第05話 『世界の支配』
王の間の扉が開く。
広々とした空間に、金銀豪華な装飾が施されている。
王座は床より三段高く、そこには女性が座っている。
「よくぞ参った。座れ」
アルタイルに向かってその女性は命令する。
王座の前に三つの椅子が用意されている。
アルタイルは軽く頭を下げ、椅子に向かった。
「ポラリス、二人も呼んでこい」
「はい。承知致しました」
女性の指示でポラリスは王の間を離れる。
「三賢者アルタイル。失礼致します」
「うむ。座れ」
アルタイルは王座を正面に見て左端の椅子に腰かけた。
そして女性が名乗る。
「唯一王ミザールである」
ミザール。おおぐま座の星使い。年齢は19歳。
職位は、唯一王。
長い銀色の髪を結っている。
服は白いが派手なドレス。
女王陛下と呼ばれている。
女王が語り掛ける。
「東方の島に渡る途中であったと聞いたが」
「はい。船に乗る直前でした」
「詳しい要件は聞いてはおらぬな」
「はい。何も」
「……それでよい」
「?」
アルタイルは、それが極秘なのだと感じとった。
しばらくするとポラリスが戻ってきた。
「陛下。お連れ致しました」
「入れ」
先程と同じように扉が開く。
アルタイルは座ったまま後ろに目線を向ける。
ポラリスの横には二人の女性が立っていた。
二人が名乗る。
「双子座のカストル」
「同じく双子座のポルックス」
双子座の星使い。カストルとポルックス。
17歳の双子の姉妹。星使いで唯一の二人組。
職位は共に十二星座。
髪は二人とも黒に近い濃い緑色で、短め。
服の色はカストルが白と青、ポルックスは白と赤。
カストルはやや目つきが鋭く。ポルックスは微笑んでいる。
二人はアルタイルと同じく椅子に近づく。
カストルは端に、ポルックスは真ん中に座った。
ポラリスは三人のやや後ろで立ったまま待機する。
「では、説明する」
女王が三人に話す。
「三賢者の一人、琴座のベガが地底の魔女に捕まった。お前達三人で助け出せ」
「えっ!?」
アルタイルは驚きの声を上げる。女王は続ける。
「魔女より書状が届いた。犯行声明とでも言うべきか。しかし要求などは何も書いてない」
アルタイルは少し目線を下げる。
「場所はここより南西、タイタ山のふもとの洞窟。そこにベガは幽閉されている。魔女の書状にはそう書かれている」
双子の姉カストルが女王に尋ねる。
「罠の可能性もありますね」
「無論、それもある。が、無視はできん」
「地底の魔女がその場にいた場合は、どう致しますか?」
女王は少し間を空け、言う。
「ここに生かしたまま連れてこい」
カストルと女王のやり取りに、アルタイルが割って入る。
「生かしたまま。ですか?」
それに女王が答える。
「そうだ。二度とこのような輩が現れぬよう、私が直々に裁きを下す」
「見せしめですね」
「そうだ。異論は?」
「ありません」
アルタイルは真っすぐと視線をそらさず答えた。
女王は更に続ける。
「星使い連合体が組織されて500年。その間いくつかの内乱はあれど、地上は我々の支配下で秩序を保ってきた……」
カストルは目を閉じ続きを聞く。
アルタイルとポルックスはそのまま聞いた。
「地底の魔女なる者の正体は依然、不明。各地の魔獣の被害も増えている。それに続いて我らの同胞にまで手を出した。これ全て、断じて許さん」
女王が立ち上がる。
「我々が世界の支配者たる所以を見せつけよ」
三人も席を立ち、右手を胸に当てる。
そしてカストルが言う。
「必ずや琴座のベガを救出します」
「うむ。行け」
女王の指示で三人は退出する。
その後、三人はそれぞれ部屋に案内される。
今晩は城に泊まり、明日の早朝にタイタ山に向けて出発することに決まっていた。
アルタイルは部屋の中に入ると、荷物を下ろし、ベッドに座った。
ベガの事が気になっていた。
その後しばらくすると、入り口のドアをノックする音が聴こえる。
「どうぞ」
アルタイルが返事をして立ち上がる。
すると双子座の妹、ポルックスがドアを開けて入ってきた。
「失礼するよー」
ポルックスは明るくアルタイルに話しかけた。
アルタイルもこわばっていた顔が笑顔になる。
「どうかされましたか?」
と、アルタイルが聞く。
「アルタイル元気なかったからさー。心配になっちゃって」
ポルックスはそう言うと、アルタイルが座っていたベッドに腰を下ろす。
二人は顔を見合わせ、アルタイルも続いて隣に座った。
「ベガは、私の親友なんです。」
と、アルタイルが言う。
ポルックスとアルタイルは話す。
「同じ三賢者だもんね。昔から仲がいいんだね」
「はい。私が継承してから間もなく、一緒に修行したんで」
「私たちが継承したのが2年前だから、アルタイル達はだいぶ先輩なんだよね」
「いえいえ先輩だなんて。十二星座の星使いには私ではかないませんよ」
「えー。謙虚だなあ」
「先代の双子座の方達とは、お会いしたことがありますよ」
「ああ、あの二人。今は引退してのんびりしてるよ」
「とてもお強い方達でしたよ」
「みたいだね。正直、親戚だけどあんまり会ったことないんだよね」
「そういうものですよね」
「うん。鷲座の星使いも確か先代は男の人でしょ」
「叔父です。私もほとんど会ってませんでした。今は東の島にいます」
「いいねー。私も行ってみたい」
二人はその後、夜遅くまで話した。
食事は各部屋に用意されたが、ポルックスはアルタイルの部屋で一緒に食べた。
途中カストルも加わったが、二人より先に寝ると言って部屋に戻った。
最後にベガを必ず魔女の手から救い出すと誓い合い、ポルックスも自分の部屋に戻る。
アルタイルは安心して眠りについた。
翌朝、アルタイル、カストル、ポルックスの三人はポラリスに見送られ城を後にする。
馬車に乗り、タイタ山へと向かう三人。
馬車の運転はカストルが行い、二人は後部座席に座った。
荷台には食糧と備品が積んである。
「ベガが捕まるなんていまだに信じられない」
と、アルタイルは口に出す。
「お腹すかせてないといいね。ちゃんとご飯食べてるのかなあ」
と、ポルックスが空を見上げて言った。
地底の魔女から城に書状が届いたのは約二週間前の事である。
「無事ならいいんですが……せめて生きていてくれれば」
アルタイルは不安になる。
「大丈夫、必ず生きている!」
カストルが運転席から声を大きくして話しかける。
アルタイルは少し驚いたが、すぐにその言葉に安心した。
それから二日後の昼過ぎ、三人はタイタ山のふもとまでやってきた。
天候は曇り。今にも雨が降ってきそうな気配だ。
三人は例の洞窟に向かうため馬車を降りる。
森を抜けた先にその洞窟はある。
アルタイルは残りの食糧を、入れられるだけ鞄に詰め込んだ。
「さあ、行こうか」
カストルが二人に声をかけ先を歩く。
そして、その異様な雰囲気を漂わせる、入り口の大きな洞窟が目の前に現れる。
アルタイルは感じた事のある不気味な気配があることに気づく。
「おそらく、中に魔獣がいます」
アルタイルは二人に警告して、洞窟の奥に目を凝らす。
しかし、その洞窟はかなり奥が深く、外からでは闇しか見えない。
カストルが持ってきた松明をアルタイルに渡す。
アルタイルは杖の聖哲体を取り出し先端の電撃でその松明に火をつけ、カストルに返す。
「二人とも離れるな」
カストルを先頭に三人は洞窟に足を踏み入れる。