だ退く様子がない。

 りりはさらに接近し、密集するゴブリン達の中に黒球で飛び込ませる。


 1人を炭にし、更にもう1つの黒球突き出す。


「退かないなら……全員殺します……」


 ここまでして、やっとゴブリン達は壁に寄り道を開けた。


 ゴブリンの1人を念力で掴み、持ち上げる。


「道案内お願いします。所謂孕み袋と呼ばれる方々の所へ」


 空中でもがいていたゴブリンは慌てて指を指す。

 恐らく、その方向に居るのだ。


「ありがとうございます。他の人も騒がないでください! 殺されたくなければ!」


 掴まれたゴブリンは半狂乱だったが、礼を言われて少し不思議そうな顔をして落ち着いた。

 だが、実際は混乱している。

 今は殺すか殺されるかの状況なのだ。


 バリアを展開したまま歩く。

 ゴブリン達は騒ぐのを止めて、いっそ不気味なほど静まり返っていた。


 マルチグラスで、あちこちへピントを合わせ、弓矢を見つけては取り上げて炭にする。

 武器を消し炭にする度に、ゴブリンからの畏怖の目が強くなった。


 気分は最悪だ。

 それでも黒球には細心の注意を払う。

 アーシユルとて、1人では今回の件を生きて帰れなかっただろう。

 今生きているのは、単にりりという一騎当千の魔人が居るからこそなのだ。

 ならば最後まで守り通すと誓う。




 ゴブリンの指し示す先へ進む。

 2回ほど分岐があったが、左へと、そして右へと進んだ。


 洞窟は天然の洞窟を加工してあるようで、足場の凹みには木で足場が作ってあったり、天井の尖った岩などは削り取られていたりしており、それほど歩きにくくはない。

 ただし、サイズがゴブリン用なので、低いところは中腰で移動せねばならなかった。


「ゴブリン供、付いてきてるぜ……弓は無いようだ。奪っておいて正解だったな」

「……最悪だね」

「ああ。それに多分騙されてると思う」

「何が?」


 アーシユルの言うことをパッと理解できない。


「行き先だ。女の声もしなければ性臭も漂ってこない。騙す知恵があるってことは、ハーフゴブリンが教えたんだろうな」

「なにそれ……つまりもっと殺さなくちゃいけなくなるって事じゃん……」


 どんどん暗い気持ちになってゆく。

 ゴブリンといえど人だ。

 死から目を反らさないりりだが、その死を与えるのもまたりりなのだ。

 楽しいわけがない。


 狂えば楽だっただろうか? そんな逃げたい気持ちで一杯だが、アーシユルの死という可能性がある以上、そんなことも出来ない。

 やるしかない! と、もう何度目かになる檄を入れる。




 案内された先は広い空間が広がっていた。

 少し豪華な2階まで吹き抜けのホテルのロビーくらいの広さがあり、端には湧き水が湧いている。

 そしてそこには様々な色のゴブリンがおり、その周囲には武器が転がっていた。

 全員眠っている。


 ゴブリンの色は深緑、灰、黄、茶、そして1人だけ薄い肌色。

 色で計算すると、恐らくハーフである肌色は除外して、少なくとも孕み袋は4人居る計算だ。


「あれハーフだよね……」

「そうだな。そしてやっぱり騙されてたな」

「てき! てき! おんなだ! つよい!」


 掴まれているゴブリンが叫ぶ。

 その叫び声を聞き、前方全てのゴブリン達が一斉に目覚め、りり達に気づく。


「最悪だな。こっちは、あたしと、りりだけだってのに」


 ケイトは入り口だ。

 外を徘徊しているゴブリンが帰ってきた時に挟み撃ちにならないように置いてきた。

 だが、こうなると連れてきたほうが良かった気もする。


「いや、焼け石に水かな……」


 思考の続きの独り言を漏らす。


「おまえたち! やれ!」


 肌色のゴブリンが声を上げる。やはり、あれがハーフだ。

 色のせいもあり、その姿は完全にただの子供にしか見えない。

 しかし、マルチグラスにはハッキリと[亜人:ハーフゴブリン(ヒト)]の文字。


 浮かせていたゴブリンの下半身だけを焼く。騙した罰だ。

 ゴブリンは、今生で最後の絶叫を上げてショック死した。

 黒球を除けると炭になって崩れ落ちるゴブリンの下半身。

 博打だったが、このパフォーマンスでゴブリンたちの動きが止まる。


 息を吸い叫ぼうとする。


「孕み袋のばし……」


 叫ぼうとした時、突如、頭上から大量の水が現れ、水浸しになってしまう。


「ぶわ……っ!? なんだと!? ジンギだと!?」


 アーシユルが叫ぶ。

 頭上を見るとなにも無い。

 これは間違いなく水ジンギによる攻撃だ。


 咄嗟にジャンプして足場を作り出す。

 しかし咄嗟なのだ。


「アーシユルごめん!」


 バチッ


「がっ!?」


 アーシユルが感電する。


 水の後には電気が来る。

 ハンターにとって当たり前すぎるコンボだが、その実、強力無比で、水さえ被せれば必中と言っても過言ではない程のものだ。


 雷撃を浴びれば、少しの間行動不能になる。

 りりはそれを過去に体感している上、その応用も含め何度も見ている。

 念力も使えることもあって回避はできたが、アーシユルまで回避させる余裕はなかった。


 続けて残り2連の雷撃が発生する。

 もう何度も見た空間の歪みだ。

 ジンギの射程はいくつかある。が、その最長のものは解っているので、発生源を逆探知できる。


 発生源はハーフゴブリンだ。


 アーシユルを念力で持ち上げ、共に天井に浮遊する。

 浮遊したりり達を見て、ゴブリン達は少し戸惑う。


「うろたえるな! いころせ!」


 ハーフの言葉に、直ぐに持ち直したゴブリン達は、りり達に向けて数本の矢を射る。

 りりは、咄嗟にバリアを斜めに構えて全て逸らす。

 正面で受けるのは危険。これはシャチ戦で覚えた事だ。


 空中で、感電して動けなくなったアーシユルと合流し、下方にドーム状のバリアを張る。

 熱バリアと物理バリアの二層だ。


「……にげろ!」

「っ!? 鋭い!?」


 これは完全にハーフゴブリンの勘だ。

 しかし判断が早い。


 2つの黒球を融合させてゆく。

 その間に、ハーフゴブリンは洞窟の奥へ消えた。

 動きを見るに、脱出口が有るのだ。

 しかし、もう知ったことではない。

 ゴブリン達は、アーシユルに毒矢を射ったのだ。


「絶対に許さない……!」


 ゴブリン達はハーフの命令通り逃げようとするが、ここは洞窟。

 一斉に動くと詰まるだけだ。


 ゴブリン達が混乱する中、りりの下で浮遊していた黒球が白熱しだす。

 熱の遮断を切り、物理バリアに切り替えたのだ。

 空気が揺らぐ。

 それだけで凄まじい熱量だという事はうかがい知れる。


 白くなった黒球の膜が、今剥がされる。


「さよなら……」


 黒球のという小さな空間では、いくら酸素を入れていようと、慢性的に酸素が不足しているのだ。

 酸素が少ない状態の炎が外気に触れるとどうなるか?

 そう。バックドラフトだ。


 りりのどす黒い敵意が込められた、凄まじい熱量を秘めた白い炎が、波打つように肥大化てゆく。

 あっという間に、このホールと手前の分岐までを、赤が蹂躙し、その尽くを黒く塗りつぶしていった。




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