表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

祝日でも神は働きます

作者: 吉成 けい

 私の職業は神だ。神は神でも死神だ。死神というのは、そんなに楽な仕事ではない。まず私自身は直接手を下すことが許されていない。事故、自殺、他殺、色んな工作をして人間の寿命を奪わなくてはならないからだ。まったく、面倒な職業を選んでしまった。


 今日もこれから仕事だ。







 私は交差点で信号が変わるのを待っていた。そこへ一人の女子高生が小走りで横断歩道を渡っていくのが見えた。ちょうど渡り始めたあたりで彼女のポケットから何かが落ちたのに気が付いた。駆け寄って拾ってみるとリップクリームだった。



「ちょっとそこのJK!これ落としたよ!」



 まさか自分かといった顔をして振り返った彼女に向かい優しくリップクリームを投げてあげた。見事にキャッチした彼女は笑顔で何かを言った。「ありがとう」と言っているような気がした。彼女の声をかき消している騒音が車のクラクションだと気が付いた頃には彼女は空を舞っていた。


 時の流れが普段より少し遅く感じた。彼女の側頭部が乗用車のフロントウィンドウに叩きつけられた後、その反動で身体が跳ね上がり回転しながら車の上を飛び越えていった。その際、気のせいではなく確かに二度程彼女と目があった。あれは恐怖でも苦痛でもなく、単純に驚いている目であった。彼女は自分自身の身に何が起こっているのかまだ把握していないのであろう。可哀相に。


 胴のあたりを中心として彼女はまるで扇風機の羽のように手足を回しながらやがて地面へ激突した。既に両足は本来曲がってはいけない方向に曲がっており、身体のいたるところから出血していた。彼女をはねた車は数メートル先に停止し、その運転手は彼女の姿を見て悲鳴を上げた。


 ふと気が付くと先ほど彼女に渡したはずのリップクリームが再び私の足元まで転がってきた。再度リップクリームを拾うと、今度は彼女の元まで歩いていきそっと開いていた掌に乗せた。



「ありがとう」



 今度は声が聞こえた。いや、聞こえた気がしたが正解かもしれない。私は手を合わせたあとそっとその場を後にした。人に感謝されるとは気持ちがいい事だな。


 さて、次の現場はどこだったかな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ