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No.44 神様の遊び

作者: 夜行 千尋

出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第四十四弾!

今回のお題は「鳥」「光線」「老人」


6/22 お題出される

6/26 遊びほうけて全然進んでいないことに危機感を抱く

6/27 プロットを練って練りまくる

6/28 書きはじめるが筆が遅い

6/29 とか思ってたらぶっちぎりで作業し続け安定の締切ブッチ


ところどころ乗って書いたけど、これ自己満足にしかなってない予感


※少々宗教観に関わる内容が有ります。寛大な心でお読みください※

 何もない、という存在が有るだけの世界に、神が光在れと言ったとか、針の先ほどからの爆発から世界が渦巻いたとか、様々なことが言われているが実際は……神にとってもまた、神という存在にとっても世界の誕生は“偶然”だった。

 後に曰く「なぜ誕生したのか分からない」とのことだった。その記憶は人類の根本の奥深くに根強く存在し、世界の誕生の理由が幾重にも幾説にもわたるのはそのためだと思われる。

 さて、そんな世界が、気が付けば存在したわけだが、そこに興味を示したのは、他でもなく“The one”とか“神”とか“父”だとか、ともかくそんな荘厳に呼ばれるソレであった。ソレはまず自身の肉体を作成。その記憶も何処から来たものなのかは一重に知れず。人類が採掘を行い向う数億年の記憶を掘り起こそうと、わりとそれらもソレの遊び心の残留物である時が有るから困る。まさかとは思うが、そんな体重数tの爬虫類が本当に地球上を闊歩し、そして隕石か気象変動などで滅んだなどと思っている人が大半を占めるなど、思うにソレの高笑いが聞こえる事柄であると言えるでしょう。

 ともかく、ソレは肉体を得て、地球という惑星の表面に降り立った。自身の思わず作り上げた箱庭が如何になっているかを見たかったと、後に語っている。そこで見たのは、やはり彼(と名義上呼称する)としては、人々の暮らし、文化、その他のいざこざに至るまで、実に退屈しない娯楽であったようです。

 水たまりを意図せず作り、作ってみたら蛙が住み着いていた。その蛙がどう生活しているのか見ている感覚に近かったのかもしれない。そこで彼は、その蛙たちに幾つかの知識や技術、時に積極的な介入をしてみり……

 たとえば、ピラミッドの建築や各種預言者の介入、世に言う神話時代の半人間の歴史への介入、時には天使などという存在による直接介入もあった……と、私の立場で言うのはなかなかシュールなものではありますが。

 ともあれ、私はそんな稚児だか尊大だか分からん輩の、数多くの秘書官の末席に坐する者である。


 で、“幾億度目かの世界”で、まだまだその世界が幼いころの話だ。そう、今回はその話をしようと思う。……まぁ、言ってしまえば、私の懺悔と愚痴だ。

 私は名を……人からの呼び方では『ケア』などと呼ばれているらしい。

 正確な年代は覚えてはいない。この辺を覚えていないと書記官たちにドヤされるが、公的な記録を付けるための懺悔ではないし、まぁ良しとしてほしい。


 遥か神話の時代とかいう風に呼称した方が人類には分かりやすいかもしれないが、そんな時代から私と“地球”との付き合いは始まる。なに? 人間たちの“科学という名の神話”ではその時代は人類どころか霊長類も居なかった? 君はそれを直接、目で確認したのかな?

 まあこの際置いておこう。問題は当時の神が、人間界に下ったきり、かれこれ1万年ほど帰ってこなかったことに起因する。これを探しに行くとか言う面倒な任務を、まだ秘書官になったばかりの頃の私が言いつけられたのです。


「で、あるからして、君に頼みたい」


 意識のみが混濁する白亜の海の中、己という境界線の曖昧な精神の海で、お偉いさん、人の呼び方では『アイリーエル』と呼ばれる方から言い渡された当時の私は、その任務に狼狽したのを覚えている。


「ま、待って、お待ちを……御方が地球に居ると確証が御有りなのですか? そも、なぜあんな星に住む生き物に知性を与えられたのか、私にはとんと分かりません」

「はは、君はまだまだ幼いな。まだ10万年も生きていないとそんなものかもしれんが、地球というあの副産物は、いつか我々という存在を維持するに至ると、我々は考えているよ。御大将はその視察に行ったのだが……帰ってこられない」


 私は声にならない落胆の感情を示したが、これまた笑って済まされた。


「ともかく、御大将の様子を見て、場合によってはそのまま放置願いたい」

「連れ帰せ、ではないと?」

「然り。すべては我らを造りたもうた御大将の御心のままに……が、完全に放っておけるわけでもなく、また、いざという時の連絡係が欲しい」

「……そこで、私に白羽の矢がたった、と」

「肯定する」


 で、私はかくも美しき地球上の生き物としての器を与えられ、地球の上空を飛んでいる。白い水蒸気の塊たる雲の合間を抜けて、赤色の大地にそびえる霊峰を脇に捕らえ乍ら、新緑の大地の遥か上、蒼天の中を私は飛んでいる。曰く、大鷲と呼ばれる生き物の姿らしい。

 私よりはるかな上位存在で在られる御方を見つけるのは、我々意識体が本来の存在で在る者には実に容易である。赤く干からびた霊峰のすそ野を染める虹色に乱反射する雪の上、山高帽をかぶりキセルをふかし、1mほどの髭を蓄えた老人の傍に、私は降り立つ。


「探しました。さ、帰りましょう」

「おお、久しいな。かれこれ何年ほど過ぎたかな? 地球上に居ると時間の感覚が人類のそれに近くなっていかんな」


 褐色の肌に真っ白に縮れた髭。みすぼらしいボロを纏い泥だらけの山高帽をかぶった小汚い外見乍ら、内側から沁み出でる高次元の魂の光輝。このお方こそ……


「で、何の用じゃ? わしはもう少しここで人類を眺めておる。楽しいぞぉ。思った通りにならんことばかりじゃ。ちょっとちょっかいを出すとすさまじく狼狽えるしのぅ」


 このお方こそ、どうしようもないクソガキで在らせられる。


「何をしておられるんですか。人間界への介入はほどほどにしてください。それから、さっさと帰りますよ」

「ん? んむ……んー」


 この老人、まるで耳が聞こえないかのようにふるまうのが得意なのは毎度のことながらなんとかならんのだろうか。


「ですから、帰りますよ」

「あー、いや、わしは……帰らん」

「は?」


 思わず口からそんな言葉が漏れる。


「あー、それとな、お前さん、大鷲の姿で喋るんじゃない。人類が聞いたら驚くじゃろう?」

「む……た、確かに。いや、それよりですね」

「あーあ、もう驚かれちゃったの」


 そう言いながら、老人は煙管を口に持って行きながら私の背後を見る。私はその目線の先を首だけ振り向いてみる。鳥の眼では姿はぼやけてしか分からないが、どうやら人の子、らしい。

 御方がゆっくりと立ち上がり、その子供、男児へ話しかける。


「坊や、名は何かな?」


 男児は首を振ってこたえる。


「ふむふむ。名はないか。まぁ、お前さんが何を名乗ろうが、勝手に後世が名付けて呼ぶだろうがね……2万年先か、10万年、あるいは30億年ほど遥か未来か、はたまた“次の地球”かは分からないが」


 そんな話をこの男児が理解できると思っているのだろうか? 毎度ながら、この方の話は理解にかなり時間を必要とし、また時に人伝いに伝えると意味が変わってしまう事も多々あるのが困りものだ。

 しかし、そうなっても修正はしない。この方曰く「あるがままに、流れるままに」我々高意識体が故意に歴史を大きく転換させることをこの方は望んでいない。


「ああ、お使いの最中だったか。はは、喋る鳥を見て買い物籠をこぼしおったな」


 そう言いながら、御方自ら、地面に散らばった植物の果実を拾い上げ、枝で組み上げられた籠に入れてく。男児はそれを手伝う。となると、私も手伝わぬ理由はないのだが……私が近づくと男児は私を警戒し、作業を止めてまで距離を取る。……正直なところそういう反応は傷つくのだが。

 ともあれ、男児は何食わぬ顔で去っていった。


「畏れながら……人類との接触を控えていないのですか?」

「うむ。まだまだ“今回の地球”では誕生から40億年もたっておらんからな。もうしばらく、よちよち歩きを見て楽しみたいのじゃよ」

「しかし、あなたが地球上に居るだけで、人類は我々、高意識体が得た肉体のごとき万能性を示すことが有ります。お控えください」


 ふむ、と御方は考えながら言った。


「お前さんは、人類をどうしたい?」

「どう……とは?」

「お前さん……人類が嫌いかね?」

「そんなことは……! はい、確かに。気にくわない存在です」


 御方は笑って、私の発言を流された。今思うに、もしこの場に他の高意識体の方が折られた場合、私は生きていなかったろうと思う。


「そうじゃな……わしからすると、人類というのは……ペットよりは親しみを持てるが、親類にするにはまだ危うい。まだまだ見て、まだまだ確認をせねばならん存在だと思うちょるよ」

「……あの、まさか……その」

「ふふ、そのまさかじゃ。“神にも人類などという存在は分からん”のだ。どう転ぶか、分からん。そこが楽しいんじゃがな」

「危険すぎます! もし連中から高意識体に成りうる存在が生まれた場合、どうするおつもりですか!? もし、我々と取って代わりうる存在が出たなら、その時はどうするおつもりなのです!?」


 しばし沈黙が流れ、私は自身の発言が如何に間の抜けた事なのかを自覚し、即座に頭を下げて謝ろうとしたが、鼻先で笑われてしまった。


「そうなったらそうなったじゃ。“その次の地球”の管理を任せても良いやもしれんな」

「な、なんと……! そんなことをしたら、明星様などはお怒りになられますよ……『主の仕事をするなどという不遜を許しはしない』と、あのお方の事です。きっと」

「言うじゃろうな。言いそうじゃ。うん……じゃがの……人類を見て、そこに無限の可能性をわしは見ておる。じゃからこそ“人類出身の高意識体による次期地球の管理”は、わしは是非やってみたいのじゃよ」


 今にして思えば、この方のこの発言は、チープなテレビ番組のレイトショーぐらいの感覚でしか無かったのでしょうが……


「……分かりました。では、あなた様はそれを見極めるために、地球上で過ごされていたのですね」

「んー? んんー、そ、そうじゃな。うん、はは」

「そういう事にしてください。私も報告義務が有ります」

「うむ、お前さん、一緒に人類を見ておかないか?」

「では私はこれで……は? 今何と?」


 思うに、このころの私は若かった。うん……今思うと……危う過ぎて冷や汗が止まらない。


「いや、あの……私は人類は……」

「うむ。苦手ならばこそ、見て学ばねば。ふふふ」

「いえ、そも、あなた様を連れ帰るのが……」

「んー? 本当に連れ帰れ、と命令されたか? 大方、トランシーバーぐらいの役割しか言いつけられておらんじゃろう」

「と、とらんしー……?」


 見事に見抜いておいででした。


「というわけじゃ。むこう8000年ほど、人類を共に観察じゃな」


 かくて、ごねる私を笑って丸め込み、私と御方による人類観察が始まったのです。

 とはいえ、基本は見ているだけである。時に御方が麗しの美女となってピラミッド建築を指示したり、時にあの霊峰へ戻ってきた元男児に雷の力を授けたり、はたまた葉巻型の空飛ぶ船を造り人類の頭上を飛行してみたり、平たい顔の民族に風呂をかき回す棒を槍だと言って与えたり……色々やりすぎです。


「またですか」


 そんな折、私は幾度目かの戦争を眺めて言いました。


「人類は本当に飽きませんね。本当に……いつでも、いつまでたっても、自己正当化と現実逃避、そして他者への悪意を止めない存在です」


 神 ――この当時は10歳程度の少年の姿をしておいででした―― が仰いました。

 現在の地球の太陽暦で言う1937年ぐらいの時代、当時の御方は、混血の児童の肉体に宿っておいででした。この時代の父親、母親、その存在が知りたい、とのことで死産であるはずの御子の体に宿りあそばされました。それなりに裕福な家に生まれたようで、厳格でありながら陽気な軍人の父に、優しく物静かな母の間に、中身があのクソ餓鬼……もとい、御方で在らせられるため、よく「誰に似てあんなおしゃべりになったのか」とよく周りの方は申されていました。

 当時は戦争の災禍の真っただ中。曰く、この年代は“どの地球”でもそうだったと言います。私はそう聞いて、なおの事、人類への反感を覚えたのを今でもはっきりと思い出せます。

 ああ、ちなみに、当時の私は白ネズミの姿を借りておりました。ネズミにしては長生きしすぎで、ご両親から疑われているのでそろそろ新しい姿を得たいところです。なお、人と話せることは今のところばれておりません。


「それも、じんるいのせんたく、というやつだよ。ほうっておくって決めたでしょ?」

「えぇ……しかし、自分と同じ言語の分かる存在を、食する為でもなく殺すのは、やはり私は受け入れがたく……」

「んー、じぶんの心のあんねいのために、人の命をうばってる。つまり、心で心をたべてるから、そこはいいんだよ」

「……そういうものですか」

「うん。じんるいは、そういう、しんかをとげている。それを、僕らはひ定しない。あ、ちょっと出かけて来るね」


 そういって、外出の用意をされていました。ジャケットを小さな体で、高いところにあるハンガーから必死に引っぱりおろし、同時に頭上に落ちてくるハンガーが、頭蓋と当たり甲高い音を立てられながら、床に落ち更に大きな音をたてた時の事です。軍服に身を包んだ、そう、父親と同じ軍に所属する者によって、御方は拘束されました。大の男二人がかりで10の少年を抑え込み、半ばそれが当たり前、あるいは喜びを覚える表情をする人類へ、私は狂気を感じざるを得ませんでした。

 思わず、私は御方を捕らえている軍人の一人の首に噛みつきました。助けようと必死でしたが、突如私の体は見えない力のような物で縛られ、そうこうしているうちに、私の小さな体は鷲掴みにされ、そのまま床に叩きつけられました。直後、私の視界に移る世界が赤色に染まり、白ネズミとしての機能を失いました。どうやら踏み殺されたようです。

 思うに、私が人類へ攻撃したことが、御方の逆鱗に触れたのでしょう。故に、私は無抵抗にさせられたのだと思います。……しかし、私のこの行動は今でも間違っていなかったと……いえ、不遜でした。えぇ、御方が如何に人類を大事に思っておいでか、忘れているわけではなかったのですが、それでも、この軍人たちが何なのか頭の墨で解している以上、見捨てるわけにはいかなかったのです。

 男児の、御方の肉体の父親もまた、同じ意見の様で、後ろ手に締め上げられたまま、押さえつけられた肉体が、暴れた結果床と擦れて血が出るほど、我が子を、そして妻を連行する同僚たちへすさまじい怒気を放っておいででした。そして、最愛の家族が連れ去られた後、彼はその場で泣きじゃくり、そのまま丸一日動かずに居ました。

 かく言う私は、御方が私にお怒りになられたことにショックを受け、自身の新しい器を探すのを忘れるほど放心しておりました。とはいえ、そうも言っていられない状態でしたので、とにかく近場の生き物を探しました。まぁ……まずは声をかけてみましょう。


「もし、そのこの男」


 リビングの机の上、用意しかけた夕飯の支度をそのままに、酔っ払いが一人。高級な机を前に高級な椅子に全身を預ける形で寝ていた男に声をかける。声をかけられ、すでにウォッカの瓶を4本空けた、御方の肉体の父親は唸るような声と共に眠りから飛び起きました。


「だ、誰だ? そこに誰か居るのか?」

「えぇ、私は『ケア』と言います。あなた方が天使と呼ぶ存在です」

「天使? ……まだ酔いが抜けてないか。酔えてないと思ってたが……」


 そう言いながら新しいウォッカの瓶に手をかけ始めたので、それを止めました。父親からすると、いきなりウォッカの瓶が机に張り付いて動かなくなったかのように感じた事でしょう。


「話を聞きなさい」

「へっ……なにが天使だ……神も居ないのに……」

「なんと! そのような不遜を……」

「不遜がなんだ! 俺は……俺は、この数十年軍の為に尽くしてきた。すべては妻や我が子の為だ。それを、それなのに……ああ、神よ、居るなら助けてくれ……頼む。頼むよ……」


 怒って怒鳴ったり急に泣き出したり、なんとせわしないことか。

 男は泣きながら机に突っ伏して言う。


「妻は敵性民族の出だった。だからこそ、軍で偉くなって、家族に手出しはさせないようにしてた。だがどうだ……結果は……無力だ。妻も、子も……ああ、あの子はまだ十歳だぞ。なんで、ああ、こんな世界のどこに神が居る」

「神は……ああ、神はおわします。ただ、あなた達人間に事態を任せているだけで」

「それは、神の試練とか言うやつか?」


 神の試練? 神は試練など課さない。いつでも、それを見ているだけだ。


「いえ、神は無干渉を決めておられるので」

「それは偽善だ! 神は正義をなされないのか!」

「神は正義など振るいません。振るえないのです。その先の悪すら愛しておられるのですから……」

「つまり……妻と子は殺されるのだな。見殺しにされるのだ。神に……」

「……ええ、そうですね」


 間違ってはいない。いや、ここで助けると、それはそれで問題だ。贔屓は今に始まった話じゃないし、公平に正義など振るうはずもなく、神はそこにあるだけの存在になりつつある。それは人間がそう望んだ結果だ、と御方は仰っておられたが、私は……


「助けたいですか?」

「なんだって?」

「助けられるなら、悪魔にでも魂を売る覚悟は御有りかと、聞いたのです」


 男は半笑いをしながら聞いてくる。


「あんた、天使じゃないのか?」

「……えぇ、天使ですよ。私はそう思っています。しかし、私を否定する者からすれば、私は悪魔です。私は悪魔になるのです。そう、あなたは、あなたがそうするのです。」

「……ど、どういうことだ?」

「手短にいきますよ」


 私は男に説明した。私が男の体に入り込むことの意味と意義と効果と反作用を。

 意識が有る存在への憑依は、高意識体では簡単なことだ。だが、憑かれた低意識体は無事ではすまない。時には精神を病んだり肉体を病んだりする。うまく馴染まなければ体が精神との拒絶反応を起こし、まともに生命活動を維持することすら難しくなるだろう。

 だが、神の英知に似た(まったく及ばない劣化品だが)、人の間で言うところのPKなるを得ること。

 そして十中八九、事が終わった後には、脳が沸騰して死ぬであろうこと……。


「ああ、やろう。俺が悪魔になることで、我が妻と子を助けられるなら……!」

「分かりました……私もまた、おそらく終わり次第殺されるでしょう」

「え? 大丈夫なのか?」

「大丈夫ではありません。しかし、私も辟易してるのです、この……戦争には」


 この人類には、と言おうとして、私は踏みとどまりました。


「……分かった。共に戦おう」

「ところで、名前をお聞きしても? まだ聞いていませんでしたから」

「アイザ・ゼル・リトルボーイだ。階級は」

「あ、階級は止めてください。私は最下位なので……」

「お? なんだ、そうなのか、はは」

「早く行きますよ」


 そういって、私は男の中に入り込んだ。アルコールで少々ふらつくが、問題ないレベルだ。

 同時に、妻とのなれそめ、何度となく口説き何度となく喧嘩し、何度となく仲直りして……今も、見る度に心から恋をして止まない人なのだと認識した。居なくなってしまっては、この男は本当に廃人になりかねないほど、彼女のために尽くした彼女を中心に添えた人生を送ってきたようだ。それも息子が生まれるまでの間だが。

 息子は死産であり、母体に負担がかかるからと帝王切開で遺児を取り出す算段になっていた。夫婦の初めての息子であり、それが授からなかったと知った時の、ただ足元で謝り続ける妻の姿を、この男は慰め続け、同時に胸が裂けんばかりの痛みに耐えていた。だが、奇跡の子として生まれた我が子。その存在に感謝し、そして深く深く愛した。それは私も見ていた。溺愛する理由はそういう事が有ったからなのかもしれない。我が子に不自由をさせない為、更に働くが……敗戦を経験し、国自体が狂い始める。

 敗戦の困窮から脱するために凶行へと強行する狂国と化した祖国を止めることはできず、むしろそこに加担することを選ぶことで、自身の家族を守ろうとした。しかし現実は残酷であり、無残に無慈悲だ。選民思想により断じて来た自身の行いに似たような形で、今度は自身の最愛の家族が、自身の全てが失われていった。


『ああ、そうなのですね』

「うっ……頭に響くな」

『酔ってましたからね。仕方ないです』

「た、頼む、必要以上にしゃべらないでくれ……頭がガンガンする」

『分かりました』

「くっ……うぅ」



 ともかく、男に行動のほとんどを任せました。いざという時は私の介入で事態を改変させれば、少なくとも私が負けることもそうないでしょう。

 男は軍服を身にまとい、異民を収容する施設ではなく、最初に自身の事務所へ。そこからジープを一台拝借し、幾分かの武装をして収容所へ。武器など要らない、というのですが、男は聞く耳を持ちませんでした。

 シープですっかり暗闇へと沈んだ収容所へ向かう車内で、私は男に言いました。


『武器など無意味ですよ』

「そうでもないさ。それは使う武器の種類によるさ」

『というと……?』

「地球を滅ぼせるほどの武器なら、いくらあんたらでも防げないだろう?」


 一瞬言っている意味が分かりませんでした。そしてすぐに彼が何を考えているか分かりました。


『まさか、敵方に我々のような存在が居る、と?』

「そうだ。そう睨んでる」

『しかし……そんな存在は神が許しませんよ』

「神は……放任主義なんだろう? なら放っておいてるだけかもしれん」

『またそのような!』

「あー、すまんすまん。分かったから怒鳴るな。運転をしくじりそうだ」

『……でも、確かにそれだけの力を持つ武器なら、あるいは……』

「だろう? 場合によっては……使おうと思う」

『……』


 はたして、そんなことを神が望むのでしょうか? いえ、あの方ならきっと、笑って済まされれるでしょう。……と、このころから、私の中には何とも名称しがたい感情が渦を巻きはじめていたのです。ああ、本当に、本当に“笑って済ませてしまわれる”のでしょうか……? それは……いわば一種の無慈悲ではないでしょうか……戦争以上の……


「さ、着いたぞ」


 うっそうとした森の中、収容所は人気のない廃鉱がごとき雰囲気をもって佇んでいました。男から緊張を感じながら、私たちは収容所の浦口へ近づきました。裏口に兵士は一人、街灯が一つだけの手薄な警備。そもそも、国の真ん中ほどに位置するが故の、選民思想にそまった国民が攻め込むことは無いし、裏口の存在は非公式故の、とはいえあまりに無防備な、しかし我らにはうってつけの出入り口でした。

 案の定、門番らしき兵士に止められましたが、その兵士が制止の言葉を言うより早く、銃声が兵士の太ももを射抜きました。その銃声に反応し、事態を察した施設内の兵士が放つマシンガンの弾を片っ端から私が止めました。


「お、おお、本当に、はは……すごいな」

『早く行きましょう』


 私は躊躇せずに撃ってきた兵士の持つ銃の内部を破壊し、撃てなくした。


「よせ、道を空けてくれ。妻と子を、家族を取り戻しに来ただけだ」


 兵士は手持ちの銃が壊れていることに気付き、それを捨ててナイフを構えるも、それより先に私の憑依している男が兵士の手をうち抜き、悶絶する兵士を脇目に通路を通り過ぎようとしました。

 その時でした。


「そこで何をしている」


 初老の男が私たちの足を止めました。


「これはリーゼル准将閣下。あー、まさか居られるとは思いませんでしたよ」

「ああ、アイザ少佐、君は聞いていない。どうしてここに居るのか聞いているのだよ」


 一瞬、このリーゼルという男が何なのか、私は即座に理解しました。


『ああ、そういう事なのですね』

「なんだ、つまり……つまり!? そ、いう……」

『えぇ、アイザ。あなたの予想く通り。そして、最悪のシナリオです』


 リーゼルと名乗る男、アイリーエルと呼ばれる高意識体の憑依しているであろう男が含んだ笑いをしながら言う。


「邪魔はさせんよ。君も分かるだろう? 自身より強く、権力をもつ存在が正論を振りかざすことの暴力をな」

「は……?」

「人間にしろ、高意識体にしろ、間違っていると認識している事を改めて間違っているなどと言われて気分が良くなるか? なにかこう……『くる』物が有るだろう。敵意だよ。敵意を抱いてしまうのさ。そう、私は少なくともそう思ったよ。自身の身のなんと小さな木の葉であるかを知った」


 更にリーゼルの口を借りてアイリーエルは言う。


「いつでもすまして正論を振るう奴を、神を、俺は疎ましく思っていたのだよ。そんな時、似たような感情にさいなまれているこの男を見つけた。さっそくこの肉体に入り込み、その精神を飲み込み、消し去り、この肉体を手に入れた。そしてチャンスも得た……神を屠るチャンスだ。絶好のな。このチャンスを逃して堪るものか。ワタシは神を殺す」

『なんて……悍ましい。そして身勝手な……』


 私の口から洩れた言葉に、アイザが思わず呼応して言う。


「ああ、なんて身勝手な奴だ。自分が間違っていると認識しているなら、どうして正さないんだ? 正論を言われて『くる』? なにを言ってるんだ。認識した時点で直しにかかればいいだけの話じゃないか。そういうのを逆ギレと言うらしいぞ。自らの幼さを自覚してわがまま垂れているだけの奴が暴れるから、悪だ正義だ正論だと、それで善だ悪だと区別が生まれる。クソくらえだ! そんな感情が、そんなクズの理論が、このクソみたいな現状を生み出したんだとなぜ分からない!」


 そういって銃を構え、リーゼルに向けてその撃鉄を下ろそうと引き金に手をかけた瞬間、地面が大きく揺れ、施設そのものが大きく傾いた。


「言いたいことはそれだけか? だから言ったろうが、正論を振りかざす奴は嫌いだとな。ましてやそれが、青臭い意見ならなおの事だ。『ケア』、お前も青臭いしな」


 リーゼルの口を借りてアイリーエルの高笑いが聞こえる。そうこうしている間に施設は上下が逆さまになり、ただ唯一リーゼルだけが、その空間でただそよ風を受けるかのように平然と周りからの介入を受けずに、変わらず床に立っていた。アイザは天井が床となった施設で転がされ、縦になった廊下をただ転げ落ちていくだけになっていた。


「お、おい! なんとかならないのか!?」

『無茶です。向うの方が存在としての階級が遥かの上なのです!』

「ああ、ちくしょう……なら早々に逃げる算段を立てるしかないか……いや、退くことはナンセンスだな。目的が有って来たんだしな……!」


 そう言って、アイザは銃で、すっかり床と化した扉の蝶番を打ち抜き、踏み抜こうとするが、即座にその扉が天井に成り元来た裏口のある壁へと“落ちていく”ことになった。

 リーゼルの高笑いを聞きながら、落ちていく最中、アイザはリーゼルの首根っこに手をかけた。リーゼルの首が軍服で締まるが、リーゼルが唸りながらこちらを睨みつけてくるのを、アイリーエルがPKでアイザを攻撃しようとして来るのを感じとり、即座に私は力を相殺する作業に入った。

 力は拮抗し、なんとかアイザの肉体への攻撃を防げ、同時にリーゼルをPKで攻撃してしまわなぬ様にとどめておくことが出来た。いや、私は全力だったのだが、アイリーエルは施設そのものを振り回している分のPKを解除すれば、おそらくアイザの全身の血管を引きちぎることぐらい造作もなく出来ただろう。

 が、最後は人の選択が雌雄を決した。アイザが、拳銃を引き抜き、リーゼルの眉間に向けて撃った。その弾丸を止める為、アイリーエルがPKを割いた瞬間、私は逃さず力で押し切った。

 そう、とどめは、私が刺したのです。私が、人を殺したのです。

 アイリーエルのPKが解け、施設が裏口の有った壁を床として地面に着地、リーゼルの死体と共に我々は宙に投げ出されました。施設が今度は元々天井であった辺を床として落ち着くまでアイザは振り回されていました。


「ふぅ……終わったな……迎えに行かないと……」


 そう言って立ち上がったアイザは、直後前のめりに倒れ込み、その力の大部分を失っていました。“落ちた”高さが高すぎたのでしょう。体は思ったよりボロボロでした。


『ええ。少々お待ちを。傷を癒してから……』

「そんなこともできるのか? ……便利だな。だが、それより……俺より、妻と子を、俺の……すべてを……」


 その言葉に返そうとした時でした。私は総毛立つような恐怖を感じとりました。その恐怖の存在は、床になった天井をゆっくりと歩いて現れ、私に言いました。


「人の決定のぜひを、われわれ高次元のそんざいが決めてはならない。そうはなしたでしょう?」

『いえ、しかし……』

「ころすひつようは無かった。ころしてはならなかった。その決定は、天災か人災によってなされるべきであると、僕はかんがえる」


 幼子の愛くるしい外見に反比例し、まぶしく見ることすら叶わぬ閃光を背後にし、高貴なる御身を現したる御方を、私は見ることができませんでした。


『し、しかし……』

「今回のいっけんは僕にも、せきにんがある。……終えよう。この世界を」


 そう言って、幼子は閃光の中に消えて来ました。


『お、お待ちを!』


 私が発したその言葉に、神は足を止められました。


「まだ何か?」

『確かに、人は……人に限らず、高意識体たちもまた、不完全な存在なのやもしれません。しかし……それが全てではないと思います』


 無言で居られるという事は、先を促しておいでなのでしょうか? と、私は一抹の希望に託して言いました。


『人は、人間は……不完全さが全てではありません。成熟には、“次の地球”や“次の世界”を任せるにはまだ時もかかるでしょう。しかし、そこに、確かに我らの願いが入っています』

「それは、それをなんと呼称する。教えてくれ」


 私は、アイザから読み取ったえもいえぬ感情を表した。その一言に、この世界で見た事のこの不完全さを込めて……


『人はそれを愛と……』


 神はただ、そうか、とだけ仰り、“その地球”に天使のラッパを響かせ、黄昏の元に世界を沈められました。神々の光の光線が大地を穿ち、終末の審判など須らく有罪判決をくだし……

 “その地球”は滅んだのです。





 で、その後なのですが、私は罰せられることもなく免ぜられました。更には、あのアイザとその妻を天界に召し抱えられ、私より高い階級の天使としたのは何故なのやら……ともあれ、他の高意識体のお偉いさん方曰く「『神の描いたシナリオ』から遠くなかった結果故に、許された、いわばお前は遊ばれたのではないか」とのことでした……解せません。

 というわけで“この度の地球”でもまた、どこかの山奥でキセルを吸って、後に神の山を築きその神話体系における主神なる少年と邂逅しているであろう老人の元へ、今から直接問いただしに、文字通り飛んで参ろうと思います。

 行って文句の一つでも言わねば腹の虫が収まりません。そして、次は、せめて終末の時を遅らせられるように……





うーん

このバットエンド風味


実は

もっと人間生活や各種神話とのシンパシーとか類似点とかそういうのを書く予定だったのですが……

書こうとした瞬間思いました

「あ、やべ、これ止まらなくなる」

そしてUターンw

いつもの箇条書き小説に成りそうだったので、咄嗟に回避しました


ともあれ

今回はちと力みまくったのに思ったほど良い出来でなく

その上ぶっ続け作業で体力を消耗しきると言う

なんとも割に合わないことになってしまいました


こんな作業スケジュールに誰がした……

きっと神のせいだそうに違いn(このあとめちゃくちゃ断罪された



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