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ミネラルウォーター

その夜、橘は私にベッドを貸してくれ、橘は床に布団を敷いて横になっていた。

「橘、今日はありがとうね」

「なんもなんも。こっちこそ来てもらってありがと」

「そういやさ、こないだ妹さんとケンカしたって言ってたけど、仲直りできてたんだね」

「あー……」

電気も消して横になっているので顔は見えないが、橘は苦笑いしているようだ。

「あれだよ。さっきちらっと話出たけどさ、友達に彼氏が出来たっていうやつ」

「それがどしたん?」

「うん、友達が自分にそれを黙ってたのがちょっとショックだったみたい」

むずかしいよね、と橘は付け加える。

「橘はえらいね」

「え、何?」

「ちゃんとお姉ちゃんやってて」

私には兄弟がいない。

親の愛を一身に受けてきた。

だがら、兄弟を持つ苦労はわからない。

「清香がちゃんと妹やってくれてるからね。私なんて全然よ」

橘の声はだいぶ眠そうな声になってきていた。

「そっか、おやすみ」

「うん、おやすみ」

ほどなくして、橘の寝息が聞こえてきた。

私も寝よう。


「う、ん……」

目が覚めた。

窓の外はうっすら明るくなっている。

今何時だろ。

枕元に置いていたスマホで確認する。

6時か。

「喉渇いた……」

昨日飲み過ぎたのか頭も少しボーッとする。

橘はまだ寝ている。

起こさないようにそっと部屋を出ると、コーヒーの香りがした。


「あれ、清香ちゃんもう起きてたの?」

リビングに向かうと清香ちゃんがコーヒーを飲んでいた。

テーブルの上にはノートが広げられている。

「あ、上村さん。おはようございます」

「おはよう。朝早いんだね」

「アハハ、毎朝お姉ちゃん起こしてますからね」

橘と違って清香ちゃんは朝に強いようだ。

「清香ちゃん、ごめん、お水もらっていい?」

「あ、いいですよ。ちょっと待っててくださいね」

そう言うと清香ちゃんはよく冷えたミネラルウォーターのペットボトルを持ってきてくれた。

「これ、そのまま飲んじゃってください」

「ありがとう。助かる」

「ふふ、二日酔いのときのお姉ちゃんと同じ目してますよ」


ベランダに出てミネラルウォーターを一口飲んだ。

朝の清々しい風と水分補給で頭がだんだんスッキリしてくる。

さらに、タバコを取り出し火をつける。

「すはー」

なんでお酒飲んだ翌朝のタバコってこんなにおいしいんだろう。


部屋に戻る。

「清香ちゃん、朝から勉強?」

「ああ、ただの宿題ですよ」

「ふーん」

何の気なしにノートを覗きこむ。

数学だった。

「上村さん、数学得意ですか?」

「ごめん、全然ダメ」

昔私もやってたはずなのに、清香ちゃんが今何してるのかさっぱりわからない。


「よーし。終わりっと」

清香ちゃんがノートを閉じる。

「そろそろお姉ちゃん起こさないと」

そう言いながら清香ちゃんは橘の部屋へ向かっていった。

時計はもうすぐ8時になろうとしていた。

……休みの日なら私もまだ寝てる時間だな。


「おあよう、ちあきちゃ……」

しばらくすると橘が起き出してきた。

が、目が開いてない。

「清香、お水……」

そう言って椅子に座るとそのままテーブルに突っ伏してしまった。

「お姉ちゃん、お水。……って、また寝るの!?」

「……んうー頭いたいー」

二日酔いか。私よりひどそうだ。

ゆさゆさと橘の肩をゆする清香ちゃん。

「清香、やめ、ゆらすの、やめ……」

「じゃあ起きてよお姉ちゃん」

「やめ、ほんと、だめ、出る……」

出るのはマズイだろうと思ったのか清香ちゃんが手を止める。

「もう、上村さんもいるのに……」

困った様子の清香ちゃん。

「アハハ、いいよいいよ。私そろそろ帰ろうかなって思ってたとこだし」

「だったら尚更ですよー。起きて、お姉ちゃん」

「んー…んー…」

重症だなぁ。


帰り支度を整えた辺りでやっと橘が本格的に起きたようだ。

「ごめんねぇ、千秋ちゃん。お見苦しいところを……」

起きたはいいが、まだフラフラのようだ。

「いやいや、ホントありがとうね。楽しかったよ。ゆっくり休んで」

「あぅー、ありがとう。……じゃあ清香、あとよろしくね」

「え?」

よろしくって何を?

「あ、上村さん。私、駅までお見送りしますよ。ちょっと道ややこしいし、お姉ちゃんこんなだし」

あ、そういうこと。

確かに駅までの道のりはよく覚えてないので助かるけど。

「いや、大丈夫よ」


……と、遠慮したけど押し切られるように清香ちゃんが駅まで送ってくれることになった。

「清香ちゃん、ありがとね」

「いえいえ、こちらこそありがとうございました。色々お話できて嬉しかったです」

「私も楽しかったよ」

もうすぐ駅に着くという頃。

「あの、上村さん」

「ん?」

「あの、あの、良かったら連絡先交換してくれませんか?」

「え?」

突然の申し出に一瞬固まってしまった。

「あ、やっぱダメですかね……?」

不安そうに見つめてくる。

「ううん! 全然、むしろ喜んで!」

「やった」

不安そうな顔が一転して笑顔に変わる。

「あ、あと、もうひとつお願いがあるんですけど……」

「うん、何?」

「千秋さん、て呼んでもいいですか?」

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