STEAL
ーー神奈川県中学校夏季県大会ーー
【桐遠学園・中等部グランド】
青い帽子・縦縞のユニホームを着た選手たちが円陣を組んでいる。
背番号1を付けた選手が掛け声をかける。
如月「よっしゃー! 王者だからってビビったら負けだからな! 楽しんで行こうぜ!」
選手たち「おおー!」
如月「よこしろー!ファイ!」
選手たち「オオーー!」
円陣が解けた選手たちのユニホームの胸には、
『横城』と大きく2文字の刺繍が刻まれている。
如月「さあ!いこーぜ!」
両チームがホームベース前に集合する。
主審「これより、桐遠学園中学 対 横城中学の試合を始めます。キャプテン握手。」
両チームの先頭に立っているキャプテンが一歩前に出て握手をする。
如月「お願いします!」
桐遠背番号2「お願いします。」
如月「〔なんだこいつ、やけに冷静だな。それにしてもみんなデカイな…。〕」
如月の向かい側に並んでる相手選手は、中学生にも関わらず全員175cmを超えている。
如月は、1人ホームベース上で相手選手を見上げながら立っている。
すると、如月の隣に並んでいた背番号2の選手が慌てて如月に声をかける。
木戸「葉くん!葉くん!早く戻って!」
如月「あ、悪い悪い。すみません。」
審判に一礼する。
主審「それでは始めます。礼!」
選手全員「よろしくお願いします!」
桐遠学園ナインが守備位置に散らばっていく。
後攻【桐遠学園スターティングメンバー】
6 戸頭(3年)
4 吉峯(2年)
2 水嶋(3年)
5 眞木(3年)
1 芦澤(3年)
9 磯田(3年)
3 山形(2年)
7 浦和(3年)
8 立野(3年)
先攻【横城スターティングメンバー】
2 木戸(3年)
8 隅田(3年)
3 奈良(3年)
1 如月(3年)
4 田宮(3年)
6 安富(2年)
5 佐田(1年)
9 笠井(1年)
7 武藤(2年)
1回の表、先頭バッター木戸が打席に立つ。右打席に入り一礼する。
木戸「よろしくお願いします!」
主審「プレイボール!」
マウンドには、全国の高校が注目する本格派右腕・芦澤 大輔が振りかぶり、投球動作に入る。
中学生とは思えないくらい無駄な動作の無いシンプルかつ力みの無いフォームである。
そして、芦澤の手から球がボールが放たれる。
右打者の木戸に対し、インコース低めのストライクゾーンいっぱいにボールがキャッチャーのミットに収まる。
主審「ストライーク!」
木戸「(はやい! こんなの中学生が打てる球じゃ無いよ…。 てか、中学生が投げる球か、これ…。)」
横城ベンチが騒つく。
特に1年生で出てる2人は、動揺が隠せない。
佐田「無理だよ、こんなの…。 こんなの見た事ないよ。」
笠井「だよな。近所のバッティングセンターでも見た事ないよ。」
そんな2人の頭を如月が撫でまわす。
佐田・笠井「うわああー!」
如月「なんだよ、まだ打席にも立ってないのに諦めるのかよ? こんなピッチャーともう戦えないかもしれないんだぜ? 楽しんで行こうよ!」
佐田・笠井「は、はい!」
2人から不安な表情が消えた。
しかし、木戸は三振に倒れ、後続も三振に終わった。
1回裏マウンドには、背番号1の如月が立つ。
投球練習を終え、打者が左打席に入る。
審判からプレイという声がかかる。
如月は振りかぶり第1球を投げた。しかし、その球は簡単に右中間に弾き返されてしまい、ランナーはホームに生還した。
打たれた如月に木戸が声をかける。
木戸「葉くん! どんまい! いい球きてるよ!」
木戸が励ますも、後続の打者に連打を浴び一挙7点を取られる。
桐遠ベンチからは余裕の雰囲気が流れている。
眞木「あいつ球は速いけどな。真っ直ぐだけじゃ打たれるのわかってないのか。」
如月を冷静に分析しているのは、桐遠の背番号5番を着けた4番打者の眞木である。
そして、試合は4回の裏まで進んだ。
横 城 000 0
桐 遠 732
試合は桐遠学園が12点リード、尚も2アウトでランナーは一、三塁のピンチである。
しかし、如月は膝に手をつき、肩で息をしている。