第07話 『合体線術』
ベガが剣の聖哲体を具現する。
鍔の部分が琴の形をしていて、弦もある。
刀身は両刃で、長さは1メートル強。
アルタイルは杖を、ベガは剣をそれぞれ自身の前に掲げる。
それを空中で交差させ、金属音を響かせる。
「二つの星を、一つの力に」
二人の声が重なる。
そして、それぞれの背面に星座図が浮かび上がる。
二つの星が強く輝く。
鷲座の星座図の星アルタイルと、琴座の星座図の星ベガが、線で結ばれる。
二人が桃色と青色の二色の明るい光に包まれた。
双子座のカストルとポルックスはそれに気づき、アルタイル達の方へ邪魔にならないように端から走って近づく。
魔獣も気が付き、アルタイルとベガの方を向く。
杖と剣の先端から、二色の一つの光線が放たれる。
魔獣は両腕を前に交差させ防御する。
光線はその腕を粉砕し、体も貫き、背後の壁をえぐる。
洞窟に風穴を開けた。
魔獣は体の穴からぼろぼろと崩れ、風に乗ってさらさらと消えていった。
アルタイル達は、魔獣を撃破した。
「す、凄いな。これが地上で腕を磨いた、三賢者の合体線術」
と、カストルが驚きの表情でつぶやく。
ポルックスはすぐに駆け寄り喜ぶ。
アルタイルとベガは目を合わせ、笑った。
4人は元来た道を戻り洞窟を脱出した。
空は晴れていた。
日差しがベガの肌を優しく温める。
約一ヵ月ぶりの外の空気をベガはゆっくりと吸い込んだ。
その後、タイタ山のふもと近くの村へとやってきた。
タイタ山は活火山で、ここタイタ村にはいくつもの温泉が湧き出ている。
タイタ村の村長の元に訪れると、カストル達は旅館に案内された。
この旅館は女王ミザールの命令により、貸し切りとなっている。
旅館にある温泉は広く、綺麗だった。
4人は早速温泉に入り、疲れを癒し談笑する。
ふいにアルタイルがベガに聞く。
「そういえばベガはさ、食べ物とかどうしてたの?」
「ん……コケとか」
「こっ!」
「水は湧水があったから飲めた。おいしくはなかったけど」
「コケも?」
「……ええ。おいしくはなかった」
ポルックスはそれを聞いてくすくすと笑った。
間を置いて、次にカストルが質問する。
「魔女の姿は見なかったのか?」
「はい。背後からなにか近づいていたのは、なんとなく憶えていますが」
「気が付いたらあそこに閉じ込められていたと?」
「はい。そうです」
「……結局、魔女を見た者は未だにいないということか」
温泉を出ると、4人にはそれぞれ部屋が用意された。
アルタイルは部屋でゆっくりとくつろぎ、日誌をつけていたがカストルに呼び出される。
部屋を出て玄関近くの待合室まで来ると、そこにはベガとポルックスもいた。
「お待たせしました」
と、伝令隊の隊員が待合室に来た。
女王陛下からの書状を預かりこの村に待機していたとのこと。
「ベガ様がご無事で何よりです。では、こちらが書状となります」
そう言うと隊員は4人の前に軽く頭を下げ、両手で封筒を差し出す。
カストルが代表して封筒を受け取り、すぐに中身を確認する。
「ベガと私達二人は一度城に戻れ、と。アルタイルはこのまま西に向かえとの事だ」
「西、ですか」
カストルが読み上げ、アルタイルは反応し、書状を改めて見た。
西の古都にて魔獣の出現が多発している。またその道中にある港町アリオンにて、海を歩く巨大な魔獣が目撃されたとの情報もある。その調査及び、魔獣の撃破を命じる。本来は西の管轄は琴座のベガに一任されているが、アルタイルに任せる。また十二星座の星使いも一部援軍として、地上に下ろす。と、書状には書いてあった。
ポルックスはベガの不安そうな顔を見て話しかける。
「ベガは疲れてるだろうからー、ゆっくり休んでなさいってことだよ」
「そ、そういう訳にもいきません。陛下に報告を終えたら、すぐにでもアルタイルに合流して……」
「そんなに張り切らなくてもさ、十二星座の援軍もあるって書いてあるし。私たちも地上と空はよく行き来してるから」
「いや、でも」
ベガは少し苦笑いし、アルタイルを見る。
「大丈夫。ベガの分は、私がなんとかするから」
アルタイルが頼もしく言う。
ベガは一瞬、真顔になるが、すぐに笑顔に変わる。
4人はそれぞれ部屋に戻り、眠りについた。
翌朝、アルタイルは早起きして、一人で村を散歩していた。
見慣れない温泉街の景色に興味深々でいた。
しばらく歩き回っていると、泊まっていた旅館の方からベガが歩いてくるのが見えた。
アルタイルは小さく手を振り、ベガもそれに気づく。
今度は二人で歩いた。
緩やかな坂をゆっくりと下る。
「それにしても、地底の魔女って何者なんだろう?」
と、アルタイルが聞く。
ベガは少し間を開けて言葉を返す。
「私たちと同じ、星使いかもしれない。連合体以外の生き残り?……でもそれとは違う、なにか別の雰囲気をあの魔獣からは感じるよね」
アルタイルは同感し、さらに会話する。
「そうだね。調星機関の人たちのような全く違う力を持っているのかも」
「まあ、ああいう事ができるのは星使いだけとは限らないからね」
「そうそう」
「結局のところ、私を捕まえてどうするつもりだったんだろう?」
「それは、たしか女王陛下が言うには」
街中に湯煙が立ち込めている。
早朝の為、人通りは少なく、静かだ。
「ちょっと待って」
と、急にベガがアルタイルの言葉を遮る。
二人の足が止まる。
「なにか聴こえる」
ベガはそういうと振り向き、坂道の上を見る。
そこには紫色の四足歩行の何かがいた。
一匹。大きさは馬より大きく、見た目は狼か、あるいは犬。
牙をむき出しにしているが、その口の中も牙も同色に発光している。
「あれは犬型の魔獣!?」
アルタイルがそう気づき身構える。
すると犬型のその魔獣は坂道を突っ走って来た。
気づいた時には、アルタイルは攻撃態勢も防御もする暇もなく、それに激突された。
「ぐっ!!!!?」
更には道沿いの建物にこすりつけられ、アルタイルごと外壁を押し破り、室内に吹っ飛 ばされる。魔獣は勢いに乗ってそのまま坂を下って行った。
あっけに取られたベガは、魔獣を目で追ったが、すぐにアルタイルが気になり近寄る。
「私は大丈夫!結界は教え通り張ってるから!それよりも魔獣を!」
瓦礫と壊れた家具の隙間からアルタイルが叫ぶ。
幸い、巻き込まれた人はいなかった。
「また来る」
ベガが敵に目線を戻した。
今度は坂の下から猛進してくる犬型の魔獣。
ベガが聖哲体を右手に具現する。
その剣は先日洞窟で魔獣を倒した時の物と同じ。
鍔の部分の小さな琴を左手の指で奏でる。
魔獣が高速で迫った。
刹那、音速で両断する。
魔獣がバラバラに自壊していく。
ベガの特異能力は音速の斬撃と移動。
聖哲体を持った状態でのみ使える必殺技である。
建物が壊れた音を聞き、村長を含め村人たちが集まってきた。
アルタイルとベガは事情を説明し、家主には謝った。
その頃、双子座の二人はまだ寝ていた。
数時間後、星使いの4人は馬車に乗って村の外に出た。
「ほんとにここから歩いてくの?」
と、ポルックスはアルタイルに心配そうに話しかける。
「次の目的地はそう遠くありませんし、これも賢者の務めみたいなものですからね。じゃあ、すみませんがこの辺で」
アルタイルがそう言うと、カストルが馬車を止める。
「アルタイルが危ない時は、音よりも速く助けに行くから」
と、ベガは別れ際に言った。
馬車から一人降りたアルタイル。
「うん!頼りにしてるよ」
と、笑顔で返す。
鷲座のアルタイルはここから徒歩で西へ。
双子座のカストル、ポルックスと琴座のベガは王城を目指し馬車で北へ進んだ。