四
畳の上にばらまいた写真を見下ろしながら、羅利子は目に涙が浮かびそうになるのをこらえた。
悲しみにおぼれて、気をゆるめてはいけない。
わたしは今、生きて動く雅彦という、難しい幻覚を作ろうとしているのだから。
わたしだけを、死ぬほど愛してくれる、わたしだけの雅彦を。
ふたたび想像に集中する。
まず、雅彦と同じ身長の骸骨を思い浮かべる。硬さ、艶、形などを細かく想像する。
すると、部屋の中央に、骸骨があらわれる。
幻覚だとわかっていたが、一瞬びくっとしてしまう。
今度はその骸骨に、内臓を当てはめてゆく。雅彦は、よく友達といっしょに、隠れて煙草を吸っていたから、肺は少し不健康だということにしておく。
骸骨の肋骨の内側に、想像したとおりの内臓が出現する。体液に濡れ、生々しく脈打つそれを見て、思わず吐き気を感じてしまう。
今度は脂肪や筋肉を想像し、それで骸骨をみっちりと包む。その上に、よく日焼けした皮膚をはり、体中に、髪から産毛まで、様々な体毛を植えてゆく。
さらに、脳や血管、人体を構成する全てのものを、想像し、取りつけて、完璧な雅彦の体を作り出す。
羅利子は、五時間ほどかけて、それを完成させた。
頭が痛い。大量の汗で、下着が肌にはりついている。
その場にうずくまった。こんなにも長時間、想像に集中したのは、初めてだ。
目の前の裸の雅彦は、まるで人形のように、目をつぶったまま動かなかった。
失敗してしまったのだろうか?やはりわたしの特殊な想像力でも、生きて動く幻覚などというものは、作れないのだろうか?
不安を感じて立ちあがり、雅彦の前まで歩み寄る。
彼の胸に、触れてみた。
心臓の鼓動が、手のひらに伝わってくる。
生きている。成功したんだわ。
喜びで、体が震えだした。
「雅彦」
そっと名前を呼ぶと、雅彦はまぶたを開き、死ぬ前と変わらない、太陽のような笑顔を浮かべて、明るい声をあげた。
「よう、ひさしぶり」
羅利子は、大声をあげて泣きだした。