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本能は殺人衝動

林檎ちゃんとは離れた部屋へと案内された目の前で小動物のようにビクビクと怯えるイリアちゃんにチョッカイをかけながら付いていけばこれでもかと言うくらいにやけた私は二階の部屋に案内され一人ではあまりにも広すぎるベットにテンションがあがり身体中に仕込んであった武器を全て外し身を委ねるればいつの間にか意識が飛んでいた

久々にまともなところで寝た気がする、気がつけばイリアちゃんの姿はどこにもない

多分私がベッドに飛び込んだ時点でいなかったのだろう、しかし懐かしい布団の感覚はウットリするほど気持ちがいい

最近は警察から姿を眩ますためにネットカェや漫画喫茶を渡り歩く日々だったし、身体中に仕込まれたナイフや針に毒にワイヤーを全て外すのも久々だった

こんなにも穏やかな気持ちになるのも何年ぶりだろうか

案外、異世界への召喚が堪えているのかもしれない

自分では図太いと思っていたけどただの思い込みでしかなかったのだろうか

懐かしいと言えばふと最近訪れていない自分の家のことを思い出す、森の中の廃屋を改造して造った我が家には美しい死体がたくさん並べてある

いくら腐らないように加工してるとは言え手入れの出来ない日々が続くと少し腐ってないか不安になりながら武器の手入れをしていく、所々刃こぼれや血痕が目立つが人を殺すにあたっては全く問題はないだろう

ぼんやりと今日見た美しい人々を思い浮かべる、こちらに居ればコレクションに事欠かないなぁとか下らないことを考えていれば暇になりゴロゴロとベットの端から端を転がる

武器の手入れもやりたいこと全てやり終えてしまいちょっとだけだが殺人衝動が芽生える

けど、決めたのだ林檎ちゃんを信用させるために少なくとも一週間は殺人はしないと


「けど、やっぱりぃ殺りたいぃ」


心の中で葛藤が始まる

折角殺すなら可愛い女の子がいいなぁとかけど立場を危うくしたくないなぁとか色々な思いが頭の中でぐるぐると渦巻く中で青々と茂る木々のことを思い出す鳥のさえずりや獣たちの目線がいくつかあったはずだ、立地の確認がてら狩りでもしてこよう。さすがに人間と同じ興奮は味わえないだろうが多少は楽しめるだろう

思い立ったが吉日、早速行動にうつす

ナイフを三本ほど持ち、テラスから飛び降りると下には一組のカップルらしき姿が見えた

けど、今の私には関係がないのでスルーしようとしたら足元にあった枝を踏んでしまった


「ありゃ~あ、やっちゃったなぁ。まぁすぐ消えるから気にしないでいいですよぉ」


一応バレてしまった以上言葉をかけておくべきだろうと思い邪魔をする意志がないことを伝え早々に撤退しようとしたが背後をとられ左肩を痛いくらいに捕まれる

この場から撤退することに気をとられていたとは言え殺人鬼が背後を取られるだなんて自分の詰めの甘さを痛感しつつ降参ポーズをとり振り向くとそこには随分と軽薄そうな男がいた、腰にはよく使い込まれた剣が下げられていることから騎士なのだろうここにいると言うことは私の護衛的な存在である可能性を考慮し見える範囲内で情報をまとめる

あまりにも喋らない私に痺れを切らしたのかあちらから口を開く


「君ってもう片方の聖女様だよね。俺、一応君の護衛に任命されたディーって言うんだヨロシクね」


やっぱり護衛なのかと少しガッカリしたいくら私が付けないでくれと頼んでも快諾していなかったのか逆に言えばそれだけ危険なことがある世界だということが分かった

他にも護衛がいないかと周囲を確認するが誰の気配もなく二人っきりだった、そう言えば女性はいつの間にいなくなったのだろうか

パッとしか見えなかったが美しい女性だったので近くに居なくてとても残念だ、今度リストに加える為に探してみよう

側に居ない女性に思いを馳せても仕方がないのでディーと名乗った男に目を向ける、第一印象としては随分と絵になる綺麗な男だと思った長く伸ばされた白銀の髪を後ろで一つに結び、蒼い瞳は楽しげに細める姿は実に月との相性がよく彼がまるで聖なる人外のように感じる

まぁ、短気なところがあるのであくまでも見た目だけの話だが

顔には出ていないがなんで俺がこんな女の護衛しなくちゃいけないんだ、どうせならあっちの聖女の方がよかったとか思ってるんだろう

私だって彼の立場なら絶対そう思う

少なくとも孤児みたいな女よりも美しい見た目と心を持っている女の方がいいに決まっている



「で、聖女様がこんなところになんの用かな」


また痺れを切らしたのか彼が口を開く、もう少しは我慢できるようになった方がいいんじゃないだろうか

しかし質問された以上は答えない訳にいかない


「決まってるじゃないですかぁ、狩りに行くんですよぉ。ディーさんは私の護衛なのにどうしところにいるんですかぁ」


「君が頼んだんだろ、部屋に人を付けるなって。だから俺は外で護衛させられてるんだよ。で、狩りに行くんだっけか。随分と野生的なんだな異世界の女様は」


近くが駄目なら護衛目的よりも離れた所で威嚇することにより守っているアピールということか、そんなことせずとも自分の身は自分で守れるから本当に必要ないのだが、心遣いということにしておこう

それよりも問題は私のせいで林檎ちゃんのことも誤解されていることだ

あんな可愛い女の子に狩りなんてさせて怪我でもしたら私の楽しみがなくなってしまうではないか、あの娘を傷付けるのは私なのだから

ここは誤解を解いておこう


「いやぁ、私が特殊なだけですぅ。前の世界では自給自足だったんでぇ」


間違ったことは言ってはいない、殺した人間の肉と財布から抜き取ったお金で過ごしていたのだから

どうやら私はカニバリズムのけがあるらしくとても美味しくいつも頂いている

やはり人肉は生に限る


「まぁ、林檎ちゃんと違って生きる知恵はあるんで心配しないでくださいねぇ。そもそも皆さん、聖女様だと思ってるのってぇ林檎ちゃんだけですよねぇ。わたしぃ傷付きますぅ」


「だろうね、見た目とか第一印象ではね」


それもそうだろう、高校にもマトモに通っておらず警察と毎日追いかけっこみたいなことをしていれば数ヶ月お風呂に入らないのも服が洗えないのも健康的な食事をすることもままならない

その結果孤児みたいな見た目になるのも当然だし

髪も面倒でいつもナイフでバッサリと適当に切ってしまうので清潔さとかは私からしたら無縁のものだ


「そうですかぁ。じゃあ、今はぁどうなんですかぁ」


自分で話を振っといてなんだが

早く殺したくて仕方がない

スゴくムズムズというかムラムラしてくる

さっきからそこそこ近い距離にいるからか前の世界ではなかなか巡り合うのない筋肉に目がいってしまう

ナイフで切ったらどんな感触がするのか想像しただけで興奮する


「そうだなぁ、やっぱり聖女には向いてないと思うな。そんなに興奮しているようじゃ」


バレてたか

まぁ、顔を赤くして息を荒くしていればすぐ分かるか

しかし、見惚れてると思われるのはシャクである

ここは私の本性を晒したほうが早いのかもしれない

彼に我慢が足りないとか言っといて何だか自分が一番堪え性がないんだと思う

殺人鬼だとバラさないとか言って数時間さっそくポロリしてしまう


「あのぉ、聞いて欲しいことがぁあるんですけどぉ」


「俺が聞けることなら」


「はいぃ、むしろ貴方だから聞いて欲しいんですぅ。わたしぃ実はぁ前の世界ではぁ殺人鬼だったんですぅ。それでぇ私とぉ殺し合いしませんかぁ」


頬を赤く染めて言うとニヤリとディーは笑う


「そっか、俺が感じてた違和感ってこれだったんだね」


確かに聖女としては違和感を感じまくりな姿をしているがこの世界にくる前に人を殺した後しっかりと漫画喫茶に備え付けてあるシャワーで臭いまで落としたつもりだったんだけどなとか思いつつ体の臭いを嗅ぐ


「あれぇ、血の臭いまだ残ってたかなぁ。一応シャワーは浴びてたんだけどなぁ」


「いや、血の臭いはしないよ。一応だが騎士の端くれなんだそうゆう人間は本能的に分かるんだよ」


不敵に笑うディーにときめく

平和そのものな日本で殺人を最近していたせいか基準がおかしくなってたみたいだ

護衛を付けなくてはいけないほど危険な世界ならそれくらい当然なのだろう

さらに言えば聖女を呼んだということはゲームのような魔王の復活や敵国との戦争である可能性は大いにある

この殺人鬼でしかなかった私が合法的に魔物か人間のどちらかを殺せると思うと脳が神経が骨が筋肉が歓喜する


「で、君は殺人鬼だと。なら、こんなところで野放しにはできないな」


「別にいいですよぉ。脱獄くらいどうってことないんでぇ」


呼吸と同じように人間を殺していれば国際指名手配になって当然で、一度だけに最悪と呼ばれる監獄に収容されたことがあるが根性と気合でなんとかなるものだと学んだ

ディーは私が本気で言っているのを察したのかピリリと相手の殺気が伝わてくる


「いいですよぉ、その殺気ぃ。興奮しますぅ」


本音を言っただけなのにディーの顔がひきつる

多分ドン引きしてるのだと思う

けど、そんなことは些細なことでしかない

今、私の本能を占めるのは殺人衝動のみ

ただ血を肉を求めナイフを手に構え、飛びかかる

結果を言えば勝負はつくことなくお互いボロボロになり、私は聖女としてではなく危険人物として鎖に繋がれ部屋から一歩も出ることは許されず一年を過ごすことになる

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