どうしようもない性癖
朝日に照らされ目が覚めると隣にディーの姿は見えなかった
どおりで少し肌寒いと思った
多分ディーは朝の鍛練にでも出掛けたのだろう
見た目は軽薄で中身もかなり女好きで周りの騎士からはずいぶんと軽視されているがそれ以上に努力家でもある
今まで何回も鍛練に付き合わされたしMかと思うほど自分に対してスゴく厳しい、この私をドン引きさせる程度には
しかし、ディーはそれを表に出そうとはしない
そこに女性は惹かれると私の服を部屋の前に届けに来たメイドたちが話していたのを盗み聞きしたことがある
うーん、メイドの言うことはよく分からないがディーはとてもモテるのだ、私が部屋の窓から見える鍛練場にいるディーの様子をうかがっていると必ずと言っていいほど女に声をかけられているのだ
「モテるって言ったらアイツかなぁ」
前の世界では知り合いにディー以上にモテる男がいた
私と同じ殺人鬼なのだが誰にでも好かれる奴だった
そして、付き合った女や友人となった人間を絶望の淵に叩き落としてからジワジワといたぶり殺すのだ
私なんかよりも趣味が悪い
「誰が俺よりモテるんだい?」
「あ、帰って来たんですねぇ。いえいえ前の世界にディーよりもモテる友人がいたなぁと思い出してんですよぉ」
ディーは扉にもたれ掛かって腕を組んでいた、鍛練の後ということもありラフな姿をしている。さすがイケメンずいぶんと様になるものだ
「桐にも知り合いがいたんだな」
ディーはどこか納得のがいかないのか微妙な顔をしていた、確かに今までの行動や言動を振り返るといないような素振りをしていたかもしれないが、それはあくまでも人間の知り合いということで殺人鬼に知り合いがいないとは言っていない
「あ、信じてないですねぇ」
「信じれるわけないだろ、今までの君を見てるとな」
やはり原因は私自身にあったようだ
まぁ、ただの知り合いというだけでそれ以上でも以下でもないのだから仕方がない
私は殺人を仕事にしていないのでむやみやたらに殺すから裏社会ではやっかい者扱いだし同じ殺人鬼とは趣味が合わないとかの理由もあり友達と呼べる奴は誰も存在しない
「そりゃぁ、殺人鬼に普通の友人はいないですけどぉ。これでも裏社会では顔は広い方なんですよぉ」
間違ったことは伝えてない
そんなことよりもディーが初めて殺人鬼な私のことに興味を示してくれて嬉し過ぎてニコニコしてるとなぜか苦笑いをされた
「そうしてれば普通の女の子なんだけどなぁ。桐はいつから殺人に目覚めた?」
「さぁ、気が付いたらですかねぇ。初めての殺人は五年生頃、いえ、十一歳だったと思いますよぉ。で、相手はぁ両親という他人でしたかねぇ。たった数年しかたってないんですけどぉ、あまり覚えてないものですねぇ」
よくよく考えればこちらの教育制度とは違うのだから五年生といったところでわかるはずもない
しかし、今思い返せば両親との別れは自分が思っているよりも時間がたってないことに驚いた
そもそも両親ことを思い出すのも久しぶり過ぎて顔すら思い出せない
記憶といえば私が幼い頃再婚してからずっとケンカばかりしていたことばかりだ
あまり気にしてなかったがろくでもない両親だったのかもしれない
けど、私は自我を持った時点であの二人を家族だと認識していたがこれと言った感情を抱いたことはなかった、むしろ私の空間を乱す邪魔な存在だと感じていた
殺人に至った理由も下らないもので唯一静寂で穏やかな私の空間を下らないやり取りで騒音を撒き散らしたのが気に入らなかったからと今、思うとずいぶんと幼い自分の思考が恥ずかしい
「両親と言ってもほぼ形だけのものでしたからぁ、赤の他人に近い感じでしたよねぇ。いつもケンカばっかりでぇ離婚するときにぃどっちが私を引き取るかで揉めあってたんですけどぉ、結局殺しちゃったんでぇ本当に無駄な時間を過ごすだなんて可哀想ですねぇ」
ディーは自分のことでもないのに悲しげな表情をする
別に私は悲しいわけでも寂しいわけでも同情して欲しいわけでもない
「そんな顔しないでくださいよぉ。せっかくのイケメンが台無しですよぉ」
私はディーの側に寄り頬を思いっきり引っ張る
突然の行動に驚いたのかマヌケな顔だ
「それに本当に悲しくもなんともないんですよぉ。正直あちらも私のことを子どもだと思ってなかったみたいですからぁ。今でも覚えてますよぉ、人間じゃないものをみる恐怖と軽蔑の目だけはぁ」
あまりにも悲しそうにするものだから気にすることはないと伝えるつもりだったのにさらに悲しそうな顔になった
なにが悪かったのだろうか
やはり普通は難しい
「はにゃしてくれないか」
「仕方がないですねぇ。けど、本当に私はぁなんともないんですよぉ。結局は生まれつき私の異常性が高かっただけですからぁ、この際言っときますけどぉ私にとって大切なのはディー貴方だけですよぉ。だから見捨てないでくださいねぇ」
「あぁ、桐が俺を信じてくれるならずっと側にいるよ」
半分本気、半分冗談で言ったのだがまさかディーが本気で返してくるとは思わなかった
ディーはずっとと言っているがそんなものが叶わないことは私だって知っている
いつかは好きな人ができて結婚して子どももつくり幸せな家庭を作り上げるのだろう、いや、そうでもないか世の中結婚は人生の墓場だとよく聞くからいいものでもないのかもしれない
そのときは私が助けてあげてもいいかなと思う
「もしもぉディーが悪い女に捕まったらぁ助けてあげてもいいですよぉ」
「側にいるよっていっただけなのにどうしてようなるかな」
「う~ん事故簡潔?ですかねぇ」
「君は自分が俺と結婚とかっていう考えには至らないんだね」
人間とはそういうものなのか
私はてっきり普通の人間の女の子との結婚を望んでいるとばかりだと思い込んでいた
そうかディーは私という化物とでも結婚できるのか隣人の新たな性癖を知ってしまった
「まぁ、私はぁ結婚という人生の墓場にはいるつもりは一切ないのでぇ」
「それは人それぞれだよ、桐の努力次第で墓場にも楽園にもなるよ」
「楽園ですかぁいいですねぇ。私とは縁が無さそうですけどぉ」
本心を述べたらまた悲しそうな顔になった
私のなにがそこまでディーを悲しませるのか分からない
けど、私の身の上話だけでなく異常性を知っているのにあんな顔をしたのはディーだけだ
大体の人間は私の異常性を理解すると軽蔑をしてくる、どんなに可哀想な作り話をしても悲しそうな顔をするどころか蔑まされるだけだった
そう考えるとディーもかなり特殊な考え方をするとかもしれない
気が付けばもうすぐで可愛くて愛おしい林檎ちゃんとの再会の時間が差し迫ってきた
今は我慢の時だ、もっともっと林檎ちゃんが魅力的になってこの世界にとってなくてはならなくなった瞬間に群衆の前で後ろから心臓にナイフを一突きするのだ、そのあとは死体を二人っきりで過ごせるところであまり傷を付けないように美しいこの肉体や顔が永遠に残すために腐ってしまわないようにエンバーミングをしてあげよう
そして一人じゃ寂しいだろうから沢山友達を作ってあげよう、やっぱり友達なら女の子がいいだろう、あとディーには美しくて冷たい友達を紹介してあげよう、なんたって私の大切な人だから
まだ先のことなのに考えるだけでゾクゾクする本当にたまらない、あぁ、どんなドレスに靴にアクセサリーをしてあげようか
エンバーミング…死体の長期保存法
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