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契約とはとても重いものだ。
人と人、会社と会社、会社と人。契約の恩寵と束縛。その2つを天秤にかけて、釣り合っていると感じる者は多いのだろうか。
ヴェルド・佐藤は、ぬるくなったコーヒーの水面を見つめながら、大きくため息をついた。
それもこれも、彼の上司である七条綾乃から言い渡された仕事内容がとても面倒なものだったからだ。
-ウチが買い取る予定だった商品のサンプルの行方が分からなくなりました。その捜索及び確保をお願いします。もし、他に奪われていたなら、完全に取り返すか、完全に破壊をして下さい。サンプル品のデータについては、通話終了の3分後に携帯電話へ送ります。それに目を通し、30分後には行動を開始して下さい。-
通話が終了して既に10分が経過している。が、彼はまだそのデータを見ていない。
一介の会社員にとって上司の命令は絶対である。サラリーを得る権利を有するがゆえに、早くとりかかって、早く終わらせて、報告をする義務がある。
しかし、何故自分はこんな契約をしたのか、と考えてしまう。単に面白そうだった、それだけなのだ。そして、スカウトの際の言葉に引かれただけなのだ。
「ただの人間のくせに」
そう呟きながらも、その時の事を考えると少しだけ気分が上昇する。
そして、彼は雇用契約を結んだ。
ヴェルドにとって、契約とはとても重要なものだ。彼が生きている世界において、言葉通り”命の次に大切なモノ”だ。それは人の世界でよりも重きを置かれる。
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身長184cm、体重76kg。男。超一流企業勤務。東欧出身。茶色の髪に碧眼の中年風。ただし、くたびれ具合は尋常ではない。そして、年齢は…人外である彼にとっては意味を成さない。
この街で”ジュリアナ”だとか”アッシー、メッシー”だとかいう言葉が流行していた時代に流れ着き、ひと通り飲み食いを楽しみ、不景気になった頃に眠りについた。そして、目覚めるとこの街は大きく変容していた。その数日後に事件に巻き込まれ、今川慶龍と出会う。その際の活躍ぶりを買われ、彼にスカウトされた。
そして今に至る。
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慶龍との出会いを思い出していたら、パピルスからメッセージの受信音が聞こえてきた。
-佐藤さん。まだ送ったデータが閲覧されていないようです。早く目を通すように-
「あ、はい。すみません。ただ今」
何故かパピルスに向かってペコペコお辞儀をしてしまう。
そして、彼は重い腰を上げてデータを見る事にした。
「何と、これは…。やはり人とはえげつない生き物だ」
その口が鮫のような笑みを浮かべた。
細々投稿しないほうがいいのかな。
でも、書き溜めとかできないからなぁ。