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星使い アルタイル  作者: とりうみ しんや
第一章 アルタイルの旅
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第08話 「継承石」

 

 時は8年前に遡る。

 アルタイルがまだその名を受け継ぐ前の話。

 鷲座の里の二人の親子の話である。


 鷲座の里の昼過ぎの事。

 

「リリア。手は空いているか?」

 と、扉越しに娘の名を呼んだのは、この里の族長。

 リリアとはつまり、のちのアルタイルの事。

「はい。何か?」

 部屋で読書をしていたリリアが返事をし、自室を出る。

「少し話がある。ついて来い」


 親子が向かったのは、里のほこら。

 山を削り作った洞窟の中で、奥には巨大な石碑がある。

 そこまで来た二人は横に並んでその石碑を眺めた。

 中には二人以外は居なかった。

 いくつもの蝋燭の火がはっきりと石碑を照らしている。 

 父が話しかけ、会話する。

「大きな石碑だろ」

「はい。5メートルぐらいですね」

「ここへは、何度か来ているな?」

「はい。掃除しに何度か、3回ぐらい」


 石碑には上から順に、文字と、鷲座の星座図、そして一族の紋章が刻まれている。

 リリアはそれをまじまじと眺める。

 リリアの父が尋ねる。

「リリア。お前は今年で6つだったな」

「はい。6歳です」

「この継承石の意味は分かっているな」 

「……はい。でも、あまり詳しくは知らないかもしれません」

 

 父は少し頷き、説明をする。

「継承石には星使いの力と、歴代の記憶が封印されている。現在、力はお前の叔父が持っているが、それもあと少しの間だ」

「……そうですね。記憶もなのですね」

「そうだ。星使いが力を返還するとき、それまで星使いとして歩んだ記憶も共にこの継承石には封印される。封印されると言っても、その者の記憶が失われる訳でも無いし、後継者に記憶が引き継がれる訳でも無い。ただの継承石への記録、複写に過ぎない。そこは気にしなくていい」

「そうなんですね」

 リリアは少し安堵した様子を見せる。


「お前の叔父は、つまりは私の弟だが。あれは優れた星使いだ。あいつが継承したのは16歳の春だったが、お前は来年にも継承する事となる」

「……」

 リリアは少しうつむく。

 父もそれに気づき、言おうとしていた言葉を変える。

「不安か?」

「……いえ、でも少し」

「三賢者の務めで、外に旅に出る事か?それとも力の事か?」

「はい。両方、いや全て、不安です」

「うん、正直だな」

「すみません。でも、私に叔父様のような立派な星使いになれるかどうか。年も違いますし」


 リリアが父に目を合わせるように横を向く。

 父は目線を継承石に向けたまま、続けて話した。

「私が言いたいのは、お前には叔父をも超える才能があるという事だ」

「……私にですか?」

「そうだ。星使いの継承は基本一族に一人と決まっている。その一人がどうやって選ばれるかは、知っているな?」

「持って生まれた魔力の量」

「その通り。お前は今現在、鷲座の里の中でも一番の魔力の持ち主だ」

「知っています」

「既に、お前の叔父をも凌駕している」

「そうらしいですね。天秤座の方に聞きました。」

「それだけではない」

「……えっ?」


 父が顔をリリアに少し向ける。

 そして、告げる。

「お前は、『黒いアルタイル』になれるかもしれない」


 黒いアルタイル。

 聞きなれないその言葉にリリアは一瞬考え、そして聞く。

「なんでしょうか、黒いアルタイルとは」

「黒いアルタイルは我ら鷲座の一族に伝わる伝説の星使いだ」

「伝説の、星使いですか?」

「その力に目覚めた者は、『この世の全てを蹂躙できる』と伝えられている」

「じゅうりん……ですか」

「そうだ。お前の魔力の色は確か髪と同じ桃色だったな」

「はい。天秤座の方が」

「そう言っていたな。髪の色と魔力の色は結びつきが強いからな。例外も多いが」

「そのようですね」

「黒いアルタイルになった者は、魔力も髪の色も、身にまとう衣服までもが漆黒に変化し、背中からは同じく黒い翼が生えると言われている!」

「えぇ、翼が?えぇ?」

「嘘ではない。おそらく服や翼は聖哲体のたぐいかもしれないが」

「……けど、なぜ私が、その黒いアルタイルになれるんですが」


 父は微笑み、熱く語る。

「お前の中に黒い色の魔力が僅かに見つかったと聞いた。それにその若さの割には、膨大な量の魔力を持っている。伝説を体現するには十二分に素質がある」

「黒い魔力が?それは、はじめて聞きました」

「黒色の魔力は他の一族では決して珍しいものでもないが、鷲座の一族でそれを持つものは非常に珍しいらしい、リリアの持つ量からして普段は黒色が表に出てくる事は無いであろうとも言っていたな」

「そうですか。ではその、どうやったら黒いアルタイルになれるのでしょう?」


 父は、少し沈黙し、言う。

「過酷な修行と、悲痛な経験と、絶望的な状況を味わい、限界まで追い詰められた先に到達できると言われている」

「……なんですかそれは」

「分からん」

「つまり、とてつもない苦労をしろということですか?」

「そういう解釈で間違ってはいないはずだ」

「はい。少し分かりました」

「お前ならなれる。絶対にな」


 リリアは自分には無理だと悟っていた。  

 しかし父の期待にも応えたいとも少し思った。

 話を終え、ほこらをあとにした。

 

 帰り道、雑木林を抜け、里の中にある湖に立ち寄った。

 湖のほとりは、散歩や釣りを楽しむ者で賑わっていた。

 ここは、鷲座の里の中でも憩いの場となっている。

 親子二人も散歩をしながら話をした。

「ところで、聖哲体は何にするか決めたのか?」

「弓に決めています」

「他には?」

「今のところはそれだけです」

「実際の弓の練習は?上達したか?」

「そ、それも、今のところは」

「そうか。そこは私に似たのかもな」

 リリアは少し照れながら湖を眺めた。  

 父は微笑み、言う。

「リリアが星使いになって、アルタイルの名を継いだら、私も今みたいに馴れ馴れしくは喋れなくなるな」

「そうなのですか?」

「それはそうさ。一族の族長と、星使いとでは、身分が違うからな」

「そのままでもいいですよ」

「そういう訳にもいかないんだよ」

「……そうなのですね」


 湖に浮かぶ水鳥が飛び立つ。

 二人は歩く足を止め、しばしその鳥たちが飛ぶのを見た。

 父が再び話す。

「私は、弟にも、自分の娘にさえも星使いの才能では劣る。そんな自分が情けないとも、悔しいとも思ったことは何度もある」

「……お父様」

「しかし、今は違う。誇りに思う。自分の家族はこんなにも凄いと胸を張れる。今は、とても」

「……」

「だからという訳ではないが、リリア」

「はい」

「星使いの務め、三賢者の務め、果たせよ」

 親子の目が合う。

 リリアは凛として答える。


「誓います」 


 リリアはこの翌年の春、名を受け継ぎ、アルタイルとなる。 

 

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